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第4部     ビジネスプラン


Ⅰ.起業の機会と構想
  起業の機会と
      起業家を
( 1 ) 起業家 を 生 み 出 す 要因
 大学生が就職先を決める理由が千差万別であるように、起業家がなぜ事業をスタートするかの要因
はさまざまである。
 あえて、その要因を抽出し単純化すると、以下のように、個人的な要因と、環境的な要因に分けら
れる。人がなぜ新事業に乗り出すかは、その人の個人的な理由であるとともに、社会環境にも影響さ
れるからである。言葉を換えるならば、起業家は生来自分が持っているもので起業しようとするとと
もに、周りや社会に動かされて起業しようとすることもある。

A.個人的要因
A.個人的要因
1. 性格
  起業家が他の人間と大きく違うのは、平均的な人間よりも「独立心」が強いことである。起業家は、
他の人よりも自分の今後を自分で決めようとする独立願望が強い。
2. 出自
  幼少期や学生時代の影響は何といっても大きい。例えば、起業家は、その親(父親)がサラリーマ
ンであるよりも、自営業や会社を経営しているケースが多い。あるいは、経済的に豊かではなく、学
歴や資格を得て専門職につくよりも、自分で事業に乗り出したケースは、第2章の日本の起業家に見
るように多数存在する。
3. 過去の経歴
  自分の意思で起業を選択するのは、これまでに知識・能力・人脈などを得ているからであり、過去
の仕事や職場が起業の意思に間違いなく影響する。公務員や鉄鋼会社から独立する人は少ないが、寿
司職人やラーメン店からは盛んに独立する。起業できる力を過去の勤務先で習得できるからだ。
4. 年齢
  起業家の年齢や家族構成も重要な要素である。こうした面からは、独身者が起業にあたっての障害
が最も少ないが、子供がある程度の年齢になった50代後半からのシニア起業家も日本には少なくない。

B.環境、
B.環境、社会的要因
  環境
5. 教育と大学
  バイオテクノロジーや情報通信産業のハイテク・ベンチャーは、起業のアイデアが大学や研究所で
生まれることが多い。大学院生や付属研究施設の研究者、卒業生が大学時代のアイデアをビジネスプ
ランにして資金を調達し起業するケースも多数起こっている。
6. 成功事例
  周囲に成功事例や目標とする企業や人物があ
ることも、起業家となるきっかけの一つである。
友人や親類で成功者がいるという事実も、ベン
チャーを指向させる影響力になっている。
7. 周囲の環境と地域
  周囲に創業を支援してくれる人々や組織があ
るかどうか、あるいは起業に関係する人々の交
流組織やネットワークが広がっているかどうか
といった社会環境もベンチャーにとって重要で
ある。起業家経済が発展している地域では、多
業種のベンチャー企業や大企業、大学・研究所、
ベンチャーキャピタル、ベンチャー企業を取り
巻く弁護士、会計士、コンサルタント、ヘッド

                         ~ 111 ~
ハンターなどがこの地域の中で共存しており、生態系的なシステムが存在する。そこに学び、働き、
教える人々が、絶えず交流しあい組織を出入りしている。彼らが連合したり離れることで、ベンチャ
ーが生まれたり潰れたりし、あるいは別のベンチャー企業が枝分かれして設立されている。


(2)起業家のタイプ
   起業家のタイプ
 タイプ1 『生計上必要 起業家』
 タイプ1 : 生計上必要な起業家』⇒
           必要な      “ Necessity-driven entrepreneurs “
                      Necessity-
 ・仕事を得るために必要に迫られて起業するグループ。生活を営む仕事(生業)として起業する。
 ・自営業、脱サラ、家業、同族会社に多い。
 ・例:飲食業、クリーニング店、個人タクシー、家電小売店、衣料品小売店、など。
 ・起業家の母集団としては、こういった「生計上必要な起業家」の割合が大きい。
 ・特に発展途上国では、このグループの起業がほとんどである。組織的な企業の雇用が少なく、独
  力あるいは自分の縁で個人事業を行わざるをえないからである。
 ・全体としては、このグループから大企業に発展する割合は低いと考えられているが、この中から
  マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、ウォルマート(スーパー)                、サブウェイ(サン
  ドウィッチ)のような巨大企業に成長した起業家も存在する。

 タイプ2: 機会を活かした起業家』⇒
 タイプ2 『機会を かした起業家
              起業    “ Opportunity-driven entrepreneurs “
                      Opportunity-
 ・自分にある機会を活かして起業するグループ。自分の意思と目標にもとづいて起業する。
 ・いわゆるベンチャービジネスを起業する人々を指している。
 ・「機会を活かした起業」においては、以下のようなビジネスのタイプがある。
   A.『ハイテク・ベンチャー』
    ・最先端分野において、日本国内だけでなく世界と競争し、勝ち抜こうとするベンチャー。
    ・権利は特許などで保護する。
    ・大企業との独立性を保ちつつ、提携で資金や人材という経営資源を得ようとする。
    ・ビジネスのリスクは高いが、成功するとリターンが高い。
    ・例:半導体ベンチャー、バイオベンチャー。
   B.『技術応用・組合せ型の新事業ベンチャー』
    ・起業家が過去の職場や経験で得た技術を応用して開始するベンチャー。
    ・ニーズに合致すれば大当たりするが、ニーズ把握・市場開発が難しい。
    ・例:風力発電ベンチャー、ネットベンチャー。
   C.『技術改良型ベンチャー』
    ・生業的なスモールビジネスから脱皮して、新事業で成長しようとする。
    ・市場や消費者のニーズを熟知していることが多い。
    ・小回りは利くが、大化けの可能性は小さい場合もある。
    ・例:郊外型衣料小売、格安航空券、英会話学校、人材派遣、100円ショップ。
   D.『アイデア勝負型の起業』
    ・消費者のニーズをつかみ、新アイデアと新商品で人気・ブームを得ようと事業に乗り出す。
    ・当たれば大きいタイプのビジネスであり、ブームが去るときの引き際が重要。
    ・例:飲食店、アパレル(衣料)、美容(エステ、ビューティーショップ)など。




( 3 ) 起業 のプロセス に 必要 な 事項
      起業のプロセス 必要な
         のプロセスに
①スタートアップに必要な3要素
 無からスタートするベンチャー企業の経営力は、既存の大企業を対象にした経営理論ではほとんど
説明できない。ベンチャーの世界は混沌そのものであり、不確実性やリスク、他社の攻勢、社内紛争
等の側面で経営を揺るがすような事件が頻繁に起こりうる。
 こうしたベンチャー経営において、起業家がスタートアップするためには何が求められるか。何よ
りもまず次の3要素が欠かせない。



                            ~ 112 ~
1. 創業者(Founders)
   創業者(        )
  事業を志した本人、あるいはベンチャーの
  経営を担うマネジメント・チーム(経営陣)
  の力量が何よりも欠かせない。
2. 事業機会(Opportunity)
   事業機会(           )
  いつ、どのマーケットに乗り出すか、自分
  の持つ技術をビジネスにどのように応用す
  るか、どのようなかたちで事業を始めるか、
  誰とビジネスを組むか、といった事業機会
  の認識が必要である。
3.経営資源(Business Resource)
  経営資源(
  経営資源                  )
  起業家の持つ技術をもとに始めたベンチャ
  ーで、これから何が必要かを検討しなけれ
  ばならない。資金や従業員、オフィスや工
  場・機械、あるいは資材購入・販売のための提携先といったものが次から次へと求められる。

②創業者と経営チーム
 ベンチャー企業が成功するには、「技術」よりも「創業者とマネジメントチーム」が重要である。ハ
イテクベンチャーでは、市場を切り開くだけの技術が必要なのはもちろんである。にもかかわらず、
米国のベンチャーキャピタリスト達は、ベンチャーの企業評価(すなわち投資判断)において第一に
マネジメントチームの力量を優先しているのである。この力量は具体的には、経営陣各人についての
技術力、経験、人格、リーダーシップ、周囲の評価や、彼らが過去どのようなポジションで何を行っ
てきたかという経歴である。
 例えば、ベンチャーキャピタリストにベンチャー経営で重要
な要因のトップ5は何かと問われた場合、「一にも二にもマネジ
メントチーム。三、四がなくて五に市場の将来性」と答えると
言われている。ベンチャーキャピタリストの伝説的存在といわ
れるアーサー・ロック氏は、「一流の経営陣を見つければ、彼ら
は常に問題点を解決し製品を改良していける。私の失敗のほと
んどはビジネスプランが悪かったのではなく、経営陣が悪かっ
たせいである。」と語っている。

③アイデアは必ずしも事業機会ではない
 起業家が事業に乗り出すきっかけには、先にあげた「事業機
会」がかかせない。ここでいう機会とは、事業のアイデアのこ
とを言っているのではない。世の中では、事業についてのアイ
デアは起業の機会よりはるかにずっと多いはずである。アイデ
アは必ずしも事業機会ではない。
 事業機会は起業家が好きなようにこしらえるアイデアではな
い。事業機会は、技術、マーケット、競争相手などが変化する
中で、利益になるビジネスとして成立する可能性があってこそ
生まれるものである。ベンチャーの成功は、この事業機会をしっかりとつかんだ企業のみが得られる
ものである。したがって起業家にとって何が自分の事業機会か、いつどのように乗り出すべきか、と
いう事業機会をとらえ理解するプロセスが重要になる。
 実際、革新的なアイデアは世の中で一人だけの人間が見つけているわけではなく、大体は他にも似
たような構想を持っている人がいるものである。ダーウィンの進化論やアインシュタインの相対性理
論も、同じ時代に類似のアイデアを持っている学者が存在したことがわかっている。また、1959年に
テキサス・インスツルメント社のジャック・キルビーが発明したIC(集積回路)も、その直後にロ
バート・ノイス(後のインテル創業者)が独力で作っている。今日のインターネットの世界でも、ネ
ットスケープだけが1994年にインターネット・ブラウザーを商品化したのではなく、同じくヤフーだ
けがサーチエンジンを商業化したわけでもない。




                         ~ 113 ~
④市場のニーズをつかむ
 起業家にアイデアはあっても、その製品やサービスは誰が求めているのか、誰に売るのか、という
認識が明確でないと、うまくスタートアップするのは難しい。これは古今東西に共通の単純な理屈で
ある。顧客が求めない製品やサービスは、単なるアイデアであってビジネスとしては成立しない。き
わめて革新的な製品が作られ、抜本的な低価格や高い品質・サービスによってこれまで隠れていた消
費者のニーズが一度に顕在化するケースもあるが、それは数少ない成功例である。

⑤タイミング
 事業に乗り出すタイミングも重要な要素である。起業家は潜在的には成功の可能性があるとしても、
他社や他の商品・技術との競合、経済環境、提携先や販売代理店などの諸々の条件がスタートアップ
に好都合な時を選ぶことが肝要である。もっとも、最適のタイミングを選べといっても、起業家が自
信を持って判断できる程の十分な情報が集まってくるわけではない。好不況の経済サイクル、消費者
のトレンド、技術の変化のような、起業家が十分に予測できるとはいえないファクターを、どこまで
見極めて、かつ迅速にスタートアップし事業を拡大していくのか。誰もがわかる「最高のタイミング」
があるわけではない。

⑥経営資源
 たいていの起業家は、資金、設備、人員等の経営資源がほとんど手元にない条件から事業をスター
トさせる。ここがベンチャーたるゆえんでもある。たとえば、アメリカの高成長新興企業を代表する
「インク500社」における設立時の資金調達をみると、全体の26%の企業で創業資金が5千ドル未満か
らスタートしており、10万ドル以上の資金で始めた企業は全体の25%である。
 したがって、起業家は次の点に注意を払わなければならない。
 1.必要な経営資源の優先順位をつける:コストを節約しながら外部から経営資源を導入するというや
                   :
   りくりが必要である以上、まずは何が必要か、どれから確保していくかを考えていく。
 2.重要な経営資源は品質を落とさない:経営に決定的な経営資源のレベルを落とすことはできない。
                   :
   例えば、コンビニエンスストアのような小売業で、賃料を重視するあまり路地裏の二階に入居す
   る起業家はいない。
                    :設立されたばかりのベンチャーはガレージ、
 3.さほど重要でない経営資源を節約する:                    工場跡のビル、
   あるいは他の起業のオフィスに間借りしたりして、極力費用を切りつめる。中古のオフィス家具
   をみつけて回ったり、通信販売で工具の一番安いものを一個ずつ買うような節約をする。
 4.経営資源を社内で持たず、社外を活用する:ベンチャーの場合、従業員を常勤で雇用する必要はな
                      :
   い。業務の一部を外部に委託(アウトソーシング)することもできる。自分の工場やオフィスを
   所有せずリースすることも常套手段である。そのほか、会計や宣伝広告、マーケティングも外部
   に委託するなど、コストをできるだけ低くすることはベンチャーに欠かせない仕事である。

⑦開業資金の調達
 起業家はアイデアや技術をみがき最適の機会を探り、開発計画や原材料の仕入れや従業員の採用を
検討したとしよう。検討するのはタダだけれども、事業をスタートするには資金が必要になる。この
ような開業資金を調達するには、4通りの方法がある。
1.自己資金
   自己資金とは、創業者メンバーの手持ち資金で作る資金である。開業する際の資金としては自己資
   金が最も多く、中小企業全体でみれば、        開業資金の半分以上は、自己資金によって調達されている。
2.周囲・取引先からの調達
   創業者の家族や友人、従業員、取引先等のパートナーが資金を提供する場合もかなり多い。彼らか
   ら借入や株式発行の形で調達したり、代金の前払などさまざまな形で、資金繰りをサポートしても
   らうものである。米国では、関係者からの調達と自己資金をあわせて、         「ブーツストラップ・ファ
   ンディング」(Bootstrap Funding、今あるものだけで何とかするという英語)と呼んでいる。
3.銀行借入
   借入は企業経営では、最も一般的な資金調達手段である。当事者が企業と銀行のみであり取引が単
   純で、株式発行に比べれば時間や手間がかからない。しかし、スタートアップしたばかりで資産も
   信用もない企業が銀行から資金を調達するのは容易ではない。しかも、借入は創業者の所有権が守
   られるが、当然ながら利子と元本を貸し付けた銀行等に返済しなければならない。ベンチャーのよ


                          ~ 114 ~
うに今後の収入の不確定要素の高い企業は、資金調達を借入には多くを依存しにくい。
4.株式発行
   株式発行で調達した資金は、借入と違って返済の必要がない。その反面、創業者の株式所有比率が
   下がり、経営への発言権も低下する。株式だから借入より義務が少ないわけではない。投資をする
   外部株主は、ベンチャー企業が株式公開会社となって株式の価値が上昇することを期待している。
   そうでなければ投資した企業が利益を上げて高い配当を出してくれることを期待している。外部株
   主は、企業が高いリターンが期待できなければ、リスクが高いベンチャーには投資しない。それだ
   けに、起業家がビジネスプランによって投資家に説明したとしても、投資家が出資をしてくれるケ
   ースは少ない。たとえば、ベンチャーキャピタルに来る投資案件のうち、彼らが実際に投資するの
   は1000件の中で数件程度である。

 下図は、国内のベンチャー企業を対象に、立ち上げから現在までの資金調達形態を調査すると、最
も多いのが銀行で、次いで本人(自己資金)である。

          企業の立ち上げから現在に至るまでの資金調達(複数回答)




⑧収益をあげる
 起業家にとって、収益は大企業の経営者以上に大きな目標である。
 第一に、収益を上げなければ、経営者自身や従業員のサラリーすら払えない。収益を上げない限り
は、常に資金調達に駆けずり回らねばならない。
 第二に、ベンチャー企業がリスクの高い事業である以上、資金を提供する投資家や銀行は、大企業
よりも高いリターンを要求する。事業が失敗して「取りっぱぐれる」危険性が高い以上、この要求は
経済原理にかなっている。このためベンチャーは将来に高い収益性が見込まれていなければ、なかな
か外部から資金を得ることは難しい。


■設問31
 設問31

 1. 「生計上必要な起業家」とはどのような人々をいうのか。簡単に説明しなさい。
 2. アフリカやイスラム世界では、「生計上必要な起業家」と「機会を活かした起業家」のどちらが多いだろ
    か。自分の考えと理由を簡単に述べなさい。
 3. 「アイデア勝負型の起業」の具体的な例を、自分で考えて述べなさい。
 4. 「経営資源」とはどのようなものか。簡単に述べなさい。
 5. 起業家は、なぜ経営資源を節約しなければならないか。簡単に述べなさい。
 6. 「アイデアは必ずしも事業機会でない」ということについて、簡単に解説しなさい。
 7. 起業家が開業時点で調達する資金で最も多い形態について述べなさい。




                         ~ 115 ~
Ⅱ.ベンチャーの組織運営と経営モデル
  ベンチャーの組織運営と経営モデル
        組織運営
      ベンチャー的経営
( 1 ) ベンチャー 的経営
「ベンチャーは、       種がまかれ、      芽がでて、      ふくらみ、     育ち、   収穫される」
  " Ventures are sown, sprout, grown, and harvested."
                         -Jeffry Timmons “New Venture Creation”
 ベンチャー企業の成長は均質的、安定的なものではないが、ベンチャ
ーの経営を時間軸でみると、大きく創業期、高成長期、成熟期、安定期
の4つに分類される。創業期は、ベンチャーをスタートさせた後2~3
年までの期間である。最も経営問題が起こりやすく、苦難の多い、すなわち起業家にとって危険性が
高い期間であり、この時期に半分以上のベンチャーが淘汰されていく。売上高はゼロから数百万ドル
以下、経営者は創業者を含め2~3名、従業員も20名を超えるケースは少ない。創業期の艱難を過ぎ
ると、売上が急速に伸びる高成長期に入る。この時期には、業容が拡大するにつれ経営陣や従業員の
数が増え組織も拡大する。
 創業期から高成長期にかけての経営スタイルは、       Doing(実行中心型)と呼ばれる。絶え間ない変化、
問題、不安定の中にベンチャーの経営は置かれている。皆早く会社を立ち上げ軌道に乗せるために必
死になっており、社内の経営陣・従業員各人の指揮命令系統や具体的責任を細かく検討する時間はな
い。経営は創業者の力と意志によって運営されており、社長一人が会社をひっぱる「トップダウン」
経営である。従業員は少ないだけに会議、決定、通知、あるいは従業員間のコミュニケーションは組
織化されたものではなく、その都度弾力的に行われることがほとんどである。
 ベンチャー企業が高成長期に入り、売上や従業員が急増する中では、経営形態が変化していく。業
務量が増えるに従い、ベンチャー経営者は自分や同僚・従業員の業務分担を決め、責任範囲や各人の
裁量度を定めていく必要がある。つまりこの時期の経営はManaging(組織中心型)である。さらに、
業容が拡大する成熟期、安定期に入ると、経営者はさらに権限を下位の従業員に委譲し、彼らが経営
の意志決定や業務を遂行していき、経営者はその管理者の管理が仕事となる。したがってこの時期の
ベンチャー経営者は、Managing Managers(=組織管理者)としての特性が強くなる。

