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京極：信念対立解明アプローチIn緩和ケアセミナー20131119
- 1. 緩和ケアにおける 信念対立解明アプローチ・入門 京極 真 吉備国際大学大学院保健科学研究科・准教授 E-‐mail: kyougoku@kiui.ac.jp Twi5er ID: MaKver2
- 5. 信念対立とは？ • 信念対立とは、自分 にとって当たり前の認 識／行為がうまく通じ ないと感じられる状態 で生じる問題である • 信念対立は様々な領 域で、医療従事者も 患者も家族も体験して いる 京極真：信念対立解明アプロー チ入門．中央法規出版、2012
- 6. 信念対立の厄災 知的リソースの大 半が感情問題の 処理に消費されて しまい、信念対立 の対処に失敗し続 ける悪循環に陥る 傾向がある 京極真：信念対立解明アプロー チ入門．中央法規出版、2012
- 8. 緩和ケアとは？ • 緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題 に直面している患者とその家族に対して、痛 みやその他の身体的問題、 心理社会的問題、 スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確 なアセスメントと対処（治療・処置）を行うこと によって、 苦しみを予防し、和らげることで、 QOLを改善するアプローチである チーム医療 WHO(2002）
- 11. 信念対立事例 その１ 研修会講師の稟議書類の提出期限 が過ぎている 期限を過ぎると、判子を押してもらう ために、私が役職に書類を持って説 明にいかないといけない 何で役職の私が平のお前に使われ なければならないんだ 断りの連絡を入れる！ 事務長 依頼自体が期限ギリギリだった すでにメールで快諾の返事を送ってし まっているから今さら断れない 断りの連絡されるのは困る 役職も平もないでしょうに 〆切後に書類を提出したぐらいで、そ んなに怒らなくてもよいのでは？ メディカルスタッフ • 事務長は「ルール厳守」「権力の行使」「めんどくさい」等、メディカルスタッフは「研修会 講師に行きたい」「今さら断れない」等のという認識を強く持っている • 事務長から一方的に怒られて、にっちもさっちもいかなくなっている
- 12. 信念対立事例 その２ 少し前から身体がかゆい。 入院前、介護していたお婆ちゃんが疥癬に なったけど、それが移ったのかしら。 お婆ちゃんは疥癬になったとき、ショートステイ の利用を断られた。 主治医に身体のかゆみを相談したいけど、そ んなことしたら病院から追い出されると思う。 かゆくて辛いけど我慢するしかない。 • 過去の「疥癬＝ショートステイ拒否」という体験から、「身体 のかゆみ＝疥癬＝強制退院」という認識を形成した • その結果、主治医にも看護師にも家族にも「身体のかゆ み」を相談できず、数日間ひとりで思い悩んでいた 58歳、女性 肺腺癌ステージ４
- 13. 信念対立事例 その３ 62歳、男性 食道癌ステージ４ 患者は食べることに意欲が あるけど、以前の内視鏡検 査が苦しかったので二度と やりたくないと言っていた。 ステント治療は患者のQOL を下げるかもしれない。 栄養は中心静脈で行い、苦 痛の少ない治療でQOL向上 した方がいい。 医師は治療よりも他にやる ことがあるのでは？ 看護師 患者はほとんど食べられない にもかかわらず、食べることに 対して意欲を持っている。 苦しい闘病生活でも意欲を持 てることがあるんだから、ステ ント治療を導入して意欲を満 たして、残された生活のQOL 向上につなげたい。 看護師は治療に対して消極的 すぎるのでは？ • QOLの向上という共通目標があるものの、妥当だと思う方 法の違いによって信念対立が生じている • 綿密な連携が必要な時期なのに、率直な意見交換ができ ない状態に陥っていた 医師
- 14. 信念対立の解き方 • 信念対立は「自分にとっての当たり前がうまく 通じない」という感覚が起点になって生じる問 題である • したがって、信念対立を解くためには以下の ２点が必要になる 1. いろんな認識／行為があると気づけること 2. さまざまな認識／行為の調整ができること ↓
- 17. 信念対立解明アプローチ • 信念対立解明アプローチのエッセンス 1. いろんな認識／行為があると気づけること 2. さまざまな認識／行為の調整ができること • 信念対立解明アプローチは、信念対立の内実 にあわせて多様な実践法がある → 独自の実践法としての信念対立解明アプローチ • 上記のエッセンスを満たせるなら、非暴力コミュ ニケーション、U理論等の他の実践も活用する → オペレーションシステムとしての信念対立解明アプローチ
