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Rational Clinical Examinationを読む
血液培養が必要な患者を見分ける
ポイントは?
JAMA 2012; 308: 502-511
救急医療センタースタッフ抄読会
2012.9.4
福岡敏雄
Question
• 以下の患者に血液培養は必要か?
– Case 1: 62才の女性 咳と呼吸困難、発熱を主訴にERに来院。
体温は38.4℃ 意識清明 血圧120/72, HR 86, RR 16, SpO2
(RA) 94% 血液検査上、軽度の正球性正色素性貧血はあるが
白血球数は正常範囲内 胸部レントゲンで左肺野に浸潤影を
認めた。
– Case 2: 高血圧を持つ47才の男性 膝の半月板切除術後に具
合が悪くなった。膝は発赤し動かすと痛むため動かしたがらな
かった。BP 108/56, HR 118,体温37.4℃ 膝関節は全体に腫脹
し関節液貯留が疑われた。感染性関節炎が疑われた。血液検
査で白血球は19000, 血清クレアチニンは2.1mg/dlであった。
Does This Adult Patient With Suspected
Bacteremia Require Blood Cultures?
• JAMA 2012; 308: 502-511
• Coburn B, Morris AM, Tomlinson G et al.
• The Rational Clinical Examinationシリーズ
• 現在も継続されているシリーズ
• まとめられたものが、「論理的診察の技術」と
して日経BP社から出版 2010年5月
The Rational Clinical Examination
seriesの構造
• Title:論文の扱う課題をわかりやすく提示
• Clinical Case Scenarios:実際の症例を提示
• Why is this question important
– この課題の重要性について解説
• Method
– 課題に合った論文を見つけるための検索方法・選択方法を示す
– かならず、論文の妥当性についてレベルを付ける
• Result
– まずTable 1で見つかった論文のリストを示す
– 次に、その論文の結果を集計し、可能ならメタ分析を行う
• Limitation
– その結果を現場に当てはめる場合の注意点について解説
• Scenario Resolution
– 冒頭に示した症例に対してどのような判断が行われるかを示す。多くの場合、その症
例の経過についても述べられる
Why is this question important 1
• USでは年間およそ20万件の菌血症が発生す
る。1000入院あたり10件に相当する。
• 細菌血流感染症の死亡率は、14%から37%と
報告されている。特に、ICU入室患者で死亡
率が高い。
• 細菌血流感染症とは、感染性心内膜炎、カ
テーテル関連感染、一次性菌血症、肺炎・膿
瘍・骨髄炎・尿路感染などに伴う二次性菌血
症などが含まれる。
Why is this question important 2
• 血培を採取する基準はあまり明確ではない
• 発熱、悪寒、白血球増多、感染巣の存在、セ
プシスの疑い、感染性心内膜炎の疑い、救急
外来・ICUなどで抗菌薬開始に先立って、血培
が取られる。臨床家は安易に採取している。
• 血培の陽性率は4−7%と報告されている。
• 感度は2セット90%、3セット98%とされている
Why is this question important 3
• その一方で、偽陽性が問題になる
• 50%がコンタミによる偽陽性という報告があ
る
• ある研究では、偽陽性により無駄な検査が行
われ、費用は50%増加し、入院期間も64%増
加していた。
• 現在、細菌や真菌のDNAを血中から分離す
る検査で偽陽性・偽陰性を下げることが示さ
れているが、まだ一般的に利用されていない。
今回の課題のポイント
• 発熱、あるいは白血球増多のみの場合、菌
血症の指標と考えられるか
• 血培採取時の、問診や身体所見、検査結果
などの中で、菌血症の有無が判断できるもの
があるか
• 血培を採取するかどうかを判断するために役
立つ臨床所見はあるか
菌血症を判断するために 1