( 2 ) ベンチャー 経営者 は 他 とどう違 うか
      ベンチャー経営者
            経営者は とどう 違
 以上に述べた起業家としての資質や能力は、全体的には普通の企業経営者が求められているものと
さして変わらないように思うかもしれない。実際、企業経営者やマネージャー層がこのような力を充
分に持っていたらどんなにか素晴らしいことだろう。しかし、ベンチャー経営者である以上、力点の
置かれ方が異なる。ベンチャーのように高成長をめざす社歴が若い企業と、充分な経営基盤があり安
定経営を続けている大企業の経営者(ここでは管理的経営者と呼ぶ)との違いを考えてみよう。この
差異は、以下の8つのポイントに整理できる。
①起業家は創造的である
 起業家は創造的である
        であ
 ベンチャー企業は新しいものを創っていかねば淘汰されてしまう。同時に起業家は何かを創造しよ
うとして独立している。大企業の経営者は会社を安定的に存続させることに注力するが、起業家に期
待されるのは安定や維持ではなく創造である。既存の知識だけでは新しいものは創造できない。起業
家は知的好奇心と想像力で新しいチャンスをみつけ、それをどう成功させていくかに長けている人間
が多い。決して学位や専門知識だけの人間ではないことは、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズの
成功が示している。20年余にわたりハイテク巨大企業の経営者を務めている二人は、博士どころか、
大学に4年通うこともなく中退しているのである。
②戦略の違い
 戦略の
 大企業の管理的経営者は、現在自分達が持っている経営資源をどのように維持し活用していくかを
重視するが、起業家が目指すものは、自分のビジネスチャンスを事業として成功させることである。
ビジネスチャンスはたえず変化する。ベンチャーは経営資源も少なく、またビジネスチャンスの変化
に迅速に柔軟に対応していくために、他から経営資源を獲得しなければならない。現在の経営資源の
活用と存続を重視するのが管理的経営者だが、起業家はチャンスに適合した新しい経営資源を求める。
 起業家はビジネスチャンスを重視する
③起業家はビジネスチャンスを重視する
 当然のことながらベンチャーの「リスク」は、他の企業よりも大きい。倒産につながりかねない問
題が発生することも多く、起業家はそれらの問題を短期に集中して解決しなければならない。一方、
管理的経営者は、経営問題の処理は起業家に比べて長期のスパンが許され、また自社内の部下や他の


                                         ~ 116 ~
経営者に委ねることも可能である。起業家は、結果第一主義の立場から迅速に意志決定を行い、議論
よりも実行を重視して、ビジネスチャンスをいかにうまく事業化するかに集中しなければならない。
④経営資源の違い
 経営資源の
 ベンチャーには、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源は限られている。ことに多くのベンチ
ャーは慢性的な資金不足にさいなまれている。起業家は、常時外部の経営資源を獲得することに注力
するのに対し、管理的経営者は既存の自分たちの経営資源をどのように有効活用するかを重視する。
⑤組織の違い
 組織の
 管理的経営者は、企業を運営するために重厚な組織や階層を充分に構築することを重視する。しか
し、起業家は自分たちの個人的欲求は「独立」にあり、したがってベンチャー社内においてもフラッ
トな階層、指揮命令系統やインフォーマルな人間関係を重視する。ベンチャー経営者は組織としてそ
の権限や権威が裏付けられておらず、組織的な「虎の威」を借りず個人としての力量によってベンチ
ャーを営んでいかねばならない。
⑥起業家は経験不足である
 起業家は経験不足である
 他の大企業や長年経営されている中小企業に比較して、ベンチャーの経営陣は平均して若くビジネ
ス経験が少ない。彼らが会社を設立して直面する経営問題は、過去に彼らが経験していないことがほ
とんどであろう。このため、ベンチャー経営者は未体験のパズルを柔軟かつ冷静に解決していく力量
が求められる。
⑦起業家は、非定型的・直感的な意志決定をする
 起業家は 非定型的・直感的な意志決定をする
 しかも、ベンチャーのような高成長で変化が早く競争的なマーケットでは、経営者は不確実な情報
や論理でもって経営的な決断を行う場面にしばしば直面する。技術情報とともに、ビジネスとしての
収益性・成長性や社内外のネットワーク・人間関係などの情報・意見・アドバイスを踏まえて、ベン
チャーを成長する方向に持っていくには、 論理や情報の整理分析だけでは対処できない。      ある意味で、
ビジネスや技術の「勘」がモノをいうのがベンチャービジネスでもある。これは多種多様な情報を迅
速に整理して自社の利益に結び付けられるアイデアを企画でき、決定できる能力である。おおざっぱ
な言い方であるが、「頭が良く回る人」(英語でいうとQuick learner)であることが重要となる。
⑧起業家は、ベンチャー的な企業風土を重視する
 起業家は ベンチャー的 企業風土を重視する
 ベンチャーには、ベンチャー的な経営風土や企業文化が存在する。経営者も従業員も、寄らば大樹
の陰にいるよりも独立することを好み、そして自分達の会社が成長してIPOのようなかたちで成功
することを夢見ている。こうした彼らの価値観や個々人の目標は他の企業とは異なっている。経営陣
も管理者も地位や権威といったものにはこだわらず、自由な雰囲気やコミュニケーションを好む。ベ
ンチャーの経営方針にも、このような起業家的風土が強く影響する。ベンチャーではフレックスタイ
ム制などと制度づけるまでもなく、社員の裁量労働制は空気のように当たり前である。経営トップで
あっても個室を持つベンチャーは少ない。オフィスにはいつでも自在にレイアウトを替えられるよう
に、簡単な間仕切りで仕切った机、什器、会議室があるだけが普通である。

               (参考資料)小野正人「ベンチャー   起業と投資の実際知識」東洋経済新報社。




 ■設問32
  設問32

 1. ベンチャーの経営者(起業家)は、大企業の経営者とどのように違うかについて、上記の解説をもとに
    自分の意見を加えて述べなさい。
 2. 大企業の経営者はベンチャーの経営者と比較して、どこが有利か。自分の意見を述べなさい。
 3. ベンチャー的な企業風土とはどのようなものと思うか。上記の解説をもとに自分の意見を加えて述べ
    なさい。




                        ~ 117 ~
Ⅲ.ビジネスプランの作成
  ビジネスプランの作成
 ◎ビジネスプランとは、新しい事業の「事業計画」のことである。企画書、事業計画書と呼び換え
  ることもできる。重要なことは、何を、何のために、どのように書くのかを最初に理解しておく
  ことである。
 ◎ビジネスプランの最終目的は、
               『資金調達をすること』であり、この理解が最も重要である。
 ◎ベンチャーでなくとも、会社の新事業計画や、役所で行う企画書など、新しい取り組みには大抵
  は企画書が存在する。ここで学習するベンチャーのビジネスプランは、こうした他の業態の企画
  書作りにも十分に応用できる。


      ビジネスプランを作成 する目的
               作成する
( 1 ) ビジネスプランを 作成 する 目的
①資金調達が最終目的
 資金調達が
 ベンチャービジネスを立ち上げる場合に、起業家が最も欲しいものが資金である。『地獄の沙汰も金
次第。阿弥陀の光も金次第。』と諺で皮肉られるように、資金がなければ前に進まないのが世の常であ
る。最終目的が資金調達であるだけに、調達を可能とするようなビジネスプランを書く必要がある。
ビジネスプランの立案は、資金調達という最終目的
             資金調達という最終目的
             資金調達という最終目的によ
ってしばられている。                   グルーポンの最初のビジネスプラン
                             (紙ナプキンに書かれてある)
 創業チームの目標と方針を共有化する
   チームの目標
②創業チームの目標と方針を共有化する
 その資金調達は最終目的ではあるが、ビジネスプランに
よって、
   ベンチャーを立ち上げた起業家や参加メンバーの
目標と方針を一つの文書にまとめて、チームの中で「共有
化」ができることになる。
③ビジネスプランを他に活用する
 ビジネスプランを   活用する
 また、ビジネスプランの一部を、 上の2つ以外の目的に
利用することも少なくない。
 ・会社の核となる社員の採用の際に計画を説明する。
 ・他企業との提携の際に、一部を説明する。
 ・会計士、監査法人、弁護士に、会社の状況を説明する。

( 2 ) ビジネスプランはトップ・シークレット
 企業は競争の世界で生きている。特に、新事業に乗り出すベンチャーの大半は、激しい企業間競争
にさらされている。資金も人材も十分でないベンチャーは、知識、技術、ノウハウが最も重要であり、
それを他人に明らかにすると出しぬかれる可能性が高い。ビジネスプランは、ベンチャーという会社
の技術、ノウハウ、経営戦略の核心が書かれた資料であり、会社において「提出先以外には秘密にし
なければならない資料」である。ベンチャーの多くは、ビジネスプランを提出先の金融機関や投資家
とは守秘義務契約書を結び、その情報が当事者以外にはっ絶対に流出しないような手を打っている。

      ビジネスプランを書
( 3 ) ビジネスプランを 書 く 前 に
 ビジネスプランを書く前に、頭にイメージを描かなければならないことは、以下の9点である。
  ①事業を始める自分と時代環境を確認する。
  ②市場(お客さんとライバル)と事業機会を調べる。
  ③どんな事業を行うか、どうやれば利益を上げられるかを考え、計画を立案する。
  ④損益分岐点と必要資本を検討する。
  ⑤事業のリスクを検討する。
  ⑥メンバーの役割を明確にし、会社立ち上げ後の作業の流れを描く。
  ⑦事業計画を作成し、必要な事業資本のメドを計算する。
  ⑧自分達の「会社の価値」(評価価格)を決める。
  ⑨資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等)のリストと接触方法を構想する。
  ⑩実際に資金を調達する行動をとる。



                         ~ 118 ~
①事業を始める自分と時代環境の確認をする
 事業を める自分と時代環境の確認をする
       自分
 どんな会社も、事業を立ち上げる前提となる諸条件を確認しておく必要がある。この出発点が曖昧
だと、途中で大混乱が待っている。確認すべきポイントは以下の事項である。
 ・どのような技術やサービスの発展を使って、どんな社会ニーズに応えようとするのか。
 ・法令の制約や、業界でビジネスの制約はあるか。逆に自由化で制約が緩和撤廃されるか。
 ・会社を起こすにあたって、自分や家族に制約はあるか(勤務先、収入、年齢、病気、教育等)
 ・自分が事業を興す真の動機は何なのか。その動機に矛盾はないか。
 ・自分の経験や判断力、洞察力、対人能力のような力量に制約はないか。また、その制約を人の採
  用や支援によってどのようにカバーしていくか。
 ここでいう「制約」とは、創業メンバーの限界、あるいは欠けているものである。自分一人あるい
は少人数で事業を始める訳であり、制約があるのが当たり前である。問題はその制約を理解しないま
まに会社を立ち上げ、後でそれに気づくようなことが少なくなるように、ビジネスプランを作る段階
で制約を意識する必要がある。
②市場(顧客とライバル)と事業機会を調べる
 市場(顧客とライバル) 事業機会を
      とライバル
 ベンチャー企業の失敗の大半は、顧客と競合他社をよく見ていないことが原因である。
 ・事業で販売する顧客はどのような人々か(世代・性別・好み・ライフスタイル)、あるいはどのよ
  うな企業・組織か。機械会社、製薬会社、通信会社、あるいは官公庁、学校か。どのようなニー
  ズを持つ会社か。
 ・製品や商品を販売する場所はどこか。皆に知られている場所か。(立地、商圏、認知度)
 ・販売は、時刻や季節で変化するか。
                 (顧客の購買想像する)
 ・他の競合会社はどのようなビジネスをやっているか(やりそうか)(事業は常に隣との競争)
                                。
③どんな事業を行うか、どうやれば利益を上げられるかを考え、創業計画を立案する
 どんな事業を うか、どうやれば利益を げられるかを考
    事業          利益            創業計画を立案する
 どのような製品を作るか、何を販売し何のサービスを行って、顧客に買っ
てもらえるようにするか。それはどれ位の規模の販売で、持続的に販売でき
る規模か、という観点で事業の構想を立てる。
 ・販売する製品・商品・サービス(商品開発)。
 ・購入する顧客(標的市場、標的地域、標的の顧客の特性)。
 ・商品・サービスを準備できるか(生産ライン、仕入れ、加工、在庫)
 ・店舗、販売方法(店舗・販売戦略と価格)
 ・事業は収益を上げられるか:製造(仕入)コストの見積もりと、販売し
  た場合の利益率、利益額。
④損益分岐点と必要資本を検討する
 損益分岐点と必要資本を検討する
 事業の内容を決めて、儲かるかどうかを、さらに細かく具体的に計画を検討し構想していく。
 ・販売計画、売上計画:何をいくらで、いくつ、どんな時間・時期に売るか。
 ・仕入計画、経費の計画:いくらで材料を仕入れて、いくら経費がかかるか。開発や管理にどれだ
  けの費用がかかるか。
 ・損益分岐点:経費が回収できる最低限の売上、販売個数はどれだけのものか。
 ・この計画は、収益をあげられる(もうかる)計画だろうか。
 ・事業の準備資金はどのくらいかかるか。=必要資本の見積り。
  ・仕入や開発に、どのくらいお金がかかるか。
  ・経費(事業に必要な機材・設備・道具・人員)が、どのくらい必要か。
  ・事業が遅れた場合にかかる支払経費を前もって準備しておく。
⑤事業のリスクを検討する
 事業のリスクを検討する
   のリスクを検討
 新しい事業はリスクが高い。また人材も資金も足りないから、十分な製品やサービスを世の中に出
せないことも少なくない。そのような制約のある状況だからこそ、事業を始める起業家は、予想され
る事業のリスクについて、冷静に客観的に綿密に分析し、自分達の「弱点」を知らなければならない。
⑥メンバーの役割を明確にし、作業の流れ図を描く
 メンバーの役割を明確にし、作業の
      役割   にし
 会社を立ち上げた段階で働いているメンバーについて、社長(会社の全責任者) 、開発、製造、販売、
仕入、経理、管理総務、それぞれの役割を明確にする。昔から「適材適所」と言うが、それぞれの知識能
力経験に応じて、役割(業務分担)を明確に定めることは実際の経営で重要である。
 そして、これから開発、製造、販売、代金回収に到る事業の流れについて、各人が行う作業の大ま
かな流れ図を描くことが有効である。


                      ~ 119 ~
⑦事業計画を作成し、必要事業資本のメドを計算する
 事業計画を作成し 必要事業資本のメドを計算する
                のメド
 最初に述べたように、ビジネスプランを作る最終目的は、投資家を説得し、必要な資本を調達する
ことである。投資家にとって魅力的な事業計画を説明して、投資家が資金を出してくれるような内容
でなければならない。
・事業の収益性が第一:したがって、学術的な研究水準が高いことを言っても、きれいで美しい資料
 を作っても、「投資家が収益を得られそうだと判断できる」事業内容であることがまず必要である。
 事業が高い収益を得られるか、事業のリスクはどのように対処して減らすか、について投資家が納
 得できる内容の説明をしなければ、投資家は資金を出してくれない。つまり、ビジネスプランとは、
 「お金」について現実的で実践的でなければならないのである。
・必要資金の金額:そして同時に、事業ではいくらの資金が必要かを説明する必要がある。
・資金の使途:また、投資家には、調達した資金を何に使うのか、どうして使わないといけないかを
 説明しなければならない。
 事業資金をうまく手に入れるには、理屈だけではない。とにかく相手(投資家)を説得するには、
いろいろな実践的なテクニックが必要である。とにかく、情熱を持って、誠意をもって投資家を説得
し、事業に必要なお金を投資してもらう。

             ○ビジネスプランの実践的なテクニック
     ・事業や製品が、注目をひくような上手な名前を考える。
     ・とにかく「製品・サービスが売れて、もうかる」ことを説得する。
     ・第一印象を大切にする。
     ・投資家への発表時間が短いので、時間内に上手にまとめる。
     ・ビジネスプランは、わかりやすいように大きな字ではっきり書く。
     ・5W1H(何を、いつ、だれが、どこで、なぜ、どうやって)をはっきりさ
      せる。
     ・発表は、大きな声で自信を持って説明する。
     ・発表の前に、メンバーとよく話をまとめて準備をしておく。
     ・他社の良いところを真似して取り入れる。


⑧自分達の「会社の価値」 企業評価価格)を決める
 自分達の 会社の価値」 企業評価価格)
              (企業評価価格
              (
 会社に投資するということは、その会社の株式を買うことであるが、その株価を決めなければなら
ない。同じ1,000万円を投資するにしても、1株10万円で投資するのと、 1株1,000円で投資するのでは、
その会社の価値(企業評価価格)は、10万円:1,000円で100倍も違うのである。起業家側からすれば、
自分達の会社を投資家に高い値段で買ってもらう(上の例でいえば10万円の株価で株式を買ってもら
う)ことを望むが、投資家はできるだけ安い会社の価値で株式を購入したい(上の例でいえば1,000円
の株価で株式を買う)  。その両者の思惑によって、資金調達においては、株価の価格交渉(=どの株価
にするか)が行われるのである。
 したがって、ビジネスプランによって外部の投資家から資金を調達する場合は、投資家と交渉する
前に、自分達の会社がどれだけの価値(企業評価価格)があるのかを、まずは自分達の考えを決め、
それから投資家と価格交渉することが望ましい。
 例えば、あるベンチャー企業で発行済の株式が5000株あるとする。その会社の株価を1株10万円にし
たいというならば、その会社の価値はいくらだろうか?。

