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1.
EBM‘ 超’実践法 エビデンスを患者に役立てるため に 名郷直樹
2.
自己紹介 1986 年 自治医大卒
同年 名古屋第二赤十字病院研修医 1988 年 作手村国保診療所 1992 年 自治医大地域医療学 1995 年 作手村国保診療所 2003 年 社)地域医療振興協会 東京北社会保険病院臨床研修セン ター 2011 年 武蔵国分寺公園クリニック 専門領域 医者
3.
クリニックでの仕事 1 日 70
人 -150 人程度の外来 50% が小児、 10% が予防注射 50 人程度の在宅患者 20% が末期がん患者 平均訪問期間 63 日
4.
このセッションの内容 がん検診についての EBM の実践の一例 5
つのステップ PECO 、真のアウトカム 歩きながら論文を読む:メタ分析編 相対危険、スクリーニング必要数、害必要 数、 LHH 相対利益 がん検診の負の側面 実際の臨床現場にエビデンスをどう活かすか
5.
患者シナリオ 42 歳女性 乳がんの家族歴なし 乳がん検診は毎年受けたほうがいいのでし ょうか?
6.
患者シナリオ 76 歳女性 高血圧、糖尿病で通院中 乳がん検診は受けたほうがいいのでしょう か?
7.
2013/9/13 新聞記事
8.
EBM の 5
つのステップ 1. 2. 3. 4. 5. 問題の定式化 問題についての情報収集 得られた情報の批判的吟味 情報の患者への適用 1-4 のステップの評価
9.
Step1. 問題の定式化 Patient :どんな患者に Exposure
:どのような治療、検査をしたら Comparison :どんな治療、検査と比べ Outcome :どうなるか
10.
Step1. 問題の定式化 Patient :
40 代の女性で、あるいは 70 代の女性で Exposure :乳がん検診を受けるのと Comparison :受けないのと比べて Outcome : マンモグラフィの感度・特異度は 乳がんによる死亡は 減少するか 寿命は延びるか 幸せになるか
11.
EBM の 5
つのステップ 1. 2. 3. 4. 5. 問題の定式化 問題についての情報収集 得られた情報の批判的吟味 情報の患者への適用 1-4 のステップの評価
12.
乳がんガイドライン 2008 40 歳代 0.85
( 0.73 ~ 0.98 ) 50 歳以上 RR 推奨度 B 推奨度 A RR 0.78 ( 0.70 ~ 0.85 ) 年齢の上限は設けられていない これで態度を決めてもいいのですが 今日はガイドラインの記述でいいのかどう か、吟味してみます
13.
PubMed 検索: Clinical
Queries
14.
15.
PubMed の Clinical
Queries を使う Breast cancer, screening, mammography
16.
検索された論文 Gøtzsche PC, Nielsen
M. Screening for breast cancer with mammography. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jan 19;1:CD001877. PubMed PMID: 21249649.
17.
さらに日本語で情報を得たい CMEC-TV ビデオ配信によるエビデンスの情報提供(無料) CMEC ジャーナルクラブ Community Medicine
Evidence Center 編集部が提 供する英語論文(ランダム化比較試験、メタアナ リシス)の日本語要約の提供サービス 5250 円 / 年 http://www.cmec.jp/
18.
CMEC ジャーナルクラブ
19.
EBM の 5
つのステップ 1. 2. 3. 4. 5. 問題の定式化 問題についての情報収集 得られた情報の批判的吟味 情報の患者への適用 1-4 のステップの評価
20.
3 つの批判的吟味 研究方法は妥当か 結果は何か 患者に役立つか
21.
歩きながら論文を読む:メタ分析 編 研究方法は妥当か? 論文のPECOを読む ランダム化比較試験のメタ分析かを読む 結果は何か? 一次アウトカムの結果を読む
22.