• Patient History
– 発熱、悪寒、感染症の存在
– 消化管、呼吸器、泌尿生殖器、皮膚、軟部組織
の感染所見の有無
– 合併症の有無 免疫不全(悪性疾患、ステロイド
の使用、好中球減少など) 最近の侵襲的処置
留置カテーテル、血管内ディバイス、血管ルート
菌血症を判断するために 2
• Physical Examination
– バイタルサイン
– 心血管系、肺、腹部、皮膚、意識状態の評価
– すべてのカテーテル、血管内ディバイス、ドレ
ナージチューブは視認し、挿入部の皮膚を確認し、
熱感・発赤・膿性浸出液の有無を確認する
– 塞栓の所見、新たに出現した心雑音は、感染性
心内膜炎の所見かもしれない
菌血症を判断するために 3
• Laboratory Evaluation
– 検血 白血球の増多・減少、好中球増多
• 白血球の中毒顆粒や空胞形成、桿状球の出現などは、
より特異的
– 血小板減少は重症セプシスの所見であり得る
– 代謝性アシドーシス、乳酸値増加がセプシスの所
見であり得る
– 急性腎障害は多臓器不全の初期所見であり得る
– 追加検査として:尿検査、胸部レントゲン、腰椎穿
刺、腹部画像検査
Method 1
• ERあるいは入院患者での菌血症患者を見つ
けるために有用な臨床所見を検討した論文
• データベース
– EMBASEとMEDLINE 2012年4月まで
• 検索式
– (bacteremia OR ‘bloodstream infection’) AND
(predict OR prediction)
– 参考文献も検索
– 英語の教科書やレビューなどもチェック
Method 2
• 菌血症の頻度を検討した論文
• データベース
– EMBASEとMEDLINE 2012年1月まで
• 検索式
– bacteremia OR bloodstream infection
– + それぞれの病態 (例 cellulitis, pyelonephritis).
– 参考文献も検索
研究のレベル分け
• Level 1
– 前向き試験 100例を超える 連続症例で選別な
し
• Level 2
– 前向き試験 100例未満 症例はLevel 1と同様
• Level 3
– 後ろ向き試験
• Level 4
– 選別され菌血症検査が行われた患者が対象
Table 1 Study Character
• Group1 発熱患者が対象
• Group2 明確な基準で血培が取られた患者
• Group3 その他の理由で血培が取られた
• ポイント:菌血症の頻度、対象患者の背景、
研究の弱点・問題点
疾患・病態ごとの菌血症率
• Table 2
– 10%> 蜂窩織炎、外来患者、市中肺炎
– 13% 市中発熱で入院を要する患者
– 19−25% 腎盂腎炎
– 38% 重症セプシス
– 50%< 細菌性髄膜炎、セプティックショック
Table 3 臨床所見の結果
• メタ分析
– I2 heterogeneity statistic
– このの研究結果がどれだけばらついているか
• →ばらつきすぎていると、一つの結果としてまとめるこ
と自体が問題であると思われかねない
– 目安 25%ごとに切れ目がある (おおまか)
• 0−25% 異質性なし absence
• 25−50% 異質性あり 中等度 moderate
• 50-75% 異質性あり 大 large
• 75-100% 異質性あり 極度 extreme
抄読会120904
Clinical Prediction Rule 1
• Jones and Lowes
• Systemic inflammatory response syndrome
(SIRS) present with at least 2 of the following:
– Temperature <36°C or >38°C
– Heart rate >90/min
– Respiratory rate >22/min OR pCO2 <32 mm Hg
on arterial blood gas
– White blood cell count <4000/μL or >12 000/μL
OR >10% immature neutrophils (band forms)
Clinical Prediction Rule 2
• Shapiro et al.