   【会社価値の計算-1】 1株10万円(株価) ×5,000株(発行済の株式数)=     5億円
   この5億円が「会社の価値」(企業評価価格、あるいは時価評価価格)である。


 逆に、この会社で株価が1株1000円とすれば、会社の価値はどうなるか。

   【会社価値の計算-2】   1株1,000円(株価)×5,000株(発行済の株式数)= 500万円
                                               500万円


 このように、二つのケースの間で会社の価値に100倍もの差がでてくる。起業家や創業メンバーにと
って、会社価値が低まるということは、自分達が持っているベンチャー企業の株式の経済的価値が低
下すると同じである。それだけに、まずは会社の価値を計算することが起業家達の利害につながる。


                         ~ 120 ~
⑨資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等)のリストと接触方法を構想する
 資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等 のリストと接触方法を構想する
     する投資家                  接触方法
 理屈だけで資金は調達できない。事業を理解してくれる、自分達のことを理解してくれる投資家に
資金を提供してもらうことが重要である。単に銀行が融資をするのではなく、投資家は自分達の会社
の株主になるのであるから、株主として意見を言ってくることが多いからである。
 したがって、投資家の目的は何だろうか、投資家は、どこをどう評価してくるか、投資家は資金以
外に何を手伝ってくれるだろうか、投資家は、自分達の会社の価値(株価)どう評価するだろうか、
などの観点を予想し、対策を打つことが、資金調達の成功度を高めることになる。
⑩実際に資金を調達する
     資金を調達する
 事業に必要な資本を調達するには、
 ・投資家を説得し自社に投資をしてもらうために、投資家と打ち合わせをして、投資を決断しても
   らう。
 ・投資を決定した後、会社は株式を発行するための作業を行う。株式を発行するには、取締役会の
   決議が必要であり、また投資家がベンチャーキャピタルの場合は投資条件を同意した投資契約書
   の締結が必要となる。
 また、投資(株式出資)ではなく、銀行から融資を受ける(会社が銀行借入を行う)場合には、投
資家への説得と同様に事業計画を説明して、銀行の融資担当者に銀行の判断として融資が可能かどう
かを判断してもらう必要がある。融資が決定した後は、融資の契約書(正式には「金銭消費貸借契約
書」
 )に、借り入れる企業の代表者(代表取締役)と銀行が契約書の内容に合意し両者の印鑑を捺印し
て契約が成立する。
★融資は事業の成否に関係なく返済義務を負う (株式との根本的な違い)
 融資の場合は、会社の事業がうまく行っても事業が頓挫しても、契約書で合意した借入額に金利を
合計した金額(元利)を、間違いなく銀行に返済する必要がある。この点が株式出資による投資との
根本的な違いである。株式出資は事業の成否により配当を払ったり無配であったりするし、会社が倒
産したら株式は無価値となるが、融資の場合、銀行は事業の成否を問わず貸し出した金額の返済を求
める権利がある。

          会社は借りたお金(融資)は返さないといけないが、
          株主(投資)に対しては返済義務はない。




 ■設問33
  設問33

 1. ビジネスプランの最終目的は何か。
 2. ビジネスプランを秘密にする理由はなぜか。
 3. ビジネスプランを利用してできることをあげなさい。
 4. ビジネスプランにおける「会社の価値」について、簡単に説明しなさい。
 5. 融資と投資の違いについて、簡単に説明しなさい。




                           ~ 121 ~
( 4 ) ビジネスプランを 作 る
      ビジネスプラン を
 実際には、株式会社のビジネスプランは「事業計画書」と名づけられて完成することが多い。この
事業計画書は、株式会社の取締役会に付議されて、会社として決定した事業計画となる。起業家は、
資金調達を求める銀行やベンチャーキャピタル等にこの事業計画を提出し、資金を提供(融資や株式
出資)が可能かどうかを検討してもらうことになる。
 事業計画書を受け取った銀行やベンチャーキャピタルは、この計画書が同社の公式文書であるから、
これを真剣に読み、論理的であるか、外部環境をしっかり把握しているか、計画に無理はないか、遺
漏はないか、同社の長所・持ち味はどこか、問題点・欠点はないかなど、綿密かつ多面的に資金調達
を企図するベンチャー企業の分析を行うのである。それだけに、きちんと洗練された内容と形式にな
っていないビジネスプランは、文字通り「門前払い」になる。

 本気度   じられるビジネスプラン
①本気度が感じられるビジネスプラン
 起業は、「夢」への第一歩であると同時に、多くは苦難が待ち受けるものである。起業家がその道を
歩み始めるに当たって、まずは十分な覚悟があるか、情熱が込められているかが重要なカギとなる。
起業家がそう思わなくとも、経験のある投資家や銀行の融資担当者はそう思っている。彼らは、起業
家の情熱の感じられないビジネスプランでは、資金を出す考えにならない。思いつきや軽いノリで始
めようとしても、ビジネスプランの中でそれが露呈してしまう。アイディアだけで起業しようと相談
に来る人もいるだろうが、思いつきだけで成功する人はいない。思いつき=アイディアを、いかに実
行可能なビジネスプランに昇華させるかが重要である。本気のビジネスプランから、周到な準備と細
心の計画がくみ取れ、かつ成功に向かっての強い信念が読み取れるビジネスプランを目指さなければ
ならない。

②独りよがりのビジネスプランでないこと
 良いビジネスプランは、起業家が独力で一気に書き上げることは少ない。起業家一人の能力や情報
は限界がある。起業家の弱点を補強してくれるパートナーと共にビジネスプランを練り上げるのが現
実的である。起業家を理解する人、目指すビジネスに経験や造詣の深い先輩を探し出して、ビジネス
プランに対するアドバイスをもらい、欠点を発見し修正していくのである。

③簡潔で、わかりやすく、成功を予感させるものであること
 簡潔で わかりやすく、成功を予感させるものであること
 投資家や金融機関に理解してもらうためにはたくさん記述した方がよいと考える人も少なくない。
プレゼンテーションでも長々と事業内容を説明する人がいる。しかし、部厚いビジネスプランは変化
に対応して適宜見直しを図るには不向きであり、それを読む忙しい投資家の目には止まりにくい。
 簡潔で、メリハリがあって、ポイントをはずしていないこと。そして洗練度が高くまとめあげられ
たビジネスプランこそ望ましいものである。米国には「エレベータ・ピッチ」という言葉がある。エ
レベータに乗っている間にビジネスを説明して、投資家を巻き込んでしまう位の熱意と資料であるこ
とが大切と言われる。例えば、A3見開き1枚のビジネスプランのサマリー(まとめ)を使って、自分
の口で3分以内に事業を説明できるような訓練が必要である。
 簡潔さとともに、「わかりやすいこと」も重要である。専門的な説明のみに終始すると、読み手の理
解度を下げ、興味を失わせる。
 また、市場や財務のデータは、「数字」はごまかしの効かないものであり、説得力を増すために重要
であり、ビジネスプランを構築する上で根幹となるものである。「全く新しい商品だから予測がつかな
い」
 「爆発的に売れる」という人も少なくないが、それでは検討と分析の練度が低いことを吐露してい
るにすぎない。まとまった統計データがなくても、他の代替できるデータや推定データを活用するこ
とが可能なはずである。

④顧客の視点で考えていること
 顧客の視点で  ている
 ビジネスプランは、顧客の視点で考えられていることが必要である。提供する商品・サービスが何
で、何故、顧客は対価を払ってそれを購入するか、それが実現する顧客価値は何かを突き詰めて考え、
立証することが必要である。
 ・その商品はどこが新しいのか。
 ・顧客が待ち望んでいたものなのか。
 ・安いから買うのか。あるいは同じレベルの性能のものだから、同程度売れると考えるのか。
 サプライヤー論理でなく、顧客の視点で考えられていることが必要である。それは書いている形式
だけでなく、その中身に顧客の視点があるかどうか。顧客のニーズや反応を立証できるテストデータ
や顧客のアンケートがあると説得力が増すことになる。


                     ~ 122 ~
⑤リスク分析:事業計画は、最悪に備えているか?
 リスク分析:事業計画は 最悪に えているか?
    分析
 経営環境は目まぐるしく変化しており、企業があらゆるリスクに対応して常に成功することは難し
くなっている。現実的には傷口が大きくならないうちに、業容を転換して経営革新を図る、また場合
によっては事業そのものを閉鎖することも考えなくてはならない。起業家は、あらかじめどういうリ
スクが予見されるか、それに対する対策は何があるかなど、リスクを十分に分析しておくことが、事
業計画の説得力を増すことにつながる。
 それには、まずどういうリスクがあるかを把握することから始める。一般には、顧客ニーズの読み
違え、新しい技術・サービスによる自社製品の陳腐化、市場の停滞や縮小、競争相手の参入、法律改
正などが考えられる。また、業界特有の問題、例えば飲食店であれば食材の感染問題や食中毒もある
だろう。少なくともリスク要因が十分上げられるだけの業界知識がないと成功は覚束ない。最悪のシ
ナリオや環境も想定して備えることも、ビジネスをスタートさせる上で考えなければいけないことで
ある。

⑥ビジネスプランで必要な項目と内容
 ビジネスプランで必要な項目と
         必要
 完成した事業計画書の形式はさまざまであるが、最近では最終的にパワーポイントで作成し、A4版
横で印刷した資料とすることが多い。必要な項目は、下表のようなものである。
 先述のように、計画書が提出される投資家や銀行の担当者は多忙であり、じっくり読む時間はない。
それだけに事業計画書の最初の5ページ(導入部分)で彼らに興味関心を持たせるような流れで作成
しなければならず、計画書の最初に計画書のサマリー(まとめ)、自社のプロフィール、事業の全体像
を配置し、会社がどのようなもので、この計画書で何を言いたいのかを説明するのである。


               ◆ビジネスプランの標準的な記載項目(例)
  1   プレビュー      1.表紙
                 2.サマリー
                 3.目次
  2   会社プロフィール   1.会社概要
                 2.経営陣プロフィール
                 3.社外の支援者、アドバイザー、協力体制
  3   事業の全体像     1.基本方針、経営の理念
                 2.事業の内容
                 3.ターゲットとする市場
                 4.顧客ニーズとその対応策
  4   事業の分析      1.主力製品・サービスの開発・製造・販売のプロセス
                 2.新規性、独自性の分析
                 3.市場規模、特性、将来性
                 4.市場の競合状況、自社の優位性
                 5.市場で取るポジション
                 6.リスクの分析
  5   事業展開       1.商品・サービスの開発計画
                 2.製造・調達計画
                 3.販売計画
                 4.将来(1~5年後)の予測と戦略
  6   財務計画       1.収支計画
                 2.資金計画
                 3.財務分析(損益分岐、財務指標分析)
  7   資金調達計画     1.資金調達の目的
                 2.資金調達形態(スキーム)
                 3.今後の調達スケジュール、他の調達先候補
  8   参考資料       1.会社・主要メンバーの信用調査先(リファレンス)
                 2.関連調査資料、データ




                       ~ 123 ~
Ⅳ.会社機関設計と設立
  会社機関設計と

  学習内容:事業を行うための組織として、「株式会社」の機関設計と設立を学習する。
   ①会社の機関設計
   ②会社の名称、住所、目的
   ③株式と資本構成
   ④役員構成と株主総会、取締役会
   ⑤会社の登記
   ⑥雇用と就業規則
   ⑦事業を開始するための諸届け



( 1 ) 会社の 機関設計
      会社 の
 事業は、考えと行動だけでは前に進まない。「会社」という箱を作り、その箱のもとでビジネスを展
開し、その成果を売上と費用という数値により計算し利益(損失)を生み出し、資金を提供した投資
家や銀行に配当や返済を行っていかなければならない。したがって、実際に会社を作り、どのような
基本ルールに基づいて会社を運営していくのかを学習することが重要である。この会社の基本ルール
づくりのことを「会社の機関設計」と呼ぶ。
 しかし実際のところ、ベンチャーに乗り出す起業家は、この「会社」を設計しルール作りをすると
いう考えが抜けていることが多いのである。

◎どのような会社を作るか?:会社の種類
 どのような会社を るか? 会社の
      会社
 ベンチャー企業を始める際、どのような会社を作るかを考える必要がある。もちろん、会社を設立
せずに「個人事業主」として自分だけで事業を行う手段もある。個人でビジネスの責任を負い、利益
も損失も個人が処理するつもりならば、個人事業で経営する手段も考えられる。しかし、起業家個人
だけでなく創業メンバーが共同で事業を行う場合には、利益分配や責任分担、他者との契約、従業員
の雇用を考えれば、「会社」を作って経営する方が効率的である。
 会社には、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社がある。合名会社、合資会社、合同会社の3
形態は、概して10名以内の少数の株主メンバーによる少人数経営に適した会社形態であり、基本的に
全員一致を原則とした規則で運営されている。したがって、外部の投資家が株主となるような資金調
達を考えるベンチャー企業の場合には、株式会社の形態での会社運営が適している。

◎まず何を決めなければならないか?:機関設計で必要な項目
 まず何  めなければならないか?:機関設計で必要な
                ?:機関設計
 株式会社を設立するには、まず以下の事項を決めなければならない。この事項が決定されたことを
前提に株式会社ははじめて公認される、すなわち登記される。トヨタも、SONYも、ミクシィも、
今活動している会社はすべてこうした作業を行っているのである。

     ○機関設計で決定すべき事項(基本項目のみ)
      ・会社の名称と場所。
      ・会社の目的。
      ・取締役と監査役。
      ・代表取締役。
      ・発行する株式および株主構成。
      ・取締役会、株主総会。
      ・会計と決算。




                        ~ 124 ~
定款の
定款の決定
 このように機関設計で取り決めた内容は、「定款」(ていかん)という会社の基本規則の書面に記載
することで正式なルールとなる。会社の定款を正式に決定し、この定款を登記(国の法務局に登録)
することで、その会社が公に認められたものとなるのである。
 ●定款(ていかん)とは?
  定款(
  定款 ていかん)とは?
 ・会社などの法人において、その目的・組織・活動・構成員・業務執行等についての基本規則、ま
  た、それを記した書面・記録。
 ・すなわち、会社の定める規則の中で基本かつ最高のもの。「定款は会社における憲法」である。

取締役、監査役の
取締役、監査役の決定
 株式会社には1名以上の取締役を設置することが必要である。また、監査役は、監査役を選任しない
旨を定款で定めて設置しないこともできるが、株式公開を目指すような株式会社では監査役を設置す
る会社が大半である。
 取締役は、会社内では会社の業務執行を行い、社外に対しては会社を代表する者である。また、取
締役会設置会社(取締役会を設置している株式会社)においては、取締役が取締役会の構成員であり
取締役会での議決権を持つ。また、取締役と監査役の任期は定款で定める必要があり、取締役は1年か
2年の任期、監査役は4年の任期が多い。

代表取締役の
代表取締役の決定
 代表取締役は、株式会社を代表する権限(代表権)を有する取締役であり、取締役会を設置してい
る会社においては、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない(会社法362条3項)
                                           。取締役
会非設置会社においては、各取締役が原則として会社の業務執行権と代表権を有するため、必ず取締
役の中から代表取締役を選定しなければならないわけではない。

決算日の
決算日の記載
 そして、会社の定款で決算期を決めなければならない。会社の決算は1年の中である特定の日を1
日だけ決算日に指定しなければならない。会社が事業を行う事業年度は1年間を超える年度は認めら
れておらず、3年間の事業年度とすることはできない。通常、会社の事業年度は1年であり、決算日
は3月31日とか12月31日と取り決め、定款に記載しなければならない。


      会社の 名称、 住所、
( 2 ) 会社 の 名称 、 住所 、 目的
 まず、会社の定款に何を定めるべきだろうか。一般には、定款の第一章を総則とし、会社の名称や
住所、会社の目的などの基本的な情報を決める。

                   (ソフトウェア開発会社の定款の例)
                         定 款
     第1章 総則
      (商 号)
      第1条 当会社は、株式会社○○○○○○と称し、英文では◇◇◇◇◇, Inc.と表示する。
       (目的)
       第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
       1. 通信システムによる情報サービス。
       2. 情報管理、処理サービス。
       3. コンピュータシステムによる計算業務の受託。
       4. データ通信システムに係る装置の開発及び保守の受託、販売。
       5. コンピュータソフトウェアの開発及び販売。
       6. 情報通信システムに係るコンサルティング業務。
       7. 特許権の保有、取得、運用。
       8. 情報通信技術者の養成。
       9. 電話回線およびインターネットを利用した電話番号案内等の情報提供サービス。
      10. 前各号に附帯する一切の事業。
       (本店の所在地)
       第3条 当会社は、本店を東京都渋谷区に置く。
       (公告の方法)
       第4条  当会社の公告は、官報に掲載する。




                          ~ 125 ~
実際のところ、会社の名称ひとつを決定するのも簡単ではない。社長になった起業家も自分の好み
だけではなく他のメンバーの意見も聞く必要があるし、世間が好印象を持つ社名でないといけないか
らだ。さらには、同じ地域で似たような名前の会社があると、業務を行う上で支障が出てくる(注:平
成18年5月に施行された新会社法以前には同一市町村で類似の社名を使わないようにする規則が定められていたが、
新会社法施行後はその規則は撤廃されている) 。
 こうして会社の社名を決めた後は、会社の事業の目的を定める。そして会社の本店(本社)の住所
を定め、定款が段々と出来上がり、会社の機関設計が定まっていく。


