SlideShare una empresa de Scribd logo
1 de 59
Descargar para leer sin conexión
輸液の話

基本の”き”
薬剤師/看護師 1-2年目 対象

薬剤師 佐野
今日の目的
• 体内の水分量について知る
• ”水”の分布について知る
• 基本的な輸液について知る
• 輸液の”水”がどこに分布するのか知る
体内の水分量
60kg ?L
体重の
?%
体内の水分量
60kg 36L
体重の
60%
では その水はどこに?
細胞内
間質
血管内
36L
それぞれには”容量”がある
細胞内
間質
血管内
細胞内
間質
血管内
”比”が 重要
細胞内
間質
血管内
8
3
1
::
36L
”容量”に変換
細胞内
間質
血管内
8
3
1
::
36L
3L
9L
24L
マジで血管内は3Lなの?
60kg 4.8L
血液量は
体重の
8%
血球成分と血漿成分は?
4.8L
血球 = 4.8 × 0.40(Hct)= 1.9L
血漿 = 4.8 - 1.9 = 2.9L
血漿成分 = 血管水分
輸液を投与すると?
細胞内
間質
血管内 3L
9L
24L
水
血管壁
細胞膜
アルブミン電解質
輸液を投与すると…
細胞内
間質
血管内 3L
9L
24L 自由に細胞膜を

通過できるが

浸透圧の制限がある
アルブミン
自由に細胞膜を

通過できない
血管壁を

通過できない
水
電解質
つまり、こういうこと
自由に細胞膜を

通過できるが

浸透圧の制限がある
アルブミン
自由に細胞膜を

通過できない
血管壁を

通過できない
水
電解質
• 細胞内まで"水"

➾ 低張輸液
• 細胞外まで"水"

➾ 等張輸液
• 血管内のみ"水"

➾ コロイド輸液
低張輸液?
• 血管内に”注射用水”を投与することはできない
• ”低張”とは、血管内では”水”と同様に振る舞うもの
• もちろん、投与するときは”等張”
• 輸液でいうと…
低張輸液 = 5%ブドウ糖液
低張輸液 = 5%ブドウ糖液
• 5%ブドウ糖

➾ C6H12O6

➾ 肝臓で速やかに代謝もし
くは細胞内へ取り込まれる
• つまり”溶媒”の水のみとな
る
• では、1000mL 投与する
と…
細胞内
間質
血管内
5%ブドウ糖 1000mL
8
3
1
::
細胞内まで水が行き届く
細胞内まで水が行き届く
細胞内
間質
血管内
5%ブドウ糖 1000mL
667mL
250mL
83mL
8
3
1
::
等張輸液?
• 血管内、間質液と(晶質)浸透圧の等しい輸液
• 血管内と間質は”水”も”電解質”も自由に移動できる
• いわゆる”細胞外補充液”と呼ばれているもの
• 輸液でいうと…
等張輸液 = ソルアセトF
等張輸液 = ソルアセトF
• いわゆる”リンゲル液”

➾輸液の電解質組成が血
中の電解質組成と近似し
ている

➾緩衝剤によって数種あ
る
• では、”生理食塩液”は細
胞外補充液に区別されま
すか?
生理食塩液 = 細胞外補充液
• NaClの濃度で等張とした
輸液
• 基本的な細胞外液
• Clイオンが血中の”1.5倍”
になっているため、多量
に投与することは避ける

➾代謝性アシドーシスの
リスクあり
細胞外補充液の分類
Na+ K+ Ca2+ Mg2+ Cl- Buffer
薬価

500mL
血中

正常値
140 4 10 1.5 100
重炭酸

25
生食 154 154 ¥149
ラクテック 130 4 3 109
乳酸

28
¥200
ソルアセト
F
131 4 3 109
酢酸
28
¥136
ビカーボン 135 4 3 1 113
重炭酸

25
¥219
フィジオ
140
140 4 3 5 115
酢酸

25
¥175
細胞外補充液の分類
Na+ K+ Ca2+ Mg2+ Cl- Buffer
薬価

500mL
血中

正常値
140 4 10 1.5 100
重炭酸

25
生食 154 154 ¥149
ラクテック 130 4 3 109
乳酸

28
¥200
ソルアセト
F
131 4 3 109
酢酸
28
¥136
ビカーボン 135 4 3 1 113
重炭酸

25
¥219
フィジオ
140
140 4 3 2 115
酢酸

25
¥175
血中のNa/Kとほぼ一緒 種類が異なる
Bufferの種類
• HCO3を配合するビカーボン
は製剤的工夫のなされたもの
• 乳酸も酢酸も結局は体内で代
謝されて、重炭酸となる
• 臨床ではBufferの違いによる