• Blood culture indicated if 1 major OR 2 minor of the following:
• Major
• Suspicion of endocarditis
• Temperature >39.4°C
• Indwelling catheter
• Minor
• Temperature 38.3°C-39.3°C
• Age >65 years
• Chills
• Vomiting
• Systolic blood pressure <90 mm Hg
• White blood cell count>18 000/μL
• Creatinine >2 mg/dL (> 177 μmol/L)
SIRSと、ShapiroのClinical Prediction
Ruleの感度・特異度
Scenario Resolution Case 1
• Case 1: 62才の女性 咳と呼吸困難、発熱を主訴にERに来
院。体温は38.4℃ 意識清明 血圧120/72, HR 86, RR 16,
SpO2 (RA) 94% 血液検査上、軽度の正球性正色素性貧
血はあるが白血球数は正常範囲内 胸部レントゲンで左
肺野に浸潤影を認めた。
• 菌血症のリスクの低い感染症であり、SIRSの基準の1項目
しか満たしてない。市中肺炎の、菌血症の事前確率は7%
程度。SIRSもShapiroの基準も満たしていない(LR 0.09 or
0.08)。菌血症の確率は0.67%であり、偽陽性率をはるか
に下回るので、血液培養は採取すべきではない。
Scenario Resolution Case 2
• Case 2: 高血圧を持つ47才の男性 膝の半月板切除術後に
具合が悪くなった。膝は発赤し動かすと痛むため動かしたが
らなかった。BP 108/56, HR 118,体温37.4℃ 膝関節は全体に
腫脹し関節液貯留が疑われた。感染性関節炎が疑われた。
血液検査で白血球は19000, 血清クレアチニンは2.1mg/dlで
あった。
• 頻脈があり、膝関節に関節液貯留と痛み、血清クレアチニン
の上昇がある。熱はないが、SIRSの基準を満たしている(頻
脈と白血球増多)。感染の所見があり、臓器不全の所見も
伴っている(重症セプシスの所見)。Shapiroの基準も満たす。
熱はないが、診断のために血液培養は採取すべきである。
Clinical Bottom Line
• 「菌血症が疑われる成人患者において、どのよう
な場合に血液培養を採取すべきか」
– 菌血症の事前確率は病態によって大きく異なる。
– 菌血症の事前確率低い患者においては、発熱や白
血球増多のみで血培を採取すべきではない。
– SIRSやShapiroの基準は低リスクの患者を判断する上
で役に立つと思われる。ただ、前向き研究による妥
当性の検証が必要である。
– 免疫不全患者や感染性心内膜炎が疑われる患者に
ついて、これらの結果を当てはめるべきではない。

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  • 1. Rational Clinical Examinationを読む 血液培養が必要な患者を見分ける ポイントは? JAMA 2012; 308: 502-511 救急医療センタースタッフ抄読会 2012.9.4 福岡敏雄
  • 2. Question • 以下の患者に血液培養は必要か? – Case 1: 62才の女性 咳と呼吸困難、発熱を主訴にERに来院。 体温は38.4℃ 意識清明 血圧120/72, HR 86, RR 16, SpO2 (RA) 94% 血液検査上、軽度の正球性正色素性貧血はあるが 白血球数は正常範囲内 胸部レントゲンで左肺野に浸潤影を 認めた。 – Case 2: 高血圧を持つ47才の男性 膝の半月板切除術後に具 合が悪くなった。膝は発赤し動かすと痛むため動かしたがらな かった。BP 108/56, HR 118,体温37.4℃ 膝関節は全体に腫脹 し関節液貯留が疑われた。感染性関節炎が疑われた。血液検 査で白血球は19000, 血清クレアチニンは2.1mg/dlであった。
  • 3. Does This Adult Patient With Suspected Bacteremia Require Blood Cultures? • JAMA 2012; 308: 502-511 • Coburn B, Morris AM, Tomlinson G et al. • The Rational Clinical Examinationシリーズ • 現在も継続されているシリーズ • まとめられたものが、「論理的診察の技術」と して日経BP社から出版 2010年5月