( 3 ) 役員構成 と 株主総会 、 取締役会
      役員構成と 株主総会、
○株式会社を作る
 株式会社を
 株式会社における最高の決定機関は「株主総会」である。この株主総会で会社の重要事項を議決す
る。株主総会で議決された取締役が会社の業務を執行し、監査役が会計や業務を監査する。会社の業
務執行を決定する会議が「取締役会」であり、株主総会で選任された取締役と監査役が出席する権利
がある。そして取締役会で決定された方針や内容に従って、代表取締役が責任をもって担当役員や各
部の部長に業務を指示して会社を実際に運営していく。
 ベンチャー企業を設立する場合も、通常の株式会社と同様に、取締役会、取締役、監査役に関する
の基本ルールを定款で定める。その基本ルールとは、取締役会の開催規則、取締役や監査役の数や選
任の規則が中心である。

                          一般的な株式会社の組織図
                                 株主総会

                                             監査役
                                 取締役会


                             代表取締役社長


                  執行役員A       執行役員B         執行役員C


           営業部     購買部     製造部        開発部   総務部     経理部




      株式と
( 3 ) 株式 と 資本構成
 株式会社では、株式を所有する者が「株主」である。つまり、法的には、株主は会社の共同所有者
であり、その会社に対して一定の権利を持っている。しかし、株主は会社の運営についての義務や責
任はない。会社の運営は代表取締役をはじめとする取締役が執行責任を持ち、その取締役や会社の運
営を監査役が監督するのである。
 現代の株式会社においては、株主は、会社の運営に対して自分が出資した株式の価値(出資額)以
外の責任を負う必要はない。会社が違法行為をしても倒産しても、株主は出資した金額以外は責任を
負う必要はない。このことを「株主の有限責任」
                     (=株主の出資金額分を限界とする責任)と呼んでい
る。このように株主は会社に自分の投資額以上の責任と義務を負う必要がないからこそ、国民が予期
しないリスクを恐れることなく会社に投資ができるのであり、こうした株主の有限責任は資本主義制
度の基礎となっている。

①株主の権利
 株主の
 株式会社の株主は、3つの権利を持っている。
 1. 議決権:会社の株主総会における議決に参加できる権利。その議決権はそれぞれの株主が保有す
    る株式数に比例する。




                            ~ 126 ~
2. 利益配当請求権:会社の所有者は出資者である株主であり、会社の利益は株主に帰属する。会社
    の利益を配当として株主が得るのか、それとも次の年度に残すのかは、代表取締役が決めるので
    はなく株主の権利である。
 3. 残余財産分配請求権:会社が解散をした場合には、株主は株式数に応じて、解散処理後に残った
    会社の資産を所有する株式数に応じて得ることができる。

②株式に関するルールの設計
 株式に するルールの設計
 会社は、株式を発行して、会社の持ち分という価値を、1株当たり10万円というような値段(株価)
をつけて投資家に譲り渡す。投資家は、株式をある値段で購入することにより会社に投資する。つま
り、投資家は金銭を支払って株式を購入し、その会社の先述のような権利を獲得するのである。
 会社を設立する時には、その株式に関する基本事項を定款に定める必要がある。 その基本事項とは、
 ・会社が発行できる株式数の上限。
 ・株式の権利。
    (普通株式か、特定の権利を持った優先株を発行できるか。)
    (株式の譲渡制限の有無:株式は自由に譲渡売買できるか、取締役会の許可が必要か。 )
 ・株式の取扱いの規定。
 が代表的な事項である。

③株式発行による資金調達
 株式発行による資金調達
      による
 したがって、新しく会社を立ち上げる起業家は、自分達の会社の株式を発行し、それをある値段(株
価)で投資家に買ってもらうことにより、会社の資金を調達できる。例えば、1株10万円で500株の株
式を投資家に買ってもらうことができれば、会社は10万円×5000株=5000万円の資金を獲得すること
ができ、しかも融資とは異なり「返済義務のない資金を得る」ことになる。株券という一枚の紙切れ
を1株10万円のような値段をつけて投資家に販売することによって、会社は資金を得ることができる。
                   (実際の株券の見本)




④資本構成の検討
 資本構成の
 しかしながら、株主とは会社の所有者であり、会社の基本事項を決めることのできる者である。会
社の株式を100%外部の投資家に売ってしまえば、その会社は起業家や創業メンバーのものではなく、
投資家の所有となり、投資家が会社の事項をすべて決めることができるようになる。そうなると、起
業家達は会社を立ち上げても、 (役員や従業員としての給与報酬はあっても)配当は得られず、会社の
株式を所有してなければ会社が拡大して会社の価値が高まってもその恩恵を受けることができない。
 したがって、起業家達は、株式による資金調達を行う際には、 「会社を高く売る」ことにより、自分
達の保有する株式のシェアをできるだけ高いままにしたいと考える。株式発行によって会社の持ち分
を投資家に売るのであって、少ない持ち分を高く売るのが起業家達にとって有利である。逆に外部の
投資家は、多い持ち分を安く買いたい。この両者の利害の違いから、株式による資金調達では、起業
家達(会社の経営者)と投資家の間で交渉が行われ、両者が合意した株価で投資が行われる。この合
意した株価に会社の発行した株数を乗じた金額が、会社価値(企業評価価格)である。
 起業家達は、こうした株価とともに、株式発行によって、自分達それぞれの保有する株式数やその
割合がどうなるのか、そして投資家の株数の割合がどするかという資本構成に細心の注意が必要とな
る。なぜならば、株主総会における株主の「議決権」は株式数に比例したものであり、配当も株式数
に比例する。したがって、起業家達が高い株式シェアを持てば株主総会で自分達の株式数で多数決を
得ることができるが、逆に株式シェアが低ければ外部の投資家の意見が通ってしまう危険性がある。

                       ~ 127 ~
下表の例のように、会社創業時は創業メンバーや親族・知人だけで会社の株式を取得し、   「内輪のメ
ンバー」で100%の株式を保有することになる。しかし、外部の投資家が参加する場合(ここではベン
チャーキャピタルが投資する場合) 、表のように投資後には3000万円の資金調達が実現するけれども、
ベンチャーキャピタル2社が会社の株式の24%を保有する株主となる。
                            株式による資⾦調達と会社の資本構成(例)
                                        会社創業時                         ベンチャーキャピタルの投資後
                           取得株            発⾏時の                 取得株           発⾏時の
                                  シェア          資⾦調達額                  シェア             資⾦調達額
                            式数             株価                   式数            株価
          田中 洋   代表取締役社⻑    100   52.6%   ¥50,000 ¥5,000,000    100   40.0%
    創業
          ⻘⽊ 和夫 取締役          20   10.5%   ¥50,000 ¥1,000,000     20    8.0%
    メンバー
          上田 明   取締役         20   10.5%   ¥50,000 ¥1,000,000     20    8.0%
    親族・   田中 一成 田中社⻑の⽗親      30   15.8%   ¥50,000 ¥1,500,000     30   12.0%
    知⼈    ⽊村 安雄 田中社⻑の知⼈      20   10.5%   ¥50,000 ¥1,000,000     20    8.0%
    ベンチャー 第一キャピタル                                                30   12.0% ¥500,000 ¥15,000,000
    キャピタル 大阪キャピタル                                                30   12.0% ¥500,000 ¥15,000,000
                 合計         190   100%            ¥9,500,000    250    100%          ¥30,000,000




      会社の
( 5 ) 会社 の 登記
 株式会社は、法人登記がなければ成立しない。

    会社法第49条         株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。


 登記をしていない株式会社は法的に権利がないから、株式会社の存在が認められず、契約をしても
無効となる。したがって、会社の機関設計を定め、資本を集めた後には、公に認められた会社とする
ために「登記」を行う必要がある。法人登記は法務省法務局(いわゆる登記所)に対して行い、定め
られた事項を登記官が法人登記簿に記載することにより完了する。

                                          登記簿の例
           商号           インフォマート・システム株式会社
           本店           東京都渋谷区渋谷1丁目2番地○号
           発行株式総数                        190 株
           資本金の額                   金  9,500,000 円
           目的           1.通信システムによる情報サービス。
                        2.情報管理、処理サービス。
                        3.コンピュータシステムによる計算業務の受託。
                        4.データー通信システムに係る装置の開発及び保守の受託、販売。
                        5.コンピュータソフトウェアの開発及び販売。
                        6.情報通信システムに係るコンサルティング業務。
                        7.特許権の保有、取得、運用。
                        8.内外の他会社に対する投資、融資および債務の保証。
                        9.情報通信技術者の養成。
                        10.広告宣伝業及び広告代理店業。
                        11.電話回線およびインターネットを利用した電話番号案内等の情報提供サービス。
                        12.前各号に附帯する一切の事業。
           役員に関する事項     代表取締役        田中 洋
                        取締役          青木 和夫
                        取締役           上田 明
                        社外取締役        田中 一成
                        監 査 役         越山 淳

           平成23年3月11日 登記
                                                        東京法務局
                                              (登記官印)   ○○ ○○   (印)




                                            ~ 128 ~
( 6 ) 雇用と 就業規則
      雇用 と
 企業を経営していく上での「人、モノ、金、情報」が四大要素であり、人の生産性の向上がどんな
会社にとっても大変重要である。企業の経営者は、就業規則、採用研修、給与・ボーナスなどの人事
について様々な工夫を凝らして経営を行っている。
 従業員を雇って経営していくには、さまざまな法令や規則・制度に対応しなければならない。社会
にとって人は最も重要なものであり、会社が随意に人を雇って自由に使用することは民主主義の世の
中ではできないのである。例えば、会社が1人を従業員として雇用したらすぐに社会保険の支払い義務
が会社に発生する。
        、また、会社が10人以上の従業員(パートタイマーやアルバイトを含む)を雇用す
る場合は、労働基準法により会社に就業規則の作成が義務づけられている。こうした会社の労働や社
会保険の業務は小さな会社では専門知識を身につけるのは難しいため、多くの会社では社会保険労務
士に相談し指導を受けている。

 ≪人を雇う際に必要なこと≫
 ・従業員を雇用する際の法律:労働基準法、労働保護法、労働契約法、男女雇用機会均等法。
 ・就業規則:法律に基づき、従業員の規則である「就業規則」を作成する。常時10人以上の労働者
  (アルバイト等も含む)を使用する事業場は就業規則を作成する義務がある。
                                    (労働基準法89条)
                                             。
 ・従業員を雇用する会社は各種保険に加入する義務がある。会社は、雇用保険、健康保険、厚生年
  金保険、労働災害保険等に加入し、また労働者の福利厚生を取り決める法律に従う。

      事業を 開始するための 諸届け
              するための諸届
( 7 ) 事業 を 開始 するための 諸届 け
 会社を創業し、事業を開始する場合、公的な法令に従い、かつ社会との基本的な関係を構築するた
めに、届出を行う必要がある。
 たとえば、会社を設立すれば税務署に法人設立の届け出をし、人を雇えば社会保険事務所と労働基
準監督署に届け出を出す必要がある。また、飲食店を始めるには、保健所に「食品営業許可」を申請
し、かつ食品衛生責任者の資格を持った者を各営業店に1名置く必要がある。危険物を取り扱う場合や
特別な場所に出店する場合は、法令に応じて届出や許可・認可が必要になる。これらに従って業務を
処理していないと、業務自体が認められず、場合によっては罰せられることもあるからである。

Ⅴ.事業の開始
  事業の
 こうして、会社が設立されれば、法的に会社が認められ、契約行為もでき、従業員も雇用できるか
ら、晴れて株式会社としてスタートすることになる。起業家にとって忘れがたい日である。日本には
「創業記念日」を設けている会社が多いが、この創業記念日とは法務局で登記され会社が設立された
日のことである。
 会社が設立されれば、事業を始めることになる。取引先やお世話になっている人々・企業に対して
株式会社を設立したことを知らせ、お礼と今後の支援を願い出る。懇意なところから本社にお祝いの
花輪が届けられる会社もある。これからが起業家にとっての本番である。




  ■設問34
   設問34

  1. 定款について簡単に説明しなさい。
  2. 代表取締役の役割を簡単に説明しなさい。
  3. 株主は、会社に対してどのような権利を持っているか。簡単に述べなさい。
  4 会社は登記をなぜ行う必要があるのかについて、理由を簡単に述べなさい。
  5 資本政策を作る際に注意しなければならない点を簡単に述べなさい。
  6 会社が従業員を雇う際に行わなければならない事項を3つ述べなさい。




                           ~ 129 ~
(参考-3)株主総会
                              株主総会

・
「株主総会」とは株式会社の最高の意思決定機関であり、株主が参加して会社の基本的な方針
 や重要な事項を決定する。「会社では社長さんが一番偉い」と思いがちだが、会社の重要な事
 項を決められるのは株主であり、社長が会社の株主でなければ、その議決にも参加できないの
 である。
・株主総会は「定時株主総会」と「臨時株主総会」がある。定時株主総会は、毎年度1回開催さ
 れる株主総会で、臨時株主総会は定時以外に臨時に招集される株主総会である。定時株主総会
 は、会社の決算日から3ケ月以内に開催する義務があるため、3月31日を決算日とする会社(3
 月決算会社)は6月30日までに定時株主総会を開く。
・株主総会で決議する事項は、会社法の定めにより普通決議と特別決議に分かれており、会社に
 とって重要な事項は特別決議を行う。普通決議は、出席した株主が持つ議決権(株数に比例し
 た株主総会での議決できる権利の数)の過半数の賛成があれば決議される。特別決議は出席し
 た株主の議決権の3分の2以上の賛成があれば可決される。

・下記は日産自動車㈱の2010年度定時株主総会の招集通知(抜粋)だが、この通知に当日の議
 案が記載されている。


                       第 111 回定時株主総会招集ご通知

  拝啓 ますますご清祥のこととお喜び申しあげます。
  さて、当社第 111 回定時株主総会を下記のとおり開催いたしますので、ご出席くださいますよう通知申しあげます。

                                    記
 1. 日時 平成 22 年 6 月 23 日(水曜日)午前 10 時
 2. 場所 横浜市西区みなとみらい一丁目 1 番 1 号 パシフィコ横浜 国立横浜国際会議場
 3. 目的事項
 報告事項
  1. 第 111 期(平成 21 年 4 月 1 日から平成 22 年 3 月 31 日まで)事業報告の内容、連結計算書類の内容
     並びに会計監査人及び監査役会の連結計算書類監査結果報告の件
  2. 第 111 期(平成 21 年 4 月 1 日から平成 22 年 3 月 31 日まで)計算書類の内容報告の件

 決議事項
 第1号議案 監査役 2 名選任の件
 第2号議案 当社の従業員並びに当社関係会社の取締役及び従業員に対しストックオプションとして発行する新
       株予約権の募集事項の決定を取締役会に委任する件
 第3号議案 取締役に対し株価連動型インセンティブ受領権を付与する件
                                           以 上
                                        日産自動車㈱の定時株主総会




                                                      当日の総会の写真




                              ~ 130 ~
第5部   ベンチャーズ・インフラ


Ⅰ.ベンチャーズ・インフラ
 起業家やベンチャー企業は、自分達だけで発展できるわけではない。企業・産業が有効に機能する
には、「インフラストラクチャー」(infrastructure、インフラ、社会的経済的な基盤)が必要である。
電気が安定的に供給されなければ事業が成り立つわけがないし、人材や、金融、証券、会計、法務、
コンサルティングのような機能が充実しているからこそ、企業は効率的に事業を経営できる。
 特に、経営資源が少ないベンチャー企業は、このようなインフラストラクチャーが充実していない
とスピーディーに発展していくことができない。逆に、インフラが充実しているアメリカのシリコン
バレーのような地域はベンチャーが目をみはるような発展をすることになる。ベンチャー企業の活動
は少数のファクターによって一律に強弱が決まるものではない。インフラや、時代背景、地域の状況、
社会意識、産業構造、技術革新など、多くの要因が影響し合って形作られている。ここでは、ベンチ
ャー企業の発展にかかせないインフラと環境を「ベンチャーズ・インフラ」と呼び、ベンチャーにと
ってそのような機能がなぜ必要であるか、またどのような機能を果たしているのかを考察する。
 ベンチャーの日米格差は周知の事実、では米国でベンチャーが成功して日本でなぜうまくいかない
か、という議論があちこちでなされている。このテーマは甲論乙駁、確とした答えはなかなか出てこ
ない。しかし、米国がすべてうまくいっているわけでもない。最近はカリフォルニア州などの西海岸
諸州やテキサス州、コロラド州でハイテク・ベンチャーが続々登場している一方で、東部や中西部諸
州のハイテク産業は思わしくなく、それなりに地域間格差がある。また、世界的にみると、新興企業
の活躍が目立つ国は、欧州ではイギリス、アイルランドと北欧、アジア地域ではシンガポール、香港、
インド、イスラエルである。他方、ドイツ、フランスや日本、韓国では、こうした起業家の動きが停
滞しているといわれる。
 また、日本でも昔からベンチャーが育たなかった訳ではなく、明治・大正時代、あるいは第二次大
戦後から高度成長の前半までの時期には、今日の多くの大企業が起業家によって勃興している。パナ
ソニック、ソニー、カシオ計算機、京セラ、本田技研、リンナイ、YKK AP、ダイエー、イトーヨーカ
堂(現セブン&アイ・ホールディングス)   、セコムといった大企業は、第二次大戦後から1960年代にス
タートしたかつてのベンチャー企業である。


Ⅱ.ベンチャーズ・インフラの要素
  ベンチャーズ・インフラの要素
 これまでの日本では、経済や金融制度のみならず、社会風土・慣行、学校教育、税制等の幅広い側
面において、起業や新興企業の経営に不利なシステムが存在したことは事実である。そのような従来
のシステムを着実に変革していくことが必要であり、世論も総論ではベンチャー支援に積極的である。
実際、ここ1、2年の創業支援に対する政策や民間の取り組みは、これまでのペースを大きく上回る
勢いであり、日本のベンチャー育成環境は着実に好ましい方向に変わりつつある。しかし、上記のよ
うな企業活動のインフラストラクチャーが一朝一夕に変わることはありえず、早急に変革の効果を求
めること自体に無理がある。むしろ、日本固有の制度や慣行を利用しつつ、創業に有利な社会経済環
境を整備することが重要とする意見も少なくない。