“差”は報告されていない
• フィジオはMgと1%ブドウ糖
を配合し、最も生体に近い
Ca2+ Mg2+ Cl- Buffer
血中

正常値
10 1.5 100
重炭酸

25
生食 154
ラクテック 3 109
乳酸

28
ソルアセト
F
3 109
酢酸
28
ビカーボン 3 1 113
重炭酸

25
フィジオ
140
3 2 115
酢酸

25
細胞内
間質
血管内
ソルアセトF 1000mL
8
3
1
::
細胞外に水が行き届く
細胞内
間質
血管内
ソルアセトF 1000mL
8
3
1
::
細胞外に水が行き届く
750mL
250mL
コロイド輸液
• 膠質輸液 = 代用血漿輸液 のこと
• HES や アルブミン を用いて浸透圧を調節
• コロイドは血管壁を通過できないため血管内にのみ
“水”が残る
• 輸液でいうと…
コロイド輸液
ボルベン / アルブミン製剤
コロイド輸液
ボルベン / アルブミン製剤
• 多量の出血

➾ 循環血液量の減少

➾ 血圧低下⇓嫌気代謝⇑

➾ 乳酸⇑アシドーシス⇑死亡

こんな事を予防するために、輸
血が現場に届くまで投与する
• ただしボルベンの過剰な投与
は、血液の希釈による凝固異
常、腎機能障害の危険性がある
• 5%アルブミン製剤は高価
それぞれの詳細と適応
溶質 溶媒 適応
薬価
500mL
ヘスパンダー
HES