  • 4. The Rational Clinical Examination seriesの構造 • Title:論文の扱う課題をわかりやすく提示 • Clinical Case Scenarios:実際の症例を提示 • Why is this question important – この課題の重要性について解説 • Method – 課題に合った論文を見つけるための検索方法・選択方法を示す – かならず、論文の妥当性についてレベルを付ける • Result – まずTable 1で見つかった論文のリストを示す – 次に、その論文の結果を集計し、可能ならメタ分析を行う • Limitation – その結果を現場に当てはめる場合の注意点について解説 • Scenario Resolution – 冒頭に示した症例に対してどのような判断が行われるかを示す。多くの場合、その症 例の経過についても述べられる
  • 5. Why is this question important 1 • USでは年間およそ20万件の菌血症が発生す る。1000入院あたり10件に相当する。 • 細菌血流感染症の死亡率は、14%から37%と 報告されている。特に、ICU入室患者で死亡 率が高い。 • 細菌血流感染症とは、感染性心内膜炎、カ テーテル関連感染、一次性菌血症、肺炎・膿 瘍・骨髄炎・尿路感染などに伴う二次性菌血 症などが含まれる。
  • 6. Why is this question important 2 • 血培を採取する基準はあまり明確ではない • 発熱、悪寒、白血球増多、感染巣の存在、セ プシスの疑い、感染性心内膜炎の疑い、救急 外来・ICUなどで抗菌薬開始に先立って、血培 が取られる。臨床家は安易に採取している。 • 血培の陽性率は4−7%と報告されている。 • 感度は2セット90%、3セット98%とされている
  • 7. Why is this question important 3 • その一方で、偽陽性が問題になる • 50%がコンタミによる偽陽性という報告があ る • ある研究では、偽陽性により無駄な検査が行 われ、費用は50%増加し、入院期間も64%増 加していた。 • 現在、細菌や真菌のDNAを血中から分離す る検査で偽陽性・偽陰性を下げることが示さ れているが、まだ一般的に利用されていない。
  • 9. 菌血症を判断するために 1 • Patient History – 発熱、悪寒、感染症の存在 – 消化管、呼吸器、泌尿生殖器、皮膚、軟部組織 の感染所見の有無 – 合併症の有無 免疫不全(悪性疾患、ステロイド の使用、好中球減少など) 最近の侵襲的処置 留置カテーテル、血管内ディバイス、血管ルート
  • 10. 菌血症を判断するために 2 • Physical Examination – バイタルサイン – 心血管系、肺、腹部、皮膚、意識状態の評価 – すべてのカテーテル、血管内ディバイス、ドレ ナージチューブは視認し、挿入部の皮膚を確認し、 熱感・発赤・膿性浸出液の有無を確認する – 塞栓の所見、新たに出現した心雑音は、感染性 心内膜炎の所見かもしれない
  • 11. 菌血症を判断するために 3 • Laboratory Evaluation – 検血 白血球の増多・減少、好中球増多 • 白血球の中毒顆粒や空胞形成、桿状球の出現などは、 より特異的 – 血小板減少は重症セプシスの所見であり得る – 代謝性アシドーシス、乳酸値増加がセプシスの所 見であり得る – 急性腎障害は多臓器不全の初期所見であり得る – 追加検査として:尿検査、胸部レントゲン、腰椎穿 刺、腹部画像検査
  • 12. Method 1 • ERあるいは入院患者での菌血症患者を見つ けるために有用な臨床所見を検討した論文 • データベース – EMBASEとMEDLINE 2012年4月まで • 検索式 – (bacteremia OR ‘bloodstream infection’) AND (predict OR prediction) – 参考文献も検索 – 英語の教科書やレビューなどもチェック
  • 13. Method 2 • 菌血症の頻度を検討した論文 • データベース – EMBASEとMEDLINE 2012年1月まで • 検索式 – bacteremia OR bloodstream infection – + それぞれの病態 (例 cellulitis, pyelonephritis). – 参考文献も検索
  • 14. 研究のレベル分け • Level 1 – 前向き試験 100例を超える 連続症例で選別な し • Level 2 – 前向き試験 100例未満 症例はLevel 1と同様 • Level 3 – 後ろ向き試験 • Level 4 – 選別され菌血症検査が行われた患者が対象
  • 15. Table 1 Study Character • Group1 発熱患者が対象 • Group2 明確な基準で血培が取られた患者 • Group3 その他の理由で血培が取られた • ポイント:菌血症の頻度、対象患者の背景、 研究の弱点・問題点