論文の PECO P:
39 ~ 69 歳の女性 E: マンモグラフィによる乳がん検診 毎年 3 試験、 18-24 カ月ごと 1 試験 C: 検診なし O: 乳がんによる死亡 ( 13 年間) ランダム化比較試験( RCT) のメタ分析 質の高い RCT は 4 つ
23.
結果 1 :
13 年追跡での乳がん死亡 質が低いものも含む9つの RCT 39 ~ 69 歳 50 歳未満 RR 0.84 ( 0.73 ~ 0.96 ) 50 歳以上 RR 0.81 ( 0.74 ~ 0.87 ) RR 0.77 ( 0.69 ~ 0.86 ) 日本のガイドラインと矛盾しない
24.
結果を実数でみる 558/297812 VS
747/318515 乳がん死亡が 0.23 %から 0.19 %に減少 絶対リスク減少 : 0.04 % メタ分析による明確なエビデンス? ガイドラインの推奨度に矛盾しない?
25.
結果 2 :適切な
RCT に限ると 39 ~ 69 歳 RR 0.90 ( 0.79 ~ 1.02 ) 50 歳未満 50 歳以上 RR 0.87 ( 0.73 ~ 1.03 ) RR 0.94 ( 0.77 ~ 1.15 ) はっきりしない結果 質の高いものと低いものとどちらを信用する か?
26.
27.
50 歳未満で
28.
50 歳から 69
歳で
29.
また別の角度で:相対利益 イベントを起こしていないもので比較してみる 297254/297812 vs
317768/318515 乳がん死亡なしが、 99.77 %から 99.81 % に増加 Relative Benefit 1.0005 (1.0002-1.0007) 乳がんで死亡しない確率が 1.0005 倍になります
30.
結果のまとめ 乳がん検診の効果はあるとしても小さい 13 年で乳がんで死ぬ人は対照群でも 0.2% 質の高い研究ほど小さな効果 13
年では乳がん死亡は少ない 検診でなくとも早期発見が可能で、もともと 予後がよい乳がんの検診効果は小さい 検診をやる前からそれは自明
31.
EBM の 5
つのステップ 1. 2. 3. 4. 5. 問題の定式化 問題についての情報収集 得られた情報の批判的吟味 情報の患者への適用 1-4 のステップの評価
32.
患者シナリオ 42 歳女性 乳がんの家族歴なし 乳がん検診は毎年受けたほうがいいのでし ょうか?
33.
患者シナリオ 76 歳女性 高血圧、糖尿病で通院中 乳がん検診は受けたほうがいいのでしょう か?
34.
あなたならどうする? あなたが主治医だったとして、患者にどう説 明するか、考えてみましょう あなたが患者だったとして、乳がん検診を受 けるかどうか 周りの人と話し合ってみましょう
35.
さらに別の角度で 全乳がん患者で考える 絶対数として助かる乳がん患者 乳がん死亡率 10 人
/10 万( 1 年) 1000 万人の女性がいると 1000 人が乳がん死 10 %の乳がん死亡の減少 1000 万人の女性で 100 人の乳がん死亡が減少 1 億人の女性で 1000 人の乳がん死亡が減少
36.
患者への適用の公式 1. 2. 3. 論文の患者と目の前の患者は結果が適用 できないほど異なっていないか? 臨床上重要なすべてのアウトカムが評価 されたか? コストや害を上回る効果が期待できるか ?
37.
論文の患者と目の前の患者のギャッ プ 論文 39 ~ 69
歳 欧米人 検診間隔 毎年から 1.5-2 年毎まで様々 目の前の患者 40 代、 70 代 日本人
38.
様々なアウトカム 乳がんによる死亡 寿命 不安、憂うつ 幸せ コストと害
39.
総死亡で RR 0.99
( 0.95 ~ 1.03 )
40.
コスト がん検診の受診料 公費負担 検診提供側のコスト 精査のためのコスト
41.
害について 検診結果を待つ不安 偽陽性で憂うつ 誤診の危険は? 被爆によるがんの危険は? 診断後の治療による害の危険は? 誤診のためにがんにされてしまったり マンモグラフィーの被爆でがんになる人がいる 乳がんの治療により別の疾患が増えるかもしれな い
42.
