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市民科学講座
「DIYバイオ:可能性と課題」
コメント
公共政策コンサルタント/中京大学経済研究所
工藤郁子
2019.02.02
2
Hello!
科学技術と統治の関係に関心があります
最近は、AI関係のお仕事が多いです
共訳『ロボット法』勁草書房(2018)
共著『ロボット・AIと法』有斐閣(2018)
共著『AIと憲法』日本経済新聞出版(2018)
3
感想と論題
● 細胞培養肉たべたい!できればDIYでなく!!
○ 販売/購入したいけど、法規制はどうなっているの?
○ 今は無理だとしても、規制緩和できないか?
● 「ベジタリアン」の人たちは細胞培養肉を食べるの?
○ 動物愛護との関係は?
「DIYバイオあぶないんじゃ」「田中さんはマッドサイエンティストで
は…」問題は見上さんが喋ってくれます(たぶん)
4
食品の衛生・安全と
DIYバイオ
食品衛生法や食品安全行政との関係
食品衛生法
5
“厚生労働大臣は、一般に飲食に供されることがなかつ
た物であつて人の健康を損なうおそれがない旨の確証
がないもの又はこれを含む物が新たに食品として販売
され、又は販売されることとなつた場合において、食品
衛生上の危害の発生を防止するため必要があると認
めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、そ
れらの物を食品として販売することを禁止することがで
きる(食品衛生法7条1項)
● 厚生労働大臣は、一般に食品として飲食に供されている物であつて当該物
の通常の方法と著しく異なる方法により飲食に供されているものについて、
人の健康を損なうおそれがない旨の確証がなく、食品衛生上の危害の発生
を防止するため必要があると認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を
聴いて、その物を食品として販売することを禁止することができる(同7条2
項)
食品衛生法
6
“販売(不特定又は多数の者に対する販売以外の授与を
含む。以下同じ。)の用に供する食品又は添加物の採
取、製造、加工、使用、調理、貯蔵、運搬、陳列及び授
受は、清潔で衛生的に行われなければならない(食品
衛生法5条)
● この法律で食品とは、全ての飲食物をいう。ただし、医薬品、医療機器等の
品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百
四十五号)に規定する医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品は、これを
含まない(同4条1項)
● この法律で添加物とは、食品の製造の過程において又は食品の加工若しく
は保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する
物をいう(同4条2項)
議論のポイント(例)
7
● そもそも、どうして法令で規制されているのか?
○ リスクを覚悟して食べたなら、本人が健康を害しても「自
己責任」ではないか?
■ Cf. 「牛レバ刺し」規制を巡る議論(2011-2012)
● 「絶対に安全な食品」は存在しないのではないか?
○ どんな食品も、摂取量・吸収量・毒性によって、健康に悪
影響を与える(個人差もある)
○ 科学的知見も、更新されていくのではないか?
Cf. 食品安全行政
8
via 内閣府 食品安全委員会事務局「食品安全に関する基礎知識」
(https://www.fsc.go.jp/monitor/moni_29/moni29_index.data/H29moni_shiryo1.pdf)
細胞培養肉のリスク要因
9
via「純肉:細胞培養による食料生産(2019版)」(https://www.slideshare.net/2co/2019-127817694)
細胞培養肉のリスク要因への対策と論点
10
via「純肉:細胞培養による食料生産(2019版)」(https://www.slideshare.net/2co/2019-127817694)
議論のポイント(例)
11
● 自分たちが望ましいと思う「規制」を実現するにはどうすれば
よいのか?
○ Cf. 官邸ドローン事件と航空法等の改正を巡る議論
(2015)
● どういう規制のあり方が望ましいのか?
○ 目新しい食品が、ターゲットにされがちでは?
■ Cf. 「蒟蒻ゼリー」と餅(2007-2008)
○ 利害関係者/関係官庁が多いが、どう連携するか?
■ Cf. 牛海綿状脳症(BSE)を巡る議論
Cf. 食品安全行政
12
via 内閣府 食品安全委員会事務局「食品安全に関する基礎知識」
(https://www.fsc.go.jp/monitor/moni_29/moni29_index.data/H29moni_shiryo1.pdf)
Cf. 食品安全行政
13
via 内閣府 食品安全委員会事務局「食品安全に関する基礎知識」
(https://www.fsc.go.jp/monitor/moni_29/moni29_index.data/H29moni_shiryo1.pdf)
議論のポイント(例)
14
● リスク・コミュニケーションや社会的受容(public acceptance)
をどのように調整していくか?
○ 細胞培養肉を「肉」と呼ぶかどうか、どう表示するかに
よって、消費者のイメージが違ってくる
■ Cf. 「遺伝子組替え作物(GMO)」を巡る議論
○ 「人工肉」「合成肉」「養殖肉」「クリーン・ミート」「ショウジ
ン・ミート」「実験室で作られた肉(lab-grown meat)」…
など
Cf. 「肉」の定義を巡るロビイング(米国)
15
● ミズーリ州やワシントン州で提出された法案では、細胞培養肉
を「肉」として販売・提供することを禁止すべきとされる
● 米国農務省(USDA)と食品医薬品局(FDA)は、細胞培養肉
について共同して規制・監督すると発表
via http://lawfilesext.leg.wa.gov/Biennium/2019-20/Htm/Bills/House%20Bills/1519.htm
16
動物倫理とDIYバイオ
動物愛護法や動物倫理との関係
動物の扱い
17
● 現在の法体系では動物は「物」として扱われる
○ ただし、動物も人間と同様に生命をもち苦痛を感じる存在
なので「尊厳」を持って取り扱われるべきともされている
Cf. 動物愛護法
18
“この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正
な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物
の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護
する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の
涵かん養に資するとともに、動物の管理に関する事項
を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する
侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もつて
人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とす
る
(動物の愛護及び管理に関する法律1条)
動物倫理まわり
19
● 動物の保護
○ 動物虐待などから動物を守ること
● 「動物の福祉」論(animal welfare)
○ 人間による動物を所有・利用を許容しつつ、動物の痛み・
苦しみを最小限にすべきとの立場
● 「動物の解放」論
○ 動物は苦痛を感じる能力に応じて人間と同様の配慮を受
けられる「地位」があるとする立場
○ 種が異なることを根拠に差別を容認するのは種差別
(speciesism)
● 「動物の権利」論(animal rights)
○ 動物自身の「(道徳的)権利」があるとの立場
「肉」を食べない理由いろいろ
20
● アレルギー
● 宗教上の禁忌
● 健康志向
● 自然派志向
● 環境・地球環境資源への
配慮
● 動物愛護
● 生命倫理観に基づく理由
など
動物倫理まわりと細胞培養肉
21
● 以下を重視するタイプの人たちは、細胞培養肉を受け入れや
すいだろう
○ 「肉」の生産は、環境負荷が高いのでよくない
○ 動物に痛み・苦しみを最小限にすべき
● 以下を重視するタイプの人たちは、受け入れにくいかもしれな
い
○ 「食う/食われる」の関係の固定や、尊厳ある生命存在を
客体化すること自体がよくない
● 以下を重視するタイプの人たちは、不確定ではないか
○ 人間による「動物」の所有・利用自体がよくない
○ 「自然なこと」が大切
22
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