  • 16. 疾患・病態ごとの菌血症率 • Table 2 – 10%> 蜂窩織炎、外来患者、市中肺炎 – 13% 市中発熱で入院を要する患者 – 19−25% 腎盂腎炎 – 38% 重症セプシス – 50%< 細菌性髄膜炎、セプティックショック
  • 17. Table 3 臨床所見の結果 • メタ分析 – I2 heterogeneity statistic – このの研究結果がどれだけばらついているか • →ばらつきすぎていると、一つの結果としてまとめるこ と自体が問題であると思われかねない – 目安 25%ごとに切れ目がある (おおまか) • 0−25% 異質性なし absence • 25−50% 異質性あり 中等度 moderate • 50-75% 異質性あり 大 large • 75-100% 異質性あり 極度 extreme
  • 19. Clinical Prediction Rule 1 • Jones and Lowes • Systemic inflammatory response syndrome (SIRS) present with at least 2 of the following: – Temperature <36°C or >38°C – Heart rate >90/min – Respiratory rate >22/min OR pCO2 <32 mm Hg on arterial blood gas – White blood cell count <4000/μL or >12 000/μL OR >10% immature neutrophils (band forms)
  • 20. Clinical Prediction Rule 2 • Shapiro et al. • Blood culture indicated if 1 major OR 2 minor of the following: • Major • Suspicion of endocarditis • Temperature >39.4°C • Indwelling catheter • Minor • Temperature 38.3°C-39.3°C • Age >65 years • Chills • Vomiting • Systolic blood pressure <90 mm Hg • White blood cell count>18 000/μL • Creatinine >2 mg/dL (> 177 μmol/L)
  • 22. Scenario Resolution Case 1 • Case 1: 62才の女性 咳と呼吸困難、発熱を主訴にERに来 院。体温は38.4℃ 意識清明 血圧120/72, HR 86, RR 16, SpO2 (RA) 94% 血液検査上、軽度の正球性正色素性貧 血はあるが白血球数は正常範囲内 胸部レントゲンで左 肺野に浸潤影を認めた。 • 菌血症のリスクの低い感染症であり、SIRSの基準の1項目 しか満たしてない。市中肺炎の、菌血症の事前確率は7% 程度。SIRSもShapiroの基準も満たしていない(LR 0.09 or 0.08)。菌血症の確率は0.67%であり、偽陽性率をはるか に下回るので、血液培養は採取すべきではない。
  • 23. Scenario Resolution Case 2 • Case 2: 高血圧を持つ47才の男性 膝の半月板切除術後に 具合が悪くなった。膝は発赤し動かすと痛むため動かしたが らなかった。BP 108/56, HR 118,体温37.4℃ 膝関節は全体に 腫脹し関節液貯留が疑われた。感染性関節炎が疑われた。 血液検査で白血球は19000, 血清クレアチニンは2.1mg/dlで あった。 • 頻脈があり、膝関節に関節液貯留と痛み、血清クレアチニン の上昇がある。熱はないが、SIRSの基準を満たしている(頻 脈と白血球増多)。感染の所見があり、臓器不全の所見も 伴っている(重症セプシスの所見)。Shapiroの基準も満たす。 熱はないが、診断のために血液培養は採取すべきである。
  • 24. Clinical Bottom Line • 「菌血症が疑われる成人患者において、どのよう な場合に血液培養を採取すべきか」 – 菌血症の事前確率は病態によって大きく異なる。 – 菌血症の事前確率低い患者においては、発熱や白 血球増多のみで血培を採取すべきではない。 – SIRSやShapiroの基準は低リスクの患者を判断する上 で役に立つと思われる。ただ、前向き研究による妥 当性の検証が必要である。 – 免疫不全患者や感染性心内膜炎が疑われる患者に ついて、これらの結果を当てはめるべきではない。