MW=7万
リンゲル液
出血多量の場合

最大20mL/kg
¥757
ボルベン
HES

MW=13万
生食
循環血液量の維持

最大50mL/kg
¥970
5%

アルブミン
献血

アルブミン
NaCl添加 50%以上の多量出血 ¥10,926

(¥5463✕2)
25%

アルブミン
献血

アルブミン
NaCl添加
アルブミン喪失/

合成低下による低Alb
¥5,437

(50mL)
それぞれの詳細と適応
溶質 溶媒 適応
薬価
500mL
ヘスパンダー
HES

MW=7万
リンゲル液
出血多量の場合

最大20mL/kg
¥757
ボルベン
HES

MW=13万
生食
循環血液量の維持

最大50mL/kg
¥970
5%

アルブミン
献血

アルブミン
NaCl添加 50%以上の多量出血 ¥10,926

(¥5463✕2)
25%

アルブミン
献血

アルブミン
NaCl添加
アルブミン喪失/

合成低下による低Alb
¥5,437

(50mL)
出血しないと使えない。量も少ない
多量の出血時のみ。30%程度までは外液を使用
細胞内
間質
血管内
ボルベン 1000mL
8
3
1
::
血管内にのみ水がとどまる
1000mL
3種 区別できれば難しくない
750mL
250mL 1000mL
667mL
250mL
83mL
では、“KN”はどう考えるか
Na 濃度に注目する
Na : 77 Na : 50
mEq/L mEq/L
Na : 77 Na : 50
Na : 154
mEq/L mEq/L
mEq/L
Na : 77 Na : 50
Na : 154
1/2 1/3
mEq/L mEq/L
mEq/L
Na : 77 Na : 50
Na : 154
1/2 1/3
希釈
mEq/L mEq/L
mEq/L
Na : 77 Na : 50
① ① ②①
+
K:20mEq/L
mEq/L mEq/L
体内の水の分布を考える
Na : 77 Na : 50mEq/L mEq/L
1000mLで考えると…
体内の水の分布を考える
Na : 77mEq/L
1000mL
①
① 500mL
500mL
体内の水の分布を考える
Na : 77mEq/L
1000mL
500mL 500mL
8
3
1
::
375mL
125mL
125mL
42mL
333mL
同様にKN3号液では
Na : 50mEq/L
1000mL
333mL 667mL
8
3
1
::
250mL
83mL
167mL
55mL
445mL
分布量の比較
0
250
500
750
1000
ソルアセトF KN1号 KN3号 5%Glu
細胞内 間質 血管内
3号液 を考える
• 1日に必要な水分?
• 1日に必要な NaCl?
• 1日に必要な KCl?
• “維持液”だし…
Na : 50
K : 20
mEq/L
水分の出納
IN
飲料 : 1200mL
食物 : 1000mL
代謝水 : 200mL
尿 : 1500mL
不感蒸泄 : 800mL
呼吸/排便 : 100mL
OUT
水分の出納
IN
飲料 : 1200mL
食物 : 1000mL
代謝水 : 200mL
尿 : 1500mL
不感蒸泄 : 800mL
呼吸/排便 : 100mL
OUT
禁飲食の場合に
必要な水分量
1日に必要な”塩類”
NaCl : 6g~9g
KCl : 3g
1日に必要な”塩類”
NaCl : 6g~9g
KCl : 3g
NaCl:1g ➾ Na+
17.1mEq
KCl:1g ➾ K+
13.4mEq
これは、憶えておこう
NaCl:1g ➾ Na+
17.1mEq
KCl:1g ➾ K+
13.4mEq
七/三 分け で憶えてもOK
つまり、1日に必要な”塩類”
NaCl : 6g
➾ Na+
: 約100mEq
KCl : 3g
➾ K+
: 約40mEq
3号液 を考える
• 1日に必要な水分?
• 1日に必要な NaCl?
• 1日に必要な KCl?
• “維持液”だし…
Na : 50
K : 20
mEq/L
3号液 を考える
• 1日に必要な水分?

➾ 2200mL
• 1日に必要な NaCl?

➾ NaCl 6g = Na 100mEq
• 1日に必要な KCl?

➾ KCl 3g = K 40mEq
• “維持液”だし…

➾ 2000mL 投与したら…
Na : 50
K : 20
mEq/L
3号液 を考える
Na : 50
K : 20
mEq/L
Na : 100
K : 40
mEq
✕2L
2000mLで1日に必須な“塩類”と水分を投与できる。
維持液(3号液)の分類
電解質(mEq/L) 糖質
浸透

圧比
Na+ K+ Mg2+ P(mM) Cl- Buffer 1L中
薬価
500mL
KN3 50 20 50
乳酸

20
Glu
27g
1 ¥137
KNMG3 50 20 50
乳酸

20
Glu

100g
3 ¥143
アクチット 45 17 5 10 37
酢酸

20
マルトース

50g
1 ¥199
ソリタックス
H
50 30
3

Ca2+:5
10 48
乳酸

20
Glu

125g
3 ¥227
維持液(3号液)の分類
電解質(mEq/L) 糖質
浸透

圧比
Na+ K+ Mg2+ P(mM) Cl- Buffer 1L中
薬価
500mL
KN3 50 20 50
乳酸

20
Glu
27g
1 ¥137
KNMG3 50 20 50
乳酸

20
Glu

100g
3 ¥143
アクチット 45 17 5 10 37
酢酸

20
マルトース

50g
1 ¥199
ソリタックス
H
50 30
3

Ca2+:5
10 48
乳酸

20
Glu

125g
3 ¥227
マルトースはGluと同濃度で半分の浸透圧

また細胞内取り込みにインスリンが関与しない
Mg / P が追加されている = 400kcal/L
= 200kcal/L
= 500kcal/L
Mg と P
• 意外とこれらの欠乏症は見過ごされる
• 低栄養、アルコール依存、TPN管理の患者では注意
• とくにTPNを”調製”している場合は注意

➾Mg/Pが補充されない場合がある
• Mg/Pが配合されていない輸液のみで継続されてい
る場合には、1週に1度ほど確認しても良いかも
まとめ
• 体内の水は、細胞内/間質/血管内に分布している
• 輸液も、浸透圧に応じてその3区画に分布する

➾ Na の濃度を見ればわかる
• 基本輸液は、細胞外補充液か維持液で、製剤による
特徴を知っておく
• NaCl / KCl 1gから、Na+ / K+ を換算できるように
する

Más contenido relacionado

La actualidad más candente

今すぐ使える輸液の基礎2020
今すぐ使える輸液の基礎2020今すぐ使える輸液の基礎2020
今すぐ使える輸液の基礎2020Tsuneyasu Yoshida
 
血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておく血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておくKuniaki Sano
 