偽陽性と biopsy が行われる率 40
代 60 台 97.8/1000 検診が偽陽性 9.3/1000 検診に biopsy 79.0/1000 検診が偽陽性 11.6/1000 検診に biopsy 80 代 64.0/1000 検診が偽陽性 12.2/1000 検診に biopsy Ann Intern Med 2009; 151: 727
43.
がんの罹患 RR 1.25
( 1.18 ~ 1.34 )
44.
乳房切除 RR 1.20
( 1.08 ~ 1.32 )
45.
放射線治療 RR 1.24
( 1.04 ~ 1.49 )
46.
乳がんと診断された患者での乳がん 以外のガン死亡 RR 2.42
( 1.00 ~ 5.85 )
47.
その他の結果のまとめ 死亡 0.99 ( 0.97
~ 1.01 ) 乳房切除 1.20 ( 1.08 ~ 1.32 ) 放射線治療 1.24 ( 1.04 ~ 1.49 ) がんの罹患 1.25 ( 1.18 ~ 1.34 ) 乳がん以外のがん死亡 2.42 ( 1.00 ~ 5.85 )
48.
NNS を計算する Number Needed
to Screen 何人検診を受けると、検診のおかげで 1 人のがん 死亡を予防できるか 39 ~ 69 歳 558/297812 VS 747/318515 NNT ( 13 年) 2121 ( 1428 ~ 4119 )
49.
NNH を計算する NNH :
Number Needed to Harm 害必要数 何人検診を受けると検診のために有害事象が発生 するか 乳房切除について 1542/ 145536 vs 969 /104943 NNH 735 ( 467 ~ 1725 ) 735 人が検診を受けると 1 人の乳房切除が行われ る
50.
NNT と NNH
の比をとる: LHH Likelihood of being Helped vs Harm: LHH LHH = (1/NNT) :( 1/NNH ) =( 1/2121) :( 1/ 735 )= 0.35 害が 3 倍? 調整 LHH=(1/NNT)×ft×s :( 1/NNH ) ×fh ft :目の前の患者のイベントリスク fh :目の前の患者の乳房切除のリスク s :イベントの副作用に対する重み付け 乳がん死亡の減少を乳房切除より何倍重要と 考えると効果と害がつりあうか
51.
LHH を見積もる 目の前の患者が乳がんの家族歴のない 40
代 調整 LHH=(1/NNT)×ft×s :( 1/NNH ) ×fh ft :目の前の患者のイベントリスク: 1/2 倍 fh :目の前の患者の乳房切除のリスク: 1 s :イベントの副作用に対する重み付け = (1/2121)×1/2×6 :( 1/735 ) ×1 = 1.04 乳がん死亡の減少を乳房切除より 6 倍重要と考えて 効果と害がつりあう
52.
がん検診の負の側面 情報がコントロールされている?
53.
がん検診の負の側面 1 早期がんと進行がんとで比べて がんと付き合う月日はどちらが長いか 早期がんで、その後 10
年の通院 進行がんで、発見から 1 ヶ月の入院で死亡 がん検診でがんが見つかると、長期間にわた ってがんと付き合わないといけない!
54.
がん検診の負の側面 2 あまり早期だと、自分の寿命に全然関係ないが んかもしれない 100
歳の早期がん がんの進行より寿命のほうが早い それなのに、「がん」だと余計なことを言 われる 「余計なお世話がん」 高齢になるほど、「余計なお世話がん」が 増加
55.
検診診断乳がんの 30 %が 過剰診断? New
Engl J Med 2012; 367: 1998-2005
56.
早期がんの数が増えるだ け
57.
神経芽細胞種で たくさん見つかったが死亡率は変わらない 発見数 死亡 Cancer Causes and Control,
1998, 9, pp. 631
58.
