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当院に転送された
熱傷患者
についての検討
JCHO 中京病院 救急科
黒木雄一 上山昌史 大須賀章倫 中島紳史
宮尾大樹 松浦裕司 大西伸也 米田和弘
所在地:名古屋市南区
病床数:663床
救命救急センター(2003年~)
• ICU12床(うち熱傷ベッド4床)
• CCU6床
• HCU14床
屋上ヘリポート所有
8名の救急科スタッフが重症熱傷患者の主治医として全身管理
や手術を行い,状態安定後に形成外科に転科する体制をとって
いる.
熱傷患者の転送時期について
• 転送を受ける立場としては,ファーストタッチを
できるだけ早くしたい.
• しかし,熱傷の場合,搬送に耐えられる状態まで
安定化させるのに時間を要することもある.
目的
当院に転送された重症熱傷患者の
転送時期について検討する.
熱傷患者(2001-2014)
N=1306
n=933
重症熱傷?
(熱傷面積≧15%
and/or 気道熱傷)
転送?
n=365
yes
yes
対象
方法
• 診療録をもとに,受傷から当院到着までにかかった
時間を計算した.
• 転送時期に影響を与える因子について,後方視的に
検討した.
受傷から当院到着までの時間
4h未満(n=199)
55%
4-8h(n=63)
17%
8-24h(n=47)
13%
24h以上(n=56)
15%
4h未満
n=199
4h以上
n=166
P値
年齢 55 [0-94] 52 [0-93] 0.975
性別,男 (%) 131 (65) 112 (67) 0.824
熱傷面積, % 27 [0-95] 28 [0-93] 0.909
Burn Index 15 [0-95] 18 [0-90] 0.571
PBI 74 [4-165] 75 [6-150] 0.923
気道熱傷(%) 129(64) 84(50) 0.008
Burn Index (BI)= III度熱傷面積+II度熱傷面積×1/2
PBI(Prognostic BI)= 年齢+BI
値は中央値 [最小値ー最大値]で表示(以下同様)
4h未満
n=199
4h以上
n=166
P値
受傷原因 (%) 0.237
火焔 133 (66) 104 (62)
高温液体 44 (22) 34 (20)
化学 2 (1) 5 (3)
爆発 11 (5) 11 (6)
電撃傷 0 (0) 3 (1)
その他 7 (3) 9 (5)
不明 2 (1) 0 (0)
4h未満
n=199
4h以上
n=166
P値
前医での処置
気管挿管 (%) 57 (28) 64 (38) 0.057
CVC留置 (%) 13 ( 6) 20 (12) 0.097
減張切開 (%) 0 ( 0) 8 ( 5) 0.001
4h未満
n=199
4h以上
n=166
P値
転送元地域 (%) <0.001
愛知 151 (75) 73 (44)
三重 34 (17) 70 (42)
岐阜 11 (5) 14 (8)
静岡 2 (1) 5 (3)
滋賀 1 (0.5) 1 (0.6)
大阪 0 (0) 1 (0.6)
岡山 0 (0) 1 (0.6)
秋田 0 (0) 1 (0.6)
距離*(km) 24 [1-165] 42 [1-732] <0.001
*最初に受診した医療機関から当院までの陸路最短距離(Google mapを利用)
4h未満
n=199
4h以上
n=166
P値
最初に受診した医療機関 (%) 0.296
クリニック 11 (5) 9 ( 5)
2次病院 97 (48) 68 (41)
3次病院 91 (45) 89 (53)
当院までの経路 (%) <0.001
1or2次→当院 107 (53) 64 (38)
3次→当院 91 (45) 89 (53)
1or2次→3次→当院 1 (0.5) 13 ( 7)
当院までの搬送手段 (%) <0.001
救急車 166 (83) 100 (60)
ドクターヘリ 12 (6) 25 (15)
防災ヘリ 15 (7) 30 (18)
公共交通機関
または自家用車
6 (3) 11 ( 6)
4h未満
n=199
4h以上
n=166
P値
受傷曜日 (%) 0.996
月曜日 30 (15) 23 (13)
火曜日 35 (17) 29 (17)
水曜日 24 (12) 22 (13)
木曜日 29 (14) 27 (16)
金曜日 26 (13) 23 (13)
土曜日 28 (14) 22 (13)
日曜日 27 (13) 20 (12)
夜間(17-9時)受傷 (%) 98 (49) 102 (64) 0.005
多重ロジスティック回帰解析
【目的変数】
転送時期が受傷から4h以上=1,4h未満=0
【説明変数】
群間比較で有意差(P<0.05)があった変数:
「気道熱傷」「減張切開」「転送元地域」「距離」「経路」「搬送手段」
「夜間受傷」
オッズ比 95%信頼区間 P値
距離 1.020 1.010-1.030 <0.001
夜間受傷 2.080 1.290-3.340 0.002
経路:1or2次→3次→当院 9.230 1.090-78.4 0.04
経路:3次→当院 1.560 0.978-2.480 0.06
P値を用いたstepwise法による変数選択で抽出された説明変数
75.90%
80.10%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
4h未満 4h以上
救命率
P=0.39
考察
• 当院までの距離とともに,夜間の受傷は転送時期を遅らせる
要因になっていたと考えられた.
日中になるのを待ってから転送されるケースが多かったためと推察された.
• 3次病院を経由したほうが転送時期が遅かった.
救命救急センターに搬送されると,十分な初期治療を行ってから転送する
ためと推察された.
• ヘリの使用は転送時期を早める効果が認められなかった.
ヘリ搬送に耐えられる状態にまで安定化させるのに時間を要することや,
飛行可能な時間帯が限られていることが影響していたと考えられた.
結語
重症熱傷患者の転送時期には
転送距離や受傷時間帯とともに
各地域における救急医療体制が
関係していた可能性がある.

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