- 22. いろんな認識／行為があると気づけること • 信念対立を克服するには、状況と目的によっ て認識／行為は異なると気づく必要がある • 理想は、信念対立に関係する人人が状況と 目的に気づくこと • ひとりだけでも気づけば、信念対立の発生の 仕方が変わる • さしあたり、まずは自分から！
- 23. いろんな認識／行為があると気づけること • 状況に気づくコツ – 信念対立が生じた状況に意識を向ける – 具体的な事実をよく振り返って考える – 状況を言葉で言い当てる • 目的に気づくコツ – 自身の実践に対して「何のために？」と問う – 目的を持つに至った経緯と理由を内省する – 目的を言葉で言い当てる
- 24. いろんな認識／行為があると気づけること • 自分の状況と目的に気づいたら、他の人がそ れに気づけるように促してみよう • 状況に気づいてもらうコツ – 「どういう状況？」「きっかけは？」「何があった の？」「具体的に教えてくれる？」等と問いかける – 価値判断よりも事実に密着する • 目的に気づいてもらうコツ – 「目的は？」「理由は何かな？」「何を意図してい るの？」「何のために？」等と問いかける
- 25. 状況と目的に気づく利点 • 自分にとっての当たり前は、特定の状況、特 定の目的でしか妥当しないと理解できる • 人間の認識／行為は、状況と目的に応じて 異なるから、自分にとっての当たり前を過度 に一般化できないと理解できる • 信念対立が生じたときに（生じそうになったと きに）、人人によって認識／行為は異なるか ら対立してもしょうがないと思えるようになる etc
- 26. さまざまな認識／行為の調整ができること • 人によって認識／行為が異なると理解したうえ で連携を進めるには、状況と目的の吟味と共有 が必要である • 人人の連携を促進できるよう、吟味を通してより 妥当な状況認識、共通目的を探ってみる • 状況と目的の共有は他者理解の基本である • 連携は状況と目的を踏まえて目的達成に役立 ちそうな方法を活用する、という視点で進める
- 27. さまざまな認識／行為の調整ができること • 状況を吟味・共有するコツ – それぞれの状況について話しあう – 認識した状況に整合性はあるかを問う – よりつじつまの合う状況を把握していく • 目的を吟味・共有するコツ – それぞれの目的について話しあう – 病院や医療の理念に照らして、それらの目的は 妥当かどうかを問う – より納得しあえる目的を把握していく
- 28. さまざまな認識／行為の調整ができること • 調整のコツ – 方法（認識／行為）にこだわらない – 共有した状況と目的を踏まえて、目的の達成に 向けて柔軟に方法をつむいでいく • 方法にこだわらないコツ – 価値判断の一旦停止である – 「〜であるべき」「〜でなければならない」という志 向はいったん脇におき、目的達成に使えそうな方 法を検討、採用していく
- 29. 信念対立解明アプローチの使い方 • 信念対立解明アプローチでは、信念対立が 発生したり、予見されたら、状況、目的、認識 ／行為の観点から分析し、状況や目的を確 認したり、状況と目的と認識／行為の吟味を 通して実践を調整していく • それによって信念対立解明アプローチでは、 信念対立の軽減、予防を行い、人人のQOLを 向上させる
- 30. 信念対立事例 その１ 緩和ケア研修会講師の稟議書類の 提出期限が過ぎている 期限を過ぎると、判子を押してもらう ために、私が役職に書類を持って説 明にいかないといけない 何で役職の私が平のお前に使われ なければならないんだ 断りの連絡を入れる！ 事務長 依頼自体が期限ギリギリだった すでにメールで快諾の返事を送ってし まっているから今さら断れない 断りの連絡されるのは困る 役職も平もないでしょうに 〆切後に書類を提出したぐらいで、そ んなに怒らなくてもよいのでは？ メディカルスタッフ • 事務長は「ルール厳守」「権力の行使」「めんどくさい」等、メディカルスタッフは「研修会 講師に行きたい」「今さら断れない」等のという認識を強く持っている • 事務長から一方的に怒られて、にっちもさっちもいかなくなっている
- 31. 信念対立事例 その１ 続き • 状況：事務長は「ルール違反を問題視」「余分 な仕事の増加の懸念」、メディカルスタッフは 「講師を快諾してしまった」という状況にいる • 目的：事務長は「ルールの遵守」「立場の維 持」「仕事を増やしたくない」、メディカルスタッ フは「講師に行く」という目的がある • 認識／行為：事務長は激怒、メディカルスタッ フはひたすらお願いしている 事務長は「断ることもできる！」と豪語し ているけど、依頼主との利害関係を理解 していない様子だった 事務長 メディカル スタッフ