語呂で覚える 緊急気道管理
語呂で覚える 緊急気道管理語呂で覚える 緊急気道管理
語呂で覚える 緊急気道管理清水 真人
 
カテコラミンの勉強会
カテコラミンの勉強会カテコラミンの勉強会
カテコラミンの勉強会小滝 和也
 
カフェイン中毒
カフェイン中毒カフェイン中毒
カフェイン中毒清水 真人
 
Severe ARDSの初期治療
Severe ARDSの初期治療Severe ARDSの初期治療
Severe ARDSの初期治療清水 真人
 
第5回 「痙攣,てんかん」
第5回 「痙攣,てんかん」第5回 「痙攣,てんかん」
第5回 「痙攣,てんかん」清水 真人
 
ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師Kuniaki Sano
 
私の考える輸液療法
私の考える輸液療法私の考える輸液療法
私の考える輸液療法guest6c0cc90
 
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest GroupKiyoshi Shikino
 
第2回 「一過性意識障害, 失神」
第2回 「一過性意識障害, 失神」第2回 「一過性意識障害, 失神」
第2回 「一過性意識障害, 失神」清水 真人
 
初期研修医のための学会スライドのキホン
初期研修医のための学会スライドのキホン初期研修医のための学会スライドのキホン
初期研修医のための学会スライドのキホンk-kajiwara
 
看護師さんのための血液ガス入門
看護師さんのための血液ガス入門看護師さんのための血液ガス入門
看護師さんのための血液ガス入門ochan78
 
第7回 「眼科救急」
第7回 「眼科救急」第7回 「眼科救急」
第7回 「眼科救急」清水 真人
 
第8回 「熱傷」
第8回 「熱傷」第8回 「熱傷」
第8回 「熱傷」清水 真人
 
第1回 「めまい」
第1回 「めまい」 第1回 「めまい」
第1回 「めまい」 清水 真人
 
ショックについて
ショックについてショックについて
ショックについてhiroo shiojiri
 

La actualidad más candente (20)

今すぐ使える輸液の基礎2020
今すぐ使える輸液の基礎2020今すぐ使える輸液の基礎2020
今すぐ使える輸液の基礎2020
 
血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておく血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておく
 
語呂で覚える 緊急気道管理
語呂で覚える 緊急気道管理語呂で覚える 緊急気道管理
語呂で覚える 緊急気道管理
 
カテコラミンの勉強会
カテコラミンの勉強会カテコラミンの勉強会
カテコラミンの勉強会
 
カフェイン中毒
カフェイン中毒カフェイン中毒
カフェイン中毒
 
Severe ARDSの初期治療
Severe ARDSの初期治療Severe ARDSの初期治療
Severe ARDSの初期治療
 
抗生剤一覧
抗生剤一覧抗生剤一覧
抗生剤一覧
 
肺塞栓症
肺塞栓症肺塞栓症
肺塞栓症
 
輸液まとめ
輸液まとめ輸液まとめ
輸液まとめ
 
第5回 「痙攣,てんかん」
第5回 「痙攣,てんかん」第5回 「痙攣,てんかん」
第5回 「痙攣,てんかん」
 
ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師
 
私の考える輸液療法
私の考える輸液療法私の考える輸液療法
私の考える輸液療法
 
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
 
第2回 「一過性意識障害, 失神」
第2回 「一過性意識障害, 失神」第2回 「一過性意識障害, 失神」
第2回 「一過性意識障害, 失神」
 
初期研修医のための学会スライドのキホン
初期研修医のための学会スライドのキホン初期研修医のための学会スライドのキホン
初期研修医のための学会スライドのキホン
 
看護師さんのための血液ガス入門
看護師さんのための血液ガス入門看護師さんのための血液ガス入門
看護師さんのための血液ガス入門
 
第7回 「眼科救急」
第7回 「眼科救急」第7回 「眼科救急」
第7回 「眼科救急」
 
第8回 「熱傷」
第8回 「熱傷」第8回 「熱傷」
第8回 「熱傷」
 
第1回 「めまい」
第1回 「めまい」 第1回 「めまい」
第1回 「めまい」
 
ショックについて
ショックについてショックについて
ショックについて
 

輸液の話 基本の『き』