      社会的・
( 1 ) 社会的 ・ 文化的要因
 日本人の起業家意識が米国人に比べて弱いということは、既に各方面から主張されている。各国で
起業家が輩出されているかどうかの度合を国際比較したグローバル・アントレプレナーシッピ・モニ
ター調査(次表)をみると、日本では起業する割合が低いことは明らかである。日本で高い学歴を持
った若者は、まずは大企業のサラリーマンや公務員、あるいは医者や弁護士といった専門職を希望す
るのは大半であり、中小企業やベンチャーの経営者を目指すことは多くない。
 それゆえ、
     「日本人が米国人に比べ独立心の弱い国民であり、日本人の起業家意識も米国人に比べ弱
い。
 」という主張はむげには否定できない。しかし、こうした特徴は、それぞれの歴史の中で形作られ
てきた社会の価値観である。現時点では米国人が日本人よりも起業家的であるといえようが、米国人
の方がなぜ起業家的であるかについて考える際には、社会的なファクターから考えた方が適切だろう。

                        ~ 131 ~
Entrepreneurship Textbook vol.2
Entrepreneurship Textbook vol.2
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Entrepreneurship Textbook vol.2

  • 1. 第4部 ビジネスプラン Ⅰ.起業の機会と構想 起業の機会と 起業家を ( 1 ) 起業家 を 生 み 出 す 要因 大学生が就職先を決める理由が千差万別であるように、起業家がなぜ事業をスタートするかの要因 はさまざまである。 あえて、その要因を抽出し単純化すると、以下のように、個人的な要因と、環境的な要因に分けら れる。人がなぜ新事業に乗り出すかは、その人の個人的な理由であるとともに、社会環境にも影響さ れるからである。言葉を換えるならば、起業家は生来自分が持っているもので起業しようとするとと もに、周りや社会に動かされて起業しようとすることもある。 A.個人的要因 A.個人的要因 1. 性格 起業家が他の人間と大きく違うのは、平均的な人間よりも「独立心」が強いことである。起業家は、 他の人よりも自分の今後を自分で決めようとする独立願望が強い。 2. 出自 幼少期や学生時代の影響は何といっても大きい。例えば、起業家は、その親(父親)がサラリーマ ンであるよりも、自営業や会社を経営しているケースが多い。あるいは、経済的に豊かではなく、学 歴や資格を得て専門職につくよりも、自分で事業に乗り出したケースは、第2章の日本の起業家に見 るように多数存在する。 3. 過去の経歴 自分の意思で起業を選択するのは、これまでに知識・能力・人脈などを得ているからであり、過去 の仕事や職場が起業の意思に間違いなく影響する。公務員や鉄鋼会社から独立する人は少ないが、寿 司職人やラーメン店からは盛んに独立する。起業できる力を過去の勤務先で習得できるからだ。 4. 年齢 起業家の年齢や家族構成も重要な要素である。こうした面からは、独身者が起業にあたっての障害 が最も少ないが、子供がある程度の年齢になった50代後半からのシニア起業家も日本には少なくない。 B.環境、 B.環境、社会的要因 環境 5. 教育と大学 バイオテクノロジーや情報通信産業のハイテク・ベンチャーは、起業のアイデアが大学や研究所で 生まれることが多い。大学院生や付属研究施設の研究者、卒業生が大学時代のアイデアをビジネスプ ランにして資金を調達し起業するケースも多数起こっている。 6. 成功事例 周囲に成功事例や目標とする企業や人物があ ることも、起業家となるきっかけの一つである。 友人や親類で成功者がいるという事実も、ベン チャーを指向させる影響力になっている。 7. 周囲の環境と地域 周囲に創業を支援してくれる人々や組織があ るかどうか、あるいは起業に関係する人々の交 流組織やネットワークが広がっているかどうか といった社会環境もベンチャーにとって重要で ある。起業家経済が発展している地域では、多 業種のベンチャー企業や大企業、大学・研究所、 ベンチャーキャピタル、ベンチャー企業を取り 巻く弁護士、会計士、コンサルタント、ヘッド ~ 111 ~
  • 2. ハンターなどがこの地域の中で共存しており、生態系的なシステムが存在する。そこに学び、働き、 教える人々が、絶えず交流しあい組織を出入りしている。彼らが連合したり離れることで、ベンチャ ーが生まれたり潰れたりし、あるいは別のベンチャー企業が枝分かれして設立されている。 (2)起業家のタイプ 起業家のタイプ タイプ1 『生計上必要 起業家』 タイプ1 : 生計上必要な起業家』⇒ 必要な “ Necessity-driven entrepreneurs “ Necessity- ・仕事を得るために必要に迫られて起業するグループ。生活を営む仕事(生業)として起業する。 ・自営業、脱サラ、家業、同族会社に多い。 ・例:飲食業、クリーニング店、個人タクシー、家電小売店、衣料品小売店、など。 ・起業家の母集団としては、こういった「生計上必要な起業家」の割合が大きい。 ・特に発展途上国では、このグループの起業がほとんどである。組織的な企業の雇用が少なく、独 力あるいは自分の縁で個人事業を行わざるをえないからである。 ・全体としては、このグループから大企業に発展する割合は低いと考えられているが、この中から マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、ウォルマート(スーパー) 、サブウェイ(サン ドウィッチ)のような巨大企業に成長した起業家も存在する。 タイプ2: 機会を活かした起業家』⇒ タイプ2 『機会を かした起業家 起業 “ Opportunity-driven entrepreneurs “ Opportunity- ・自分にある機会を活かして起業するグループ。自分の意思と目標にもとづいて起業する。 ・いわゆるベンチャービジネスを起業する人々を指している。 ・「機会を活かした起業」においては、以下のようなビジネスのタイプがある。 A.『ハイテク・ベンチャー』 ・最先端分野において、日本国内だけでなく世界と競争し、勝ち抜こうとするベンチャー。 ・権利は特許などで保護する。 ・大企業との独立性を保ちつつ、提携で資金や人材という経営資源を得ようとする。 ・ビジネスのリスクは高いが、成功するとリターンが高い。 ・例:半導体ベンチャー、バイオベンチャー。 B.『技術応用・組合せ型の新事業ベンチャー』 ・起業家が過去の職場や経験で得た技術を応用して開始するベンチャー。 ・ニーズに合致すれば大当たりするが、ニーズ把握・市場開発が難しい。 ・例:風力発電ベンチャー、ネットベンチャー。 C.『技術改良型ベンチャー』 ・生業的なスモールビジネスから脱皮して、新事業で成長しようとする。 ・市場や消費者のニーズを熟知していることが多い。 ・小回りは利くが、大化けの可能性は小さい場合もある。 ・例:郊外型衣料小売、格安航空券、英会話学校、人材派遣、100円ショップ。 D.『アイデア勝負型の起業』 ・消費者のニーズをつかみ、新アイデアと新商品で人気・ブームを得ようと事業に乗り出す。 ・当たれば大きいタイプのビジネスであり、ブームが去るときの引き際が重要。 ・例:飲食店、アパレル(衣料)、美容(エステ、ビューティーショップ)など。 ( 3 ) 起業 のプロセス に 必要 な 事項 起業のプロセス 必要な のプロセスに ①スタートアップに必要な3要素 無からスタートするベンチャー企業の経営力は、既存の大企業を対象にした経営理論ではほとんど 説明できない。ベンチャーの世界は混沌そのものであり、不確実性やリスク、他社の攻勢、社内紛争 等の側面で経営を揺るがすような事件が頻繁に起こりうる。 こうしたベンチャー経営において、起業家がスタートアップするためには何が求められるか。何よ りもまず次の3要素が欠かせない。 ~ 112 ~
  • 3. 1. 創業者(Founders) 創業者( ) 事業を志した本人、あるいはベンチャーの 経営を担うマネジメント・チーム(経営陣) の力量が何よりも欠かせない。 2. 事業機会(Opportunity) 事業機会( ) いつ、どのマーケットに乗り出すか、自分 の持つ技術をビジネスにどのように応用す るか、どのようなかたちで事業を始めるか、 誰とビジネスを組むか、といった事業機会 の認識が必要である。 3.経営資源(Business Resource) 経営資源( 経営資源 ) 起業家の持つ技術をもとに始めたベンチャ ーで、これから何が必要かを検討しなけれ ばならない。資金や従業員、オフィスや工 場・機械、あるいは資材購入・販売のための提携先といったものが次から次へと求められる。 ②創業者と経営チーム ベンチャー企業が成功するには、「技術」よりも「創業者とマネジメントチーム」が重要である。ハ イテクベンチャーでは、市場を切り開くだけの技術が必要なのはもちろんである。にもかかわらず、 米国のベンチャーキャピタリスト達は、ベンチャーの企業評価(すなわち投資判断)において第一に マネジメントチームの力量を優先しているのである。この力量は具体的には、経営陣各人についての 技術力、経験、人格、リーダーシップ、周囲の評価や、彼らが過去どのようなポジションで何を行っ てきたかという経歴である。 例えば、ベンチャーキャピタリストにベンチャー経営で重要 な要因のトップ5は何かと問われた場合、「一にも二にもマネジ メントチーム。三、四がなくて五に市場の将来性」と答えると 言われている。ベンチャーキャピタリストの伝説的存在といわ れるアーサー・ロック氏は、「一流の経営陣を見つければ、彼ら は常に問題点を解決し製品を改良していける。私の失敗のほと んどはビジネスプランが悪かったのではなく、経営陣が悪かっ たせいである。」と語っている。 ③アイデアは必ずしも事業機会ではない 起業家が事業に乗り出すきっかけには、先にあげた「事業機 会」がかかせない。ここでいう機会とは、事業のアイデアのこ とを言っているのではない。世の中では、事業についてのアイ デアは起業の機会よりはるかにずっと多いはずである。アイデ アは必ずしも事業機会ではない。 事業機会は起業家が好きなようにこしらえるアイデアではな い。事業機会は、技術、マーケット、競争相手などが変化する 中で、利益になるビジネスとして成立する可能性があってこそ 生まれるものである。ベンチャーの成功は、この事業機会をしっかりとつかんだ企業のみが得られる ものである。したがって起業家にとって何が自分の事業機会か、いつどのように乗り出すべきか、と いう事業機会をとらえ理解するプロセスが重要になる。 実際、革新的なアイデアは世の中で一人だけの人間が見つけているわけではなく、大体は他にも似 たような構想を持っている人がいるものである。ダーウィンの進化論やアインシュタインの相対性理 論も、同じ時代に類似のアイデアを持っている学者が存在したことがわかっている。また、1959年に テキサス・インスツルメント社のジャック・キルビーが発明したIC(集積回路)も、その直後にロ バート・ノイス(後のインテル創業者)が独力で作っている。今日のインターネットの世界でも、ネ ットスケープだけが1994年にインターネット・ブラウザーを商品化したのではなく、同じくヤフーだ けがサーチエンジンを商業化したわけでもない。 ~ 113 ~
  • 4. ④市場のニーズをつかむ 起業家にアイデアはあっても、その製品やサービスは誰が求めているのか、誰に売るのか、という 認識が明確でないと、うまくスタートアップするのは難しい。これは古今東西に共通の単純な理屈で ある。顧客が求めない製品やサービスは、単なるアイデアであってビジネスとしては成立しない。き わめて革新的な製品が作られ、抜本的な低価格や高い品質・サービスによってこれまで隠れていた消 費者のニーズが一度に顕在化するケースもあるが、それは数少ない成功例である。 ⑤タイミング 事業に乗り出すタイミングも重要な要素である。起業家は潜在的には成功の可能性があるとしても、 他社や他の商品・技術との競合、経済環境、提携先や販売代理店などの諸々の条件がスタートアップ に好都合な時を選ぶことが肝要である。もっとも、最適のタイミングを選べといっても、起業家が自 信を持って判断できる程の十分な情報が集まってくるわけではない。好不況の経済サイクル、消費者 のトレンド、技術の変化のような、起業家が十分に予測できるとはいえないファクターを、どこまで 見極めて、かつ迅速にスタートアップし事業を拡大していくのか。誰もがわかる「最高のタイミング」 があるわけではない。 ⑥経営資源 たいていの起業家は、資金、設備、人員等の経営資源がほとんど手元にない条件から事業をスター トさせる。ここがベンチャーたるゆえんでもある。たとえば、アメリカの高成長新興企業を代表する 「インク500社」における設立時の資金調達をみると、全体の26%の企業で創業資金が5千ドル未満か らスタートしており、10万ドル以上の資金で始めた企業は全体の25%である。 したがって、起業家は次の点に注意を払わなければならない。 1.必要な経営資源の優先順位をつける:コストを節約しながら外部から経営資源を導入するというや : りくりが必要である以上、まずは何が必要か、どれから確保していくかを考えていく。 2.重要な経営資源は品質を落とさない:経営に決定的な経営資源のレベルを落とすことはできない。 : 例えば、コンビニエンスストアのような小売業で、賃料を重視するあまり路地裏の二階に入居す る起業家はいない。 :設立されたばかりのベンチャーはガレージ、 3.さほど重要でない経営資源を節約する: 工場跡のビル、 あるいは他の起業のオフィスに間借りしたりして、極力費用を切りつめる。中古のオフィス家具 をみつけて回ったり、通信販売で工具の一番安いものを一個ずつ買うような節約をする。 4.経営資源を社内で持たず、社外を活用する:ベンチャーの場合、従業員を常勤で雇用する必要はな : い。業務の一部を外部に委託(アウトソーシング)することもできる。自分の工場やオフィスを 所有せずリースすることも常套手段である。そのほか、会計や宣伝広告、マーケティングも外部 に委託するなど、コストをできるだけ低くすることはベンチャーに欠かせない仕事である。 ⑦開業資金の調達 起業家はアイデアや技術をみがき最適の機会を探り、開発計画や原材料の仕入れや従業員の採用を 検討したとしよう。検討するのはタダだけれども、事業をスタートするには資金が必要になる。この ような開業資金を調達するには、4通りの方法がある。 1.自己資金 自己資金とは、創業者メンバーの手持ち資金で作る資金である。開業する際の資金としては自己資 金が最も多く、中小企業全体でみれば、 開業資金の半分以上は、自己資金によって調達されている。 2.周囲・取引先からの調達 創業者の家族や友人、従業員、取引先等のパートナーが資金を提供する場合もかなり多い。彼らか ら借入や株式発行の形で調達したり、代金の前払などさまざまな形で、資金繰りをサポートしても らうものである。米国では、関係者からの調達と自己資金をあわせて、 「ブーツストラップ・ファ ンディング」(Bootstrap Funding、今あるものだけで何とかするという英語)と呼んでいる。 3.銀行借入 借入は企業経営では、最も一般的な資金調達手段である。当事者が企業と銀行のみであり取引が単 純で、株式発行に比べれば時間や手間がかからない。しかし、スタートアップしたばかりで資産も 信用もない企業が銀行から資金を調達するのは容易ではない。しかも、借入は創業者の所有権が守 られるが、当然ながら利子と元本を貸し付けた銀行等に返済しなければならない。ベンチャーのよ ~ 114 ~
  • 5. うに今後の収入の不確定要素の高い企業は、資金調達を借入には多くを依存しにくい。 4.株式発行 株式発行で調達した資金は、借入と違って返済の必要がない。その反面、創業者の株式所有比率が 下がり、経営への発言権も低下する。株式だから借入より義務が少ないわけではない。投資をする 外部株主は、ベンチャー企業が株式公開会社となって株式の価値が上昇することを期待している。 そうでなければ投資した企業が利益を上げて高い配当を出してくれることを期待している。外部株 主は、企業が高いリターンが期待できなければ、リスクが高いベンチャーには投資しない。それだ けに、起業家がビジネスプランによって投資家に説明したとしても、投資家が出資をしてくれるケ ースは少ない。たとえば、ベンチャーキャピタルに来る投資案件のうち、彼らが実際に投資するの は1000件の中で数件程度である。 下図は、国内のベンチャー企業を対象に、立ち上げから現在までの資金調達形態を調査すると、最 も多いのが銀行で、次いで本人(自己資金)である。 企業の立ち上げから現在に至るまでの資金調達(複数回答) ⑧収益をあげる 起業家にとって、収益は大企業の経営者以上に大きな目標である。 第一に、収益を上げなければ、経営者自身や従業員のサラリーすら払えない。収益を上げない限り は、常に資金調達に駆けずり回らねばならない。 第二に、ベンチャー企業がリスクの高い事業である以上、資金を提供する投資家や銀行は、大企業 よりも高いリターンを要求する。事業が失敗して「取りっぱぐれる」危険性が高い以上、この要求は 経済原理にかなっている。このためベンチャーは将来に高い収益性が見込まれていなければ、なかな か外部から資金を得ることは難しい。 ■設問31 設問31 1. 「生計上必要な起業家」とはどのような人々をいうのか。簡単に説明しなさい。 2. アフリカやイスラム世界では、「生計上必要な起業家」と「機会を活かした起業家」のどちらが多いだろ か。自分の考えと理由を簡単に述べなさい。 3. 「アイデア勝負型の起業」の具体的な例を、自分で考えて述べなさい。 4. 「経営資源」とはどのようなものか。簡単に述べなさい。 5. 起業家は、なぜ経営資源を節約しなければならないか。簡単に述べなさい。 6. 「アイデアは必ずしも事業機会でない」ということについて、簡単に解説しなさい。 7. 起業家が開業時点で調達する資金で最も多い形態について述べなさい。 ~ 115 ~