- 32. 信念対立事例 その１ 続き • 事務長の怒りを静めるために、「状況を教えてく ださい」（状況）、「意図を教えてください」（目的） 等について話すよう促した • 依頼主との利害関係を理解していない様子だっ たので、依頼主の病院には当院の医師が診察 で行ったり、患者の転院受け入れもしてくれたり、 いろいろ利害関係があって無理に断ると支障が でる可能性がある等の状況共有を進めた • 事務長も話しているうちに気分が落ち着き、研修 会講師に行けるよう事務処理を進めてくれた
- 33. 信念対立事例 その２ 少し前から身体がかゆい。 入院前、介護していたお婆ちゃんが疥癬に なったけど、それが移ったのかしら。 お婆ちゃんは疥癬になったとき、ショートステイ の利用を断られた。 主治医に身体のかゆみを相談したいけど、そ んなことしたら病院から追い出されると思う。 かゆくて辛いけど我慢するしかない。 • 過去の「疥癬＝ショートステイ拒否」という体験から、「身体 のかゆみ＝疥癬＝強制退院」という認識を形成した • その結果、主治医にも看護師にも家族にも「身体のかゆ み」を相談できず、数日間ひとりで思い悩んでいた 58歳、女性 肺腺癌ステージ４
- 34. 信念対立事例 その２ 続き • 状況：患者は「身体のかゆみ＝疥癬＝強制 退院」という状況に置かれていると思っている • 目的：緩和ケアの身体的問題、 心理社会的 問題、スピリチュアル的問題に対処するとい う目的が伝わっていない • 認識／行為：患者は強制退院が非常に不安 で、「身体のかゆみ」を訴えずに黙っている 作業療法士が患者に深刻な表情をして いる理由を丁寧に繰り返し聞いて「身体 のかゆみ」で悩んでいることがわかった 58歳、女性 肺腺癌ステージ４
- 35. 信念対立事例 その２ 続き • 作業療法士から主治医に報告し、主治医に 患者を診察してもらった • 身体のかゆみは疥癬でも癌でもなく乾燥によ るものである可能性が考えられた • 患者の不安を減少させるため、緩和ケアの目 的を再確認し、疥癬＝強制退院という状況で はないと伝えた • 患者はかゆみが軽減され、安心した様子で 過ごすようになった
- 36. 信念対立事例 その３ 62歳、男性 食道癌ステージ４ 患者は食べることに意欲が あるけど、以前の内視鏡検 査が苦しかったので二度と やりたくないと言っていた。 ステント治療は患者のQOL を下げるかもしれない。 栄養は中心静脈で行い、苦 痛の少ない治療でQOL向上 した方がいい。 医師は治療よりも他にやる ことがあるのでは？ 看護師 患者はほとんど食べられない にもかかわらず、食べることに 対して意欲を持っている。 苦しい闘病生活でも意欲を持 てることがあるんだから、ステ ント治療を導入して意欲を満 たして、残された生活のQOL 向上につなげたい。 看護師は治療に対して消極的 すぎるのでは？ • QOLの向上という共通目標があるものの、妥当だと思う方 法の違いによって信念対立が生じている • 綿密な連携が必要な時期なのに、率直な意見交換ができ ない状態に陥っていた 医師
- 37. 信念対立事例 その３ 続き • 状況：医師は患者の食事に対する意欲、看護 師は患者の内視鏡検査に対する苦痛、という 状況に着目している • 目的：患者のＱＯＬ向上という共通目標がある 認識／行為：医師はステント治療を行いたい、 看護師は中心静脈栄養で対応した方が良い、 と思っている。お互いに率直な意見交換がで きなくなっている 率直な意見交換ができないのは、患者のＱＯＬ向上につなが らないのでは？と問いかけ、意見交換を促進した
- 38. 信念対立事例 その３ 続き • 医師と看護師の意見交換で、患者が内視鏡 検査に対する苦痛を医師に伝えていなかった と判明した • 癌の進行や予後、患者と家族の意向を踏ま えて、最終的には中心静脈栄養で対応するこ とになった • 医師と看護師のわだかまりは減少し、患者も これ以上の苦痛を味わう心配が減少した
- 39. 信念対立解明アプローチのまとめ • 信念対立解明アプローチの目的は、信念対 立の軽減と予防を通して人人のＱＯＬ向上に 貢献することである • 基本原理：あらゆる認識／行為は状況と目的 に相関的に規定される 1. いろんな認識／行為があると気づけること 2. さまざまな認識／行為の調整ができること • 信念対立の内実に応じてさまざまな対応の仕 方がある
- 40. 大学院生募集中 • 吉備国際大学大学院保健科学研究科博士課程、 修士課程では大学院生を募集しています • 現在、京極研では博士課程３名、修士課程５名 の大学院生が研究に取り組んでいます • 医療保健福祉関係であり、信念対立解明アプ ローチに関する研究テーマであれば職種は問い ません • 関心がある方はぜひ kyougoku@kiui.ac.jp まで ご連絡ください