なぜ進行がんが減らないのか 乳がん全体が増えている? 早期で見つかっても治療していない? そうであれば現実の検診そのものが無効 early から late
まで 20 年以上? 年率 0.5 %で増加していると仮定しても説明でき ない そうだとすると早期発見の意味はますます少ない バイアスだけで説明できるとは思えない
59.
過剰診断の内訳 本当はがんでないもの 可逆的ながん がんだったけれど、結局別の病気で死んだ 自然死よりも乳がんの自然経過の方が長い どれを過剰診断とみるか すべて過剰診断と考えたほうがいい 本当は、「本当のがん」なんて存在しない 事後的に判断できるだけ
60.
学会での 2 つの出来事 乳がん検診に対して負の部分を発表した後 2011
学会名忘れました 「検診を邪魔するやつは許さん!」 2013 乳がん学会 発表後のディスカッションで発言の機会なし
61.
EBM の 5
つのステップ 1. 2. 3. 4. 5. 問題の定式化 問題についての情報収集 得られた情報の批判的吟味 情報の患者への適用 1-4 のステップの評価
62.
あなたならどうする? これまでのエビデンスを踏まえて、あなた自 身がこの患者だったとして、どうするかまわ りの人と話し合ってみましょう 検診を受けるか受けないか
63.
ロールプレイ 隣同士でじゃんけんです 勝った人が医師、負けた人が患者です 外来で、一週間後再び患者さんに以下のよう に質問されました 「やっぱり乳がんの検診を受けたほうがいいです よね。是非検査してください」 続きをロールプレイしてみてください
64.
ロールプレイを振り返る ロールプレイを振り返って 医者役 患者役 観察者 論文結果をどう説明するか議論しましょう
65.
以下のうち最も幸せなのはどれか がん検診をたくさん受けて、がんで死なず、 長生きした がん検診を受けず、がんで早死にした がん検診をたくさん受けて、がんで早死にし た がん検診を受けず、がんにならず、長生きし た 私として 4 番目か、
2 番目か 3 番目は最悪 最悪を避けるためにはがん検診を受けない
66.
私の私見 ガイドラインは、絶対リスクでの有効性の評 価、害とコストの評価が甘い! 私は自分の妻には勧めていません まあ勧めても受けませんけど 患者さんには、勧める場合もあると思う。ただ個 別の話をよく聞いた上で、絶対リスク、害、コス トについても必ず説明したい
67.
医療は最善の選択肢を示せるか? 示すことは不可能である ただ確率を示すことは出来る しかし、検診を受けるか受けないかは賭けで ある 賭けである以上、勝つこともあれば、負けること もある 確率が高いほうにかければいいとは限らない 確率が低いほうにかける場合だってある 人生が賭けであるように、医療も賭けなので す!
68.
明確なエビデンスとは? エビデンスが示すものはむしろあいまい このようなエビデンスがあるからこうやった EBM に似て非なるもの Evidence-Biased
Medicine このようなエビデンスはあるが、患者にはこう した 明確なのは統計学的に明確なだけ その治療をすべきかどうかが明確なわけではない エビデンスはあいまいで、これがむしろ EBM あいまいであるがゆえに、共有、評価、反省を し、学習を続けることが重要
69.
私にとっての EBM の実践 目の前の患者の話をよく聞き、よく診察し (患者からのエビデンス=ナラティブ) その患者によく似た患者についての研究結 果をよく勉強し
(外部のエビデンス) その二つの情報を統合し 目の前の患者に現時点での最善の医療を提供 すること
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何かの参考になれば
71.
緩和医療の教科書も コンサルテーションスキルについて書きまし た
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参考までに ステップアップ EBM 実践ワークブック 臨床研究の
ABC メディカルサイエンス社 臨床研究と論文作成のコツ : 読む・研究する・ 書く 南江堂 東京医学社 後悔したくないなら「医者のいいなり」はやめ なさい 日本文芸社
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質問があれば 何でも聞いてください
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