  • 6. Ⅱ.ベンチャーの組織運営と経営モデル ベンチャーの組織運営と経営モデル 組織運営 ベンチャー的経営 ( 1 ) ベンチャー 的経営 「ベンチャーは、 種がまかれ、 芽がでて、 ふくらみ、 育ち、 収穫される」 " Ventures are sown, sprout, grown, and harvested." -Jeffry Timmons “New Venture Creation” ベンチャー企業の成長は均質的、安定的なものではないが、ベンチャ ーの経営を時間軸でみると、大きく創業期、高成長期、成熟期、安定期 の4つに分類される。創業期は、ベンチャーをスタートさせた後2~3 年までの期間である。最も経営問題が起こりやすく、苦難の多い、すなわち起業家にとって危険性が 高い期間であり、この時期に半分以上のベンチャーが淘汰されていく。売上高はゼロから数百万ドル 以下、経営者は創業者を含め2~3名、従業員も20名を超えるケースは少ない。創業期の艱難を過ぎ ると、売上が急速に伸びる高成長期に入る。この時期には、業容が拡大するにつれ経営陣や従業員の 数が増え組織も拡大する。 創業期から高成長期にかけての経営スタイルは、 Doing(実行中心型)と呼ばれる。絶え間ない変化、 問題、不安定の中にベンチャーの経営は置かれている。皆早く会社を立ち上げ軌道に乗せるために必 死になっており、社内の経営陣・従業員各人の指揮命令系統や具体的責任を細かく検討する時間はな い。経営は創業者の力と意志によって運営されており、社長一人が会社をひっぱる「トップダウン」 経営である。従業員は少ないだけに会議、決定、通知、あるいは従業員間のコミュニケーションは組 織化されたものではなく、その都度弾力的に行われることがほとんどである。 ベンチャー企業が高成長期に入り、売上や従業員が急増する中では、経営形態が変化していく。業 務量が増えるに従い、ベンチャー経営者は自分や同僚・従業員の業務分担を決め、責任範囲や各人の 裁量度を定めていく必要がある。つまりこの時期の経営はManaging(組織中心型)である。さらに、 業容が拡大する成熟期、安定期に入ると、経営者はさらに権限を下位の従業員に委譲し、彼らが経営 の意志決定や業務を遂行していき、経営者はその管理者の管理が仕事となる。したがってこの時期の ベンチャー経営者は、Managing Managers(=組織管理者)としての特性が強くなる。 ( 2 ) ベンチャー 経営者 は 他 とどう違 うか ベンチャー経営者 経営者は とどう 違 以上に述べた起業家としての資質や能力は、全体的には普通の企業経営者が求められているものと さして変わらないように思うかもしれない。実際、企業経営者やマネージャー層がこのような力を充 分に持っていたらどんなにか素晴らしいことだろう。しかし、ベンチャー経営者である以上、力点の 置かれ方が異なる。ベンチャーのように高成長をめざす社歴が若い企業と、充分な経営基盤があり安 定経営を続けている大企業の経営者(ここでは管理的経営者と呼ぶ)との違いを考えてみよう。この 差異は、以下の8つのポイントに整理できる。 ①起業家は創造的である 起業家は創造的である であ ベンチャー企業は新しいものを創っていかねば淘汰されてしまう。同時に起業家は何かを創造しよ うとして独立している。大企業の経営者は会社を安定的に存続させることに注力するが、起業家に期 待されるのは安定や維持ではなく創造である。既存の知識だけでは新しいものは創造できない。起業 家は知的好奇心と想像力で新しいチャンスをみつけ、それをどう成功させていくかに長けている人間 が多い。決して学位や専門知識だけの人間ではないことは、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズの 成功が示している。20年余にわたりハイテク巨大企業の経営者を務めている二人は、博士どころか、 大学に4年通うこともなく中退しているのである。 ②戦略の違い 戦略の 大企業の管理的経営者は、現在自分達が持っている経営資源をどのように維持し活用していくかを 重視するが、起業家が目指すものは、自分のビジネスチャンスを事業として成功させることである。 ビジネスチャンスはたえず変化する。ベンチャーは経営資源も少なく、またビジネスチャンスの変化 に迅速に柔軟に対応していくために、他から経営資源を獲得しなければならない。現在の経営資源の 活用と存続を重視するのが管理的経営者だが、起業家はチャンスに適合した新しい経営資源を求める。 起業家はビジネスチャンスを重視する ③起業家はビジネスチャンスを重視する 当然のことながらベンチャーの「リスク」は、他の企業よりも大きい。倒産につながりかねない問 題が発生することも多く、起業家はそれらの問題を短期に集中して解決しなければならない。一方、 管理的経営者は、経営問題の処理は起業家に比べて長期のスパンが許され、また自社内の部下や他の ~ 116 ~
  • 7. 経営者に委ねることも可能である。起業家は、結果第一主義の立場から迅速に意志決定を行い、議論 よりも実行を重視して、ビジネスチャンスをいかにうまく事業化するかに集中しなければならない。 ④経営資源の違い 経営資源の ベンチャーには、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源は限られている。ことに多くのベンチ ャーは慢性的な資金不足にさいなまれている。起業家は、常時外部の経営資源を獲得することに注力 するのに対し、管理的経営者は既存の自分たちの経営資源をどのように有効活用するかを重視する。 ⑤組織の違い 組織の 管理的経営者は、企業を運営するために重厚な組織や階層を充分に構築することを重視する。しか し、起業家は自分たちの個人的欲求は「独立」にあり、したがってベンチャー社内においてもフラッ トな階層、指揮命令系統やインフォーマルな人間関係を重視する。ベンチャー経営者は組織としてそ の権限や権威が裏付けられておらず、組織的な「虎の威」を借りず個人としての力量によってベンチ ャーを営んでいかねばならない。 ⑥起業家は経験不足である 起業家は経験不足である 他の大企業や長年経営されている中小企業に比較して、ベンチャーの経営陣は平均して若くビジネ ス経験が少ない。彼らが会社を設立して直面する経営問題は、過去に彼らが経験していないことがほ とんどであろう。このため、ベンチャー経営者は未体験のパズルを柔軟かつ冷静に解決していく力量 が求められる。 ⑦起業家は、非定型的・直感的な意志決定をする 起業家は 非定型的・直感的な意志決定をする しかも、ベンチャーのような高成長で変化が早く競争的なマーケットでは、経営者は不確実な情報 や論理でもって経営的な決断を行う場面にしばしば直面する。技術情報とともに、ビジネスとしての 収益性・成長性や社内外のネットワーク・人間関係などの情報・意見・アドバイスを踏まえて、ベン チャーを成長する方向に持っていくには、 論理や情報の整理分析だけでは対処できない。 ある意味で、 ビジネスや技術の「勘」がモノをいうのがベンチャービジネスでもある。これは多種多様な情報を迅 速に整理して自社の利益に結び付けられるアイデアを企画でき、決定できる能力である。おおざっぱ な言い方であるが、「頭が良く回る人」(英語でいうとQuick learner)であることが重要となる。 ⑧起業家は、ベンチャー的な企業風土を重視する 起業家は ベンチャー的 企業風土を重視する ベンチャーには、ベンチャー的な経営風土や企業文化が存在する。経営者も従業員も、寄らば大樹 の陰にいるよりも独立することを好み、そして自分達の会社が成長してIPOのようなかたちで成功 することを夢見ている。こうした彼らの価値観や個々人の目標は他の企業とは異なっている。経営陣 も管理者も地位や権威といったものにはこだわらず、自由な雰囲気やコミュニケーションを好む。ベ ンチャーの経営方針にも、このような起業家的風土が強く影響する。ベンチャーではフレックスタイ ム制などと制度づけるまでもなく、社員の裁量労働制は空気のように当たり前である。経営トップで あっても個室を持つベンチャーは少ない。オフィスにはいつでも自在にレイアウトを替えられるよう に、簡単な間仕切りで仕切った机、什器、会議室があるだけが普通である。 (参考資料)小野正人「ベンチャー 起業と投資の実際知識」東洋経済新報社。 ■設問32 設問32 1. ベンチャーの経営者(起業家)は、大企業の経営者とどのように違うかについて、上記の解説をもとに 自分の意見を加えて述べなさい。 2. 大企業の経営者はベンチャーの経営者と比較して、どこが有利か。自分の意見を述べなさい。 3. ベンチャー的な企業風土とはどのようなものと思うか。上記の解説をもとに自分の意見を加えて述べ なさい。 ~ 117 ~
  • 8. Ⅲ.ビジネスプランの作成 ビジネスプランの作成 ◎ビジネスプランとは、新しい事業の「事業計画」のことである。企画書、事業計画書と呼び換え ることもできる。重要なことは、何を、何のために、どのように書くのかを最初に理解しておく ことである。 ◎ビジネスプランの最終目的は、 『資金調達をすること』であり、この理解が最も重要である。 ◎ベンチャーでなくとも、会社の新事業計画や、役所で行う企画書など、新しい取り組みには大抵 は企画書が存在する。ここで学習するベンチャーのビジネスプランは、こうした他の業態の企画 書作りにも十分に応用できる。 ビジネスプランを作成 する目的 作成する ( 1 ) ビジネスプランを 作成 する 目的 ①資金調達が最終目的 資金調達が ベンチャービジネスを立ち上げる場合に、起業家が最も欲しいものが資金である。『地獄の沙汰も金 次第。阿弥陀の光も金次第。』と諺で皮肉られるように、資金がなければ前に進まないのが世の常であ る。最終目的が資金調達であるだけに、調達を可能とするようなビジネスプランを書く必要がある。 ビジネスプランの立案は、資金調達という最終目的 資金調達という最終目的 資金調達という最終目的によ ってしばられている。 グルーポンの最初のビジネスプラン (紙ナプキンに書かれてある) 創業チームの目標と方針を共有化する チームの目標 ②創業チームの目標と方針を共有化する その資金調達は最終目的ではあるが、ビジネスプランに よって、 ベンチャーを立ち上げた起業家や参加メンバーの 目標と方針を一つの文書にまとめて、チームの中で「共有 化」ができることになる。 ③ビジネスプランを他に活用する ビジネスプランを 活用する また、ビジネスプランの一部を、 上の2つ以外の目的に 利用することも少なくない。 ・会社の核となる社員の採用の際に計画を説明する。 ・他企業との提携の際に、一部を説明する。 ・会計士、監査法人、弁護士に、会社の状況を説明する。 ( 2 ) ビジネスプランはトップ・シークレット 企業は競争の世界で生きている。特に、新事業に乗り出すベンチャーの大半は、激しい企業間競争 にさらされている。資金も人材も十分でないベンチャーは、知識、技術、ノウハウが最も重要であり、 それを他人に明らかにすると出しぬかれる可能性が高い。ビジネスプランは、ベンチャーという会社 の技術、ノウハウ、経営戦略の核心が書かれた資料であり、会社において「提出先以外には秘密にし なければならない資料」である。ベンチャーの多くは、ビジネスプランを提出先の金融機関や投資家 とは守秘義務契約書を結び、その情報が当事者以外にはっ絶対に流出しないような手を打っている。 ビジネスプランを書 ( 3 ) ビジネスプランを 書 く 前 に ビジネスプランを書く前に、頭にイメージを描かなければならないことは、以下の9点である。 ①事業を始める自分と時代環境を確認する。 ②市場(お客さんとライバル)と事業機会を調べる。 ③どんな事業を行うか、どうやれば利益を上げられるかを考え、計画を立案する。 ④損益分岐点と必要資本を検討する。 ⑤事業のリスクを検討する。 ⑥メンバーの役割を明確にし、会社立ち上げ後の作業の流れを描く。 ⑦事業計画を作成し、必要な事業資本のメドを計算する。 ⑧自分達の「会社の価値」(評価価格)を決める。 ⑨資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等)のリストと接触方法を構想する。 ⑩実際に資金を調達する行動をとる。 ~ 118 ~
  • 9. ①事業を始める自分と時代環境の確認をする 事業を める自分と時代環境の確認をする 自分 どんな会社も、事業を立ち上げる前提となる諸条件を確認しておく必要がある。この出発点が曖昧 だと、途中で大混乱が待っている。確認すべきポイントは以下の事項である。 ・どのような技術やサービスの発展を使って、どんな社会ニーズに応えようとするのか。 ・法令の制約や、業界でビジネスの制約はあるか。逆に自由化で制約が緩和撤廃されるか。 ・会社を起こすにあたって、自分や家族に制約はあるか(勤務先、収入、年齢、病気、教育等) ・自分が事業を興す真の動機は何なのか。その動機に矛盾はないか。 ・自分の経験や判断力、洞察力、対人能力のような力量に制約はないか。また、その制約を人の採 用や支援によってどのようにカバーしていくか。 ここでいう「制約」とは、創業メンバーの限界、あるいは欠けているものである。自分一人あるい は少人数で事業を始める訳であり、制約があるのが当たり前である。問題はその制約を理解しないま まに会社を立ち上げ、後でそれに気づくようなことが少なくなるように、ビジネスプランを作る段階 で制約を意識する必要がある。 ②市場(顧客とライバル)と事業機会を調べる 市場(顧客とライバル) 事業機会を とライバル ベンチャー企業の失敗の大半は、顧客と競合他社をよく見ていないことが原因である。 ・事業で販売する顧客はどのような人々か(世代・性別・好み・ライフスタイル)、あるいはどのよ うな企業・組織か。機械会社、製薬会社、通信会社、あるいは官公庁、学校か。どのようなニー ズを持つ会社か。 ・製品や商品を販売する場所はどこか。皆に知られている場所か。(立地、商圏、認知度) ・販売は、時刻や季節で変化するか。 (顧客の購買想像する) ・他の競合会社はどのようなビジネスをやっているか(やりそうか)(事業は常に隣との競争) 。 ③どんな事業を行うか、どうやれば利益を上げられるかを考え、創業計画を立案する どんな事業を うか、どうやれば利益を げられるかを考 事業 利益 創業計画を立案する どのような製品を作るか、何を販売し何のサービスを行って、顧客に買っ てもらえるようにするか。それはどれ位の規模の販売で、持続的に販売でき る規模か、という観点で事業の構想を立てる。 ・販売する製品・商品・サービス(商品開発)。 ・購入する顧客(標的市場、標的地域、標的の顧客の特性)。 ・商品・サービスを準備できるか(生産ライン、仕入れ、加工、在庫) ・店舗、販売方法(店舗・販売戦略と価格) ・事業は収益を上げられるか:製造(仕入)コストの見積もりと、販売し た場合の利益率、利益額。 ④損益分岐点と必要資本を検討する 損益分岐点と必要資本を検討する 事業の内容を決めて、儲かるかどうかを、さらに細かく具体的に計画を検討し構想していく。 ・販売計画、売上計画:何をいくらで、いくつ、どんな時間・時期に売るか。 ・仕入計画、経費の計画:いくらで材料を仕入れて、いくら経費がかかるか。開発や管理にどれだ けの費用がかかるか。 ・損益分岐点:経費が回収できる最低限の売上、販売個数はどれだけのものか。 ・この計画は、収益をあげられる(もうかる)計画だろうか。 ・事業の準備資金はどのくらいかかるか。=必要資本の見積り。 ・仕入や開発に、どのくらいお金がかかるか。 ・経費(事業に必要な機材・設備・道具・人員)が、どのくらい必要か。 ・事業が遅れた場合にかかる支払経費を前もって準備しておく。 ⑤事業のリスクを検討する 事業のリスクを検討する のリスクを検討 新しい事業はリスクが高い。また人材も資金も足りないから、十分な製品やサービスを世の中に出 せないことも少なくない。そのような制約のある状況だからこそ、事業を始める起業家は、予想され る事業のリスクについて、冷静に客観的に綿密に分析し、自分達の「弱点」を知らなければならない。 ⑥メンバーの役割を明確にし、作業の流れ図を描く メンバーの役割を明確にし、作業の 役割 にし 会社を立ち上げた段階で働いているメンバーについて、社長(会社の全責任者) 、開発、製造、販売、 仕入、経理、管理総務、それぞれの役割を明確にする。昔から「適材適所」と言うが、それぞれの知識能 力経験に応じて、役割(業務分担)を明確に定めることは実際の経営で重要である。 そして、これから開発、製造、販売、代金回収に到る事業の流れについて、各人が行う作業の大ま かな流れ図を描くことが有効である。 ~ 119 ~
  • 10. ⑦事業計画を作成し、必要事業資本のメドを計算する 事業計画を作成し 必要事業資本のメドを計算する のメド 最初に述べたように、ビジネスプランを作る最終目的は、投資家を説得し、必要な資本を調達する ことである。投資家にとって魅力的な事業計画を説明して、投資家が資金を出してくれるような内容 でなければならない。 ・事業の収益性が第一:したがって、学術的な研究水準が高いことを言っても、きれいで美しい資料 を作っても、「投資家が収益を得られそうだと判断できる」事業内容であることがまず必要である。 事業が高い収益を得られるか、事業のリスクはどのように対処して減らすか、について投資家が納 得できる内容の説明をしなければ、投資家は資金を出してくれない。つまり、ビジネスプランとは、 「お金」について現実的で実践的でなければならないのである。 ・必要資金の金額:そして同時に、事業ではいくらの資金が必要かを説明する必要がある。 ・資金の使途:また、投資家には、調達した資金を何に使うのか、どうして使わないといけないかを 説明しなければならない。 事業資金をうまく手に入れるには、理屈だけではない。とにかく相手(投資家)を説得するには、 いろいろな実践的なテクニックが必要である。とにかく、情熱を持って、誠意をもって投資家を説得 し、事業に必要なお金を投資してもらう。 ○ビジネスプランの実践的なテクニック ・事業や製品が、注目をひくような上手な名前を考える。 ・とにかく「製品・サービスが売れて、もうかる」ことを説得する。 ・第一印象を大切にする。 ・投資家への発表時間が短いので、時間内に上手にまとめる。 ・ビジネスプランは、わかりやすいように大きな字ではっきり書く。 ・5W1H(何を、いつ、だれが、どこで、なぜ、どうやって)をはっきりさ せる。 ・発表は、大きな声で自信を持って説明する。 ・発表の前に、メンバーとよく話をまとめて準備をしておく。 ・他社の良いところを真似して取り入れる。 ⑧自分達の「会社の価値」 企業評価価格)を決める 自分達の 会社の価値」 企業評価価格) (企業評価価格 ( 会社に投資するということは、その会社の株式を買うことであるが、その株価を決めなければなら ない。同じ1,000万円を投資するにしても、1株10万円で投資するのと、 1株1,000円で投資するのでは、 その会社の価値(企業評価価格)は、10万円:1,000円で100倍も違うのである。起業家側からすれば、 自分達の会社を投資家に高い値段で買ってもらう(上の例でいえば10万円の株価で株式を買ってもら う)ことを望むが、投資家はできるだけ安い会社の価値で株式を購入したい(上の例でいえば1,000円 の株価で株式を買う) 。その両者の思惑によって、資金調達においては、株価の価格交渉(=どの株価 にするか)が行われるのである。 したがって、ビジネスプランによって外部の投資家から資金を調達する場合は、投資家と交渉する 前に、自分達の会社がどれだけの価値(企業評価価格)があるのかを、まずは自分達の考えを決め、 それから投資家と価格交渉することが望ましい。 例えば、あるベンチャー企業で発行済の株式が5000株あるとする。その会社の株価を1株10万円にし たいというならば、その会社の価値はいくらだろうか?。 【会社価値の計算-1】 1株10万円(株価) ×5,000株(発行済の株式数)= 5億円 この5億円が「会社の価値」(企業評価価格、あるいは時価評価価格)である。 逆に、この会社で株価が1株1000円とすれば、会社の価値はどうなるか。 【会社価値の計算-2】 1株1,000円(株価)×5,000株(発行済の株式数)= 500万円 500万円 このように、二つのケースの間で会社の価値に100倍もの差がでてくる。起業家や創業メンバーにと って、会社価値が低まるということは、自分達が持っているベンチャー企業の株式の経済的価値が低 下すると同じである。それだけに、まずは会社の価値を計算することが起業家達の利害につながる。 ~ 120 ~
  • 11. ⑨資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等)のリストと接触方法を構想する 資金調達する投資家(ベンチャーキャピタル等 のリストと接触方法を構想する する投資家 接触方法 理屈だけで資金は調達できない。事業を理解してくれる、自分達のことを理解してくれる投資家に 資金を提供してもらうことが重要である。単に銀行が融資をするのではなく、投資家は自分達の会社 の株主になるのであるから、株主として意見を言ってくることが多いからである。 したがって、投資家の目的は何だろうか、投資家は、どこをどう評価してくるか、投資家は資金以 外に何を手伝ってくれるだろうか、投資家は、自分達の会社の価値(株価)どう評価するだろうか、 などの観点を予想し、対策を打つことが、資金調達の成功度を高めることになる。 ⑩実際に資金を調達する 資金を調達する 事業に必要な資本を調達するには、 ・投資家を説得し自社に投資をしてもらうために、投資家と打ち合わせをして、投資を決断しても らう。 ・投資を決定した後、会社は株式を発行するための作業を行う。株式を発行するには、取締役会の 決議が必要であり、また投資家がベンチャーキャピタルの場合は投資条件を同意した投資契約書 の締結が必要となる。 また、投資(株式出資)ではなく、銀行から融資を受ける(会社が銀行借入を行う)場合には、投 資家への説得と同様に事業計画を説明して、銀行の融資担当者に銀行の判断として融資が可能かどう かを判断してもらう必要がある。融資が決定した後は、融資の契約書(正式には「金銭消費貸借契約 書」 )に、借り入れる企業の代表者(代表取締役)と銀行が契約書の内容に合意し両者の印鑑を捺印し て契約が成立する。 ★融資は事業の成否に関係なく返済義務を負う (株式との根本的な違い) 融資の場合は、会社の事業がうまく行っても事業が頓挫しても、契約書で合意した借入額に金利を 合計した金額(元利)を、間違いなく銀行に返済する必要がある。この点が株式出資による投資との 根本的な違いである。株式出資は事業の成否により配当を払ったり無配であったりするし、会社が倒 産したら株式は無価値となるが、融資の場合、銀行は事業の成否を問わず貸し出した金額の返済を求 める権利がある。 会社は借りたお金(融資)は返さないといけないが、 株主(投資)に対しては返済義務はない。 ■設問33 設問33 1. ビジネスプランの最終目的は何か。 2. ビジネスプランを秘密にする理由はなぜか。 3. ビジネスプランを利用してできることをあげなさい。 4. ビジネスプランにおける「会社の価値」について、簡単に説明しなさい。 5. 融資と投資の違いについて、簡単に説明しなさい。 ~ 121 ~
  • 12. ( 4 ) ビジネスプランを 作 る ビジネスプラン を 実際には、株式会社のビジネスプランは「事業計画書」と名づけられて完成することが多い。この 事業計画書は、株式会社の取締役会に付議されて、会社として決定した事業計画となる。起業家は、 資金調達を求める銀行やベンチャーキャピタル等にこの事業計画を提出し、資金を提供(融資や株式 出資)が可能かどうかを検討してもらうことになる。 事業計画書を受け取った銀行やベンチャーキャピタルは、この計画書が同社の公式文書であるから、 これを真剣に読み、論理的であるか、外部環境をしっかり把握しているか、計画に無理はないか、遺 漏はないか、同社の長所・持ち味はどこか、問題点・欠点はないかなど、綿密かつ多面的に資金調達 を企図するベンチャー企業の分析を行うのである。それだけに、きちんと洗練された内容と形式にな っていないビジネスプランは、文字通り「門前払い」になる。 本気度 じられるビジネスプラン ①本気度が感じられるビジネスプラン 起業は、「夢」への第一歩であると同時に、多くは苦難が待ち受けるものである。起業家がその道を 歩み始めるに当たって、まずは十分な覚悟があるか、情熱が込められているかが重要なカギとなる。 起業家がそう思わなくとも、経験のある投資家や銀行の融資担当者はそう思っている。彼らは、起業 家の情熱の感じられないビジネスプランでは、資金を出す考えにならない。思いつきや軽いノリで始 めようとしても、ビジネスプランの中でそれが露呈してしまう。アイディアだけで起業しようと相談 に来る人もいるだろうが、思いつきだけで成功する人はいない。思いつき=アイディアを、いかに実 行可能なビジネスプランに昇華させるかが重要である。本気のビジネスプランから、周到な準備と細 心の計画がくみ取れ、かつ成功に向かっての強い信念が読み取れるビジネスプランを目指さなければ ならない。 ②独りよがりのビジネスプランでないこと 良いビジネスプランは、起業家が独力で一気に書き上げることは少ない。起業家一人の能力や情報 は限界がある。起業家の弱点を補強してくれるパートナーと共にビジネスプランを練り上げるのが現 実的である。起業家を理解する人、目指すビジネスに経験や造詣の深い先輩を探し出して、ビジネス プランに対するアドバイスをもらい、欠点を発見し修正していくのである。 ③簡潔で、わかりやすく、成功を予感させるものであること 簡潔で わかりやすく、成功を予感させるものであること 投資家や金融機関に理解してもらうためにはたくさん記述した方がよいと考える人も少なくない。 プレゼンテーションでも長々と事業内容を説明する人がいる。しかし、部厚いビジネスプランは変化 に対応して適宜見直しを図るには不向きであり、それを読む忙しい投資家の目には止まりにくい。 簡潔で、メリハリがあって、ポイントをはずしていないこと。そして洗練度が高くまとめあげられ たビジネスプランこそ望ましいものである。米国には「エレベータ・ピッチ」という言葉がある。エ レベータに乗っている間にビジネスを説明して、投資家を巻き込んでしまう位の熱意と資料であるこ とが大切と言われる。例えば、A3見開き1枚のビジネスプランのサマリー(まとめ)を使って、自分 の口で3分以内に事業を説明できるような訓練が必要である。 簡潔さとともに、「わかりやすいこと」も重要である。専門的な説明のみに終始すると、読み手の理 解度を下げ、興味を失わせる。 また、市場や財務のデータは、「数字」はごまかしの効かないものであり、説得力を増すために重要 であり、ビジネスプランを構築する上で根幹となるものである。「全く新しい商品だから予測がつかな い」 「爆発的に売れる」という人も少なくないが、それでは検討と分析の練度が低いことを吐露してい るにすぎない。まとまった統計データがなくても、他の代替できるデータや推定データを活用するこ とが可能なはずである。 ④顧客の視点で考えていること 顧客の視点で ている ビジネスプランは、顧客の視点で考えられていることが必要である。提供する商品・サービスが何 で、何故、顧客は対価を払ってそれを購入するか、それが実現する顧客価値は何かを突き詰めて考え、 立証することが必要である。 ・その商品はどこが新しいのか。 ・顧客が待ち望んでいたものなのか。 ・安いから買うのか。あるいは同じレベルの性能のものだから、同程度売れると考えるのか。 サプライヤー論理でなく、顧客の視点で考えられていることが必要である。それは書いている形式 だけでなく、その中身に顧客の視点があるかどうか。顧客のニーズや反応を立証できるテストデータ や顧客のアンケートがあると説得力が増すことになる。 ~ 122 ~
  • 13. ⑤リスク分析:事業計画は、最悪に備えているか? リスク分析:事業計画は 最悪に えているか? 分析 経営環境は目まぐるしく変化しており、企業があらゆるリスクに対応して常に成功することは難し くなっている。現実的には傷口が大きくならないうちに、業容を転換して経営革新を図る、また場合 によっては事業そのものを閉鎖することも考えなくてはならない。起業家は、あらかじめどういうリ スクが予見されるか、それに対する対策は何があるかなど、リスクを十分に分析しておくことが、事 業計画の説得力を増すことにつながる。 それには、まずどういうリスクがあるかを把握することから始める。一般には、顧客ニーズの読み 違え、新しい技術・サービスによる自社製品の陳腐化、市場の停滞や縮小、競争相手の参入、法律改 正などが考えられる。また、業界特有の問題、例えば飲食店であれば食材の感染問題や食中毒もある だろう。少なくともリスク要因が十分上げられるだけの業界知識がないと成功は覚束ない。最悪のシ ナリオや環境も想定して備えることも、ビジネスをスタートさせる上で考えなければいけないことで ある。 ⑥ビジネスプランで必要な項目と内容 ビジネスプランで必要な項目と 必要 完成した事業計画書の形式はさまざまであるが、最近では最終的にパワーポイントで作成し、A4版 横で印刷した資料とすることが多い。必要な項目は、下表のようなものである。 先述のように、計画書が提出される投資家や銀行の担当者は多忙であり、じっくり読む時間はない。 それだけに事業計画書の最初の5ページ(導入部分)で彼らに興味関心を持たせるような流れで作成 しなければならず、計画書の最初に計画書のサマリー(まとめ)、自社のプロフィール、事業の全体像 を配置し、会社がどのようなもので、この計画書で何を言いたいのかを説明するのである。 ◆ビジネスプランの標準的な記載項目(例) 1 プレビュー 1.表紙 2.サマリー 3.目次 2 会社プロフィール 1.会社概要 2.経営陣プロフィール 3.社外の支援者、アドバイザー、協力体制 3 事業の全体像 1.基本方針、経営の理念 2.事業の内容 3.ターゲットとする市場 4.顧客ニーズとその対応策 4 事業の分析 1.主力製品・サービスの開発・製造・販売のプロセス 2.新規性、独自性の分析 3.市場規模、特性、将来性 4.市場の競合状況、自社の優位性 5.市場で取るポジション 6.リスクの分析 5 事業展開 1.商品・サービスの開発計画 2.製造・調達計画 3.販売計画 4.将来(1~5年後)の予測と戦略 6 財務計画 1.収支計画 2.資金計画 3.財務分析(損益分岐、財務指標分析) 7 資金調達計画 1.資金調達の目的 2.資金調達形態(スキーム) 3.今後の調達スケジュール、他の調達先候補 8 参考資料 1.会社・主要メンバーの信用調査先(リファレンス) 2.関連調査資料、データ ~ 123 ~
  • 14. Ⅳ.会社機関設計と設立 会社機関設計と 学習内容:事業を行うための組織として、「株式会社」の機関設計と設立を学習する。 ①会社の機関設計 ②会社の名称、住所、目的 ③株式と資本構成 ④役員構成と株主総会、取締役会 ⑤会社の登記 ⑥雇用と就業規則 ⑦事業を開始するための諸届け ( 1 ) 会社の 機関設計 会社 の 事業は、考えと行動だけでは前に進まない。「会社」という箱を作り、その箱のもとでビジネスを展 開し、その成果を売上と費用という数値により計算し利益(損失)を生み出し、資金を提供した投資 家や銀行に配当や返済を行っていかなければならない。したがって、実際に会社を作り、どのような 基本ルールに基づいて会社を運営していくのかを学習することが重要である。この会社の基本ルール づくりのことを「会社の機関設計」と呼ぶ。 しかし実際のところ、ベンチャーに乗り出す起業家は、この「会社」を設計しルール作りをすると いう考えが抜けていることが多いのである。 ◎どのような会社を作るか?:会社の種類 どのような会社を るか? 会社の 会社 ベンチャー企業を始める際、どのような会社を作るかを考える必要がある。もちろん、会社を設立 せずに「個人事業主」として自分だけで事業を行う手段もある。個人でビジネスの責任を負い、利益 も損失も個人が処理するつもりならば、個人事業で経営する手段も考えられる。しかし、起業家個人 だけでなく創業メンバーが共同で事業を行う場合には、利益分配や責任分担、他者との契約、従業員 の雇用を考えれば、「会社」を作って経営する方が効率的である。 会社には、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社がある。合名会社、合資会社、合同会社の3 形態は、概して10名以内の少数の株主メンバーによる少人数経営に適した会社形態であり、基本的に 全員一致を原則とした規則で運営されている。したがって、外部の投資家が株主となるような資金調 達を考えるベンチャー企業の場合には、株式会社の形態での会社運営が適している。 ◎まず何を決めなければならないか?:機関設計で必要な項目 まず何 めなければならないか?:機関設計で必要な ?:機関設計 株式会社を設立するには、まず以下の事項を決めなければならない。この事項が決定されたことを 前提に株式会社ははじめて公認される、すなわち登記される。トヨタも、SONYも、ミクシィも、 今活動している会社はすべてこうした作業を行っているのである。 ○機関設計で決定すべき事項(基本項目のみ) ・会社の名称と場所。 ・会社の目的。 ・取締役と監査役。 ・代表取締役。 ・発行する株式および株主構成。 ・取締役会、株主総会。 ・会計と決算。 ~ 124 ~
  • 15. 定款の 定款の決定 このように機関設計で取り決めた内容は、「定款」(ていかん)という会社の基本規則の書面に記載 することで正式なルールとなる。会社の定款を正式に決定し、この定款を登記(国の法務局に登録) することで、その会社が公に認められたものとなるのである。 ●定款(ていかん)とは? 定款( 定款 ていかん)とは? ・会社などの法人において、その目的・組織・活動・構成員・業務執行等についての基本規則、ま た、それを記した書面・記録。 ・すなわち、会社の定める規則の中で基本かつ最高のもの。「定款は会社における憲法」である。 取締役、監査役の 取締役、監査役の決定 株式会社には1名以上の取締役を設置することが必要である。また、監査役は、監査役を選任しない 旨を定款で定めて設置しないこともできるが、株式公開を目指すような株式会社では監査役を設置す る会社が大半である。 取締役は、会社内では会社の業務執行を行い、社外に対しては会社を代表する者である。また、取 締役会設置会社(取締役会を設置している株式会社)においては、取締役が取締役会の構成員であり 取締役会での議決権を持つ。また、取締役と監査役の任期は定款で定める必要があり、取締役は1年か 2年の任期、監査役は4年の任期が多い。 代表取締役の 代表取締役の決定 代表取締役は、株式会社を代表する権限(代表権)を有する取締役であり、取締役会を設置してい る会社においては、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない(会社法362条3項) 。取締役 会非設置会社においては、各取締役が原則として会社の業務執行権と代表権を有するため、必ず取締 役の中から代表取締役を選定しなければならないわけではない。 決算日の 決算日の記載 そして、会社の定款で決算期を決めなければならない。会社の決算は1年の中である特定の日を1 日だけ決算日に指定しなければならない。会社が事業を行う事業年度は1年間を超える年度は認めら れておらず、3年間の事業年度とすることはできない。通常、会社の事業年度は1年であり、決算日 は3月31日とか12月31日と取り決め、定款に記載しなければならない。 会社の 名称、 住所、 ( 2 ) 会社 の 名称 、 住所 、 目的 まず、会社の定款に何を定めるべきだろうか。一般には、定款の第一章を総則とし、会社の名称や 住所、会社の目的などの基本的な情報を決める。 (ソフトウェア開発会社の定款の例) 定 款 第1章 総則 (商 号) 第1条 当会社は、株式会社○○○○○○と称し、英文では◇◇◇◇◇, Inc.と表示する。 (目的) 第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。 1. 通信システムによる情報サービス。 2. 情報管理、処理サービス。 3. コンピュータシステムによる計算業務の受託。 4. データ通信システムに係る装置の開発及び保守の受託、販売。 5. コンピュータソフトウェアの開発及び販売。 6. 情報通信システムに係るコンサルティング業務。 7. 特許権の保有、取得、運用。 8. 情報通信技術者の養成。 9. 電話回線およびインターネットを利用した電話番号案内等の情報提供サービス。 10. 前各号に附帯する一切の事業。 (本店の所在地) 第3条 当会社は、本店を東京都渋谷区に置く。 (公告の方法) 第4条 当会社の公告は、官報に掲載する。 ~ 125 ~
  • 16. 実際のところ、会社の名称ひとつを決定するのも簡単ではない。社長になった起業家も自分の好み だけではなく他のメンバーの意見も聞く必要があるし、世間が好印象を持つ社名でないといけないか らだ。さらには、同じ地域で似たような名前の会社があると、業務を行う上で支障が出てくる(注:平 成18年5月に施行された新会社法以前には同一市町村で類似の社名を使わないようにする規則が定められていたが、 新会社法施行後はその規則は撤廃されている) 。 こうして会社の社名を決めた後は、会社の事業の目的を定める。そして会社の本店(本社)の住所 を定め、定款が段々と出来上がり、会社の機関設計が定まっていく。 ( 3 ) 役員構成 と 株主総会 、 取締役会 役員構成と 株主総会、 ○株式会社を作る 株式会社を 株式会社における最高の決定機関は「株主総会」である。この株主総会で会社の重要事項を議決す る。株主総会で議決された取締役が会社の業務を執行し、監査役が会計や業務を監査する。会社の業 務執行を決定する会議が「取締役会」であり、株主総会で選任された取締役と監査役が出席する権利 がある。そして取締役会で決定された方針や内容に従って、代表取締役が責任をもって担当役員や各 部の部長に業務を指示して会社を実際に運営していく。 ベンチャー企業を設立する場合も、通常の株式会社と同様に、取締役会、取締役、監査役に関する の基本ルールを定款で定める。その基本ルールとは、取締役会の開催規則、取締役や監査役の数や選 任の規則が中心である。 一般的な株式会社の組織図 株主総会 監査役 取締役会 代表取締役社長 執行役員A 執行役員B 執行役員C 営業部 購買部 製造部 開発部 総務部 経理部 株式と ( 3 ) 株式 と 資本構成 株式会社では、株式を所有する者が「株主」である。つまり、法的には、株主は会社の共同所有者 であり、その会社に対して一定の権利を持っている。しかし、株主は会社の運営についての義務や責 任はない。会社の運営は代表取締役をはじめとする取締役が執行責任を持ち、その取締役や会社の運 営を監査役が監督するのである。 現代の株式会社においては、株主は、会社の運営に対して自分が出資した株式の価値(出資額)以 外の責任を負う必要はない。会社が違法行為をしても倒産しても、株主は出資した金額以外は責任を 負う必要はない。このことを「株主の有限責任」 (=株主の出資金額分を限界とする責任)と呼んでい る。このように株主は会社に自分の投資額以上の責任と義務を負う必要がないからこそ、国民が予期 しないリスクを恐れることなく会社に投資ができるのであり、こうした株主の有限責任は資本主義制 度の基礎となっている。 ①株主の権利 株主の 株式会社の株主は、3つの権利を持っている。 1. 議決権:会社の株主総会における議決に参加できる権利。その議決権はそれぞれの株主が保有す る株式数に比例する。 ~ 126 ~
  • 17. 2. 利益配当請求権:会社の所有者は出資者である株主であり、会社の利益は株主に帰属する。会社 の利益を配当として株主が得るのか、それとも次の年度に残すのかは、代表取締役が決めるので はなく株主の権利である。 3. 残余財産分配請求権:会社が解散をした場合には、株主は株式数に応じて、解散処理後に残った 会社の資産を所有する株式数に応じて得ることができる。 ②株式に関するルールの設計 株式に するルールの設計 会社は、株式を発行して、会社の持ち分という価値を、1株当たり10万円というような値段(株価) をつけて投資家に譲り渡す。投資家は、株式をある値段で購入することにより会社に投資する。つま り、投資家は金銭を支払って株式を購入し、その会社の先述のような権利を獲得するのである。 会社を設立する時には、その株式に関する基本事項を定款に定める必要がある。 その基本事項とは、 ・会社が発行できる株式数の上限。 ・株式の権利。 (普通株式か、特定の権利を持った優先株を発行できるか。) (株式の譲渡制限の有無:株式は自由に譲渡売買できるか、取締役会の許可が必要か。 ) ・株式の取扱いの規定。 が代表的な事項である。 ③株式発行による資金調達 株式発行による資金調達 による したがって、新しく会社を立ち上げる起業家は、自分達の会社の株式を発行し、それをある値段(株 価)で投資家に買ってもらうことにより、会社の資金を調達できる。例えば、1株10万円で500株の株 式を投資家に買ってもらうことができれば、会社は10万円×5000株=5000万円の資金を獲得すること ができ、しかも融資とは異なり「返済義務のない資金を得る」ことになる。株券という一枚の紙切れ を1株10万円のような値段をつけて投資家に販売することによって、会社は資金を得ることができる。 (実際の株券の見本) ④資本構成の検討 資本構成の しかしながら、株主とは会社の所有者であり、会社の基本事項を決めることのできる者である。会 社の株式を100%外部の投資家に売ってしまえば、その会社は起業家や創業メンバーのものではなく、 投資家の所有となり、投資家が会社の事項をすべて決めることができるようになる。そうなると、起 業家達は会社を立ち上げても、 (役員や従業員としての給与報酬はあっても)配当は得られず、会社の 株式を所有してなければ会社が拡大して会社の価値が高まってもその恩恵を受けることができない。 したがって、起業家達は、株式による資金調達を行う際には、 「会社を高く売る」ことにより、自分 達の保有する株式のシェアをできるだけ高いままにしたいと考える。株式発行によって会社の持ち分 を投資家に売るのであって、少ない持ち分を高く売るのが起業家達にとって有利である。逆に外部の 投資家は、多い持ち分を安く買いたい。この両者の利害の違いから、株式による資金調達では、起業 家達(会社の経営者)と投資家の間で交渉が行われ、両者が合意した株価で投資が行われる。この合 意した株価に会社の発行した株数を乗じた金額が、会社価値(企業評価価格)である。 起業家達は、こうした株価とともに、株式発行によって、自分達それぞれの保有する株式数やその 割合がどうなるのか、そして投資家の株数の割合がどするかという資本構成に細心の注意が必要とな る。なぜならば、株主総会における株主の「議決権」は株式数に比例したものであり、配当も株式数 に比例する。したがって、起業家達が高い株式シェアを持てば株主総会で自分達の株式数で多数決を 得ることができるが、逆に株式シェアが低ければ外部の投資家の意見が通ってしまう危険性がある。 ~ 127 ~
  • 18. 下表の例のように、会社創業時は創業メンバーや親族・知人だけで会社の株式を取得し、 「内輪のメ ンバー」で100%の株式を保有することになる。しかし、外部の投資家が参加する場合(ここではベン チャーキャピタルが投資する場合) 、表のように投資後には3000万円の資金調達が実現するけれども、 ベンチャーキャピタル2社が会社の株式の24%を保有する株主となる。 株式による資⾦調達と会社の資本構成(例) 会社創業時 ベンチャーキャピタルの投資後 取得株 発⾏時の 取得株 発⾏時の シェア 資⾦調達額 シェア 資⾦調達額 式数 株価 式数 株価 田中 洋 代表取締役社⻑ 100 52.6% ¥50,000 ¥5,000,000 100 40.0% 創業 ⻘⽊ 和夫 取締役 20 10.5% ¥50,000 ¥1,000,000 20 8.0% メンバー 上田 明 取締役 20 10.5% ¥50,000 ¥1,000,000 20 8.0% 親族・ 田中 一成 田中社⻑の⽗親 30 15.8% ¥50,000 ¥1,500,000 30 12.0% 知⼈ ⽊村 安雄 田中社⻑の知⼈ 20 10.5% ¥50,000 ¥1,000,000 20 8.0% ベンチャー 第一キャピタル 30 12.0% ¥500,000 ¥15,000,000 キャピタル 大阪キャピタル 30 12.0% ¥500,000 ¥15,000,000 合計 190 100% ¥9,500,000 250 100% ¥30,000,000 会社の ( 5 ) 会社 の 登記 株式会社は、法人登記がなければ成立しない。 会社法第49条 株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。 登記をしていない株式会社は法的に権利がないから、株式会社の存在が認められず、契約をしても 無効となる。したがって、会社の機関設計を定め、資本を集めた後には、公に認められた会社とする ために「登記」を行う必要がある。法人登記は法務省法務局(いわゆる登記所)に対して行い、定め られた事項を登記官が法人登記簿に記載することにより完了する。 登記簿の例 商号 インフォマート・システム株式会社 本店 東京都渋谷区渋谷1丁目2番地○号 発行株式総数                  190 株 資本金の額            金  9,500,000 円 目的 1.通信システムによる情報サービス。 2.情報管理、処理サービス。 3.コンピュータシステムによる計算業務の受託。 4.データー通信システムに係る装置の開発及び保守の受託、販売。 5.コンピュータソフトウェアの開発及び販売。 6.情報通信システムに係るコンサルティング業務。 7.特許権の保有、取得、運用。 8.内外の他会社に対する投資、融資および債務の保証。 9.情報通信技術者の養成。 10.広告宣伝業及び広告代理店業。 11.電話回線およびインターネットを利用した電話番号案内等の情報提供サービス。 12.前各号に附帯する一切の事業。 役員に関する事項 代表取締役        田中 洋 取締役          青木 和夫 取締役        上田 明 社外取締役        田中 一成 監 査 役         越山 淳 平成23年3月11日 登記                                  東京法務局                        (登記官印)   ○○ ○○   (印) ~ 128 ~
  • 19. ( 6 ) 雇用と 就業規則 雇用 と 企業を経営していく上での「人、モノ、金、情報」が四大要素であり、人の生産性の向上がどんな 会社にとっても大変重要である。企業の経営者は、就業規則、採用研修、給与・ボーナスなどの人事 について様々な工夫を凝らして経営を行っている。 従業員を雇って経営していくには、さまざまな法令や規則・制度に対応しなければならない。社会 にとって人は最も重要なものであり、会社が随意に人を雇って自由に使用することは民主主義の世の 中ではできないのである。例えば、会社が1人を従業員として雇用したらすぐに社会保険の支払い義務 が会社に発生する。 、また、会社が10人以上の従業員(パートタイマーやアルバイトを含む)を雇用す る場合は、労働基準法により会社に就業規則の作成が義務づけられている。こうした会社の労働や社 会保険の業務は小さな会社では専門知識を身につけるのは難しいため、多くの会社では社会保険労務 士に相談し指導を受けている。 ≪人を雇う際に必要なこと≫ ・従業員を雇用する際の法律:労働基準法、労働保護法、労働契約法、男女雇用機会均等法。 ・就業規則:法律に基づき、従業員の規則である「就業規則」を作成する。常時10人以上の労働者 (アルバイト等も含む)を使用する事業場は就業規則を作成する義務がある。 (労働基準法89条) 。 ・従業員を雇用する会社は各種保険に加入する義務がある。会社は、雇用保険、健康保険、厚生年 金保険、労働災害保険等に加入し、また労働者の福利厚生を取り決める法律に従う。 事業を 開始するための 諸届け するための諸届 ( 7 ) 事業 を 開始 するための 諸届 け 会社を創業し、事業を開始する場合、公的な法令に従い、かつ社会との基本的な関係を構築するた めに、届出を行う必要がある。 たとえば、会社を設立すれば税務署に法人設立の届け出をし、人を雇えば社会保険事務所と労働基 準監督署に届け出を出す必要がある。また、飲食店を始めるには、保健所に「食品営業許可」を申請 し、かつ食品衛生責任者の資格を持った者を各営業店に1名置く必要がある。危険物を取り扱う場合や 特別な場所に出店する場合は、法令に応じて届出や許可・認可が必要になる。これらに従って業務を 処理していないと、業務自体が認められず、場合によっては罰せられることもあるからである。 Ⅴ.事業の開始 事業の こうして、会社が設立されれば、法的に会社が認められ、契約行為もでき、従業員も雇用できるか ら、晴れて株式会社としてスタートすることになる。起業家にとって忘れがたい日である。日本には 「創業記念日」を設けている会社が多いが、この創業記念日とは法務局で登記され会社が設立された 日のことである。 会社が設立されれば、事業を始めることになる。取引先やお世話になっている人々・企業に対して 株式会社を設立したことを知らせ、お礼と今後の支援を願い出る。懇意なところから本社にお祝いの 花輪が届けられる会社もある。これからが起業家にとっての本番である。 ■設問34 設問34 1. 定款について簡単に説明しなさい。 2. 代表取締役の役割を簡単に説明しなさい。 3. 株主は、会社に対してどのような権利を持っているか。簡単に述べなさい。 4 会社は登記をなぜ行う必要があるのかについて、理由を簡単に述べなさい。 5 資本政策を作る際に注意しなければならない点を簡単に述べなさい。 6 会社が従業員を雇う際に行わなければならない事項を3つ述べなさい。 ~ 129 ~
  • 20. (参考-3)株主総会 株主総会 ・ 「株主総会」とは株式会社の最高の意思決定機関であり、株主が参加して会社の基本的な方針 や重要な事項を決定する。「会社では社長さんが一番偉い」と思いがちだが、会社の重要な事 項を決められるのは株主であり、社長が会社の株主でなければ、その議決にも参加できないの である。 ・株主総会は「定時株主総会」と「臨時株主総会」がある。定時株主総会は、毎年度1回開催さ れる株主総会で、臨時株主総会は定時以外に臨時に招集される株主総会である。定時株主総会 は、会社の決算日から3ケ月以内に開催する義務があるため、3月31日を決算日とする会社(3 月決算会社)は6月30日までに定時株主総会を開く。 ・株主総会で決議する事項は、会社法の定めにより普通決議と特別決議に分かれており、会社に とって重要な事項は特別決議を行う。普通決議は、出席した株主が持つ議決権(株数に比例し た株主総会での議決できる権利の数)の過半数の賛成があれば決議される。特別決議は出席し た株主の議決権の3分の2以上の賛成があれば可決される。 ・下記は日産自動車㈱の2010年度定時株主総会の招集通知(抜粋)だが、この通知に当日の議 案が記載されている。 第 111 回定時株主総会招集ご通知 拝啓 ますますご清祥のこととお喜び申しあげます。 さて、当社第 111 回定時株主総会を下記のとおり開催いたしますので、ご出席くださいますよう通知申しあげます。 記 1. 日時 平成 22 年 6 月 23 日(水曜日)午前 10 時 2. 場所 横浜市西区みなとみらい一丁目 1 番 1 号 パシフィコ横浜 国立横浜国際会議場 3. 目的事項 報告事項 1. 第 111 期(平成 21 年 4 月 1 日から平成 22 年 3 月 31 日まで)事業報告の内容、連結計算書類の内容 並びに会計監査人及び監査役会の連結計算書類監査結果報告の件 2. 第 111 期(平成 21 年 4 月 1 日から平成 22 年 3 月 31 日まで)計算書類の内容報告の件 決議事項 第1号議案 監査役 2 名選任の件 第2号議案 当社の従業員並びに当社関係会社の取締役及び従業員に対しストックオプションとして発行する新 株予約権の募集事項の決定を取締役会に委任する件 第3号議案 取締役に対し株価連動型インセンティブ受領権を付与する件 以 上 日産自動車㈱の定時株主総会 当日の総会の写真 ~ 130 ~
  • 21. 第5部 ベンチャーズ・インフラ Ⅰ.ベンチャーズ・インフラ 起業家やベンチャー企業は、自分達だけで発展できるわけではない。企業・産業が有効に機能する には、「インフラストラクチャー」(infrastructure、インフラ、社会的経済的な基盤)が必要である。 電気が安定的に供給されなければ事業が成り立つわけがないし、人材や、金融、証券、会計、法務、 コンサルティングのような機能が充実しているからこそ、企業は効率的に事業を経営できる。 特に、経営資源が少ないベンチャー企業は、このようなインフラストラクチャーが充実していない とスピーディーに発展していくことができない。逆に、インフラが充実しているアメリカのシリコン バレーのような地域はベンチャーが目をみはるような発展をすることになる。ベンチャー企業の活動 は少数のファクターによって一律に強弱が決まるものではない。インフラや、時代背景、地域の状況、 社会意識、産業構造、技術革新など、多くの要因が影響し合って形作られている。ここでは、ベンチ ャー企業の発展にかかせないインフラと環境を「ベンチャーズ・インフラ」と呼び、ベンチャーにと ってそのような機能がなぜ必要であるか、またどのような機能を果たしているのかを考察する。 ベンチャーの日米格差は周知の事実、では米国でベンチャーが成功して日本でなぜうまくいかない か、という議論があちこちでなされている。このテーマは甲論乙駁、確とした答えはなかなか出てこ ない。しかし、米国がすべてうまくいっているわけでもない。最近はカリフォルニア州などの西海岸 諸州やテキサス州、コロラド州でハイテク・ベンチャーが続々登場している一方で、東部や中西部諸 州のハイテク産業は思わしくなく、それなりに地域間格差がある。また、世界的にみると、新興企業 の活躍が目立つ国は、欧州ではイギリス、アイルランドと北欧、アジア地域ではシンガポール、香港、 インド、イスラエルである。他方、ドイツ、フランスや日本、韓国では、こうした起業家の動きが停 滞しているといわれる。 また、日本でも昔からベンチャーが育たなかった訳ではなく、明治・大正時代、あるいは第二次大 戦後から高度成長の前半までの時期には、今日の多くの大企業が起業家によって勃興している。パナ ソニック、ソニー、カシオ計算機、京セラ、本田技研、リンナイ、YKK AP、ダイエー、イトーヨーカ 堂(現セブン&アイ・ホールディングス) 、セコムといった大企業は、第二次大戦後から1960年代にス タートしたかつてのベンチャー企業である。 Ⅱ.ベンチャーズ・インフラの要素 ベンチャーズ・インフラの要素 これまでの日本では、経済や金融制度のみならず、社会風土・慣行、学校教育、税制等の幅広い側 面において、起業や新興企業の経営に不利なシステムが存在したことは事実である。そのような従来 のシステムを着実に変革していくことが必要であり、世論も総論ではベンチャー支援に積極的である。 実際、ここ1、2年の創業支援に対する政策や民間の取り組みは、これまでのペースを大きく上回る 勢いであり、日本のベンチャー育成環境は着実に好ましい方向に変わりつつある。しかし、上記のよ うな企業活動のインフラストラクチャーが一朝一夕に変わることはありえず、早急に変革の効果を求 めること自体に無理がある。むしろ、日本固有の制度や慣行を利用しつつ、創業に有利な社会経済環 境を整備することが重要とする意見も少なくない。 社会的・ ( 1 ) 社会的 ・ 文化的要因 日本人の起業家意識が米国人に比べて弱いということは、既に各方面から主張されている。各国で 起業家が輩出されているかどうかの度合を国際比較したグローバル・アントレプレナーシッピ・モニ ター調査(次表)をみると、日本では起業する割合が低いことは明らかである。日本で高い学歴を持 った若者は、まずは大企業のサラリーマンや公務員、あるいは医者や弁護士といった専門職を希望す るのは大半であり、中小企業やベンチャーの経営者を目指すことは多くない。 それゆえ、 「日本人が米国人に比べ独立心の弱い国民であり、日本人の起業家意識も米国人に比べ弱 い。 」という主張はむげには否定できない。しかし、こうした特徴は、それぞれの歴史の中で形作られ てきた社会の価値観である。現時点では米国人が日本人よりも起業家的であるといえようが、米国人 の方がなぜ起業家的であるかについて考える際には、社会的なファクターから考えた方が適切だろう。 ~ 131 ~