SlideShare una empresa de Scribd logo
1 de 14
AI社会における「個人」と自律
マカイラ株式会社
コンサルタント/上席研究員
工藤郁子
2018年3月18日(日)
於 放送大学 東京文京学習センター 多目的講義室
パーソナルデータ+α研究会シンポジウム
「AI社会における『個人』とパーソナルデータ近代とシンギュラリティのあいだで?」
自己管理の限界
• データ取得時の「同意」の透明性と、事後の情報訂正・オプトアウトの確保が重
視されているが…
• 誰も利用規約やプライバシーポリシーを読まない(cf. 「ヘロデ条項」)
• 目先のメリットにつられやすい
• 長期的・累積的・総合的なリスクを認知しにくい
• IoTにより、利用する機器・端末が膨大・重層化すれば、認知限界を迎える
→ パーソナルデータやプライバシーを自己管理するのは、限界ではないか?(Solove
2012)
Affective Computing
• 感情を計測・理解し、感情に働きかける技術群:
• 感情のセンシング(人・場のセンシングによる感情・雰囲気の分析)
• 感情の活用・喚起(気持ちの変化の先に行動変化を招く行動誘発技術)
「個人」による自律というフィクション
• <意思—行為—責任>という連関
• 自由意思に基づく自律的判断を前提として、その自己決定から生じた結果を
引き受ける、という近代法の基本原理
• 前提に、自律した人格を有するという「強い」「個人」像
• さらには、 <各個人の自由—自己決定—幸福>が一致する制度を法を通じて
国家が供給するという近代モデル(大屋 2014)
• もっとも、法(学)は、こうした擬制を自覚し一部修正で対応してきた
• 民事法分野は、業法・消費者法の問題として処理可能(栗田 2017)
• cf. フランス人権宣言(1789)における「人一般(homme)」と「市民
(citoyen)」の二重性に注意
→ 擬制を諦めると、どのような社会になる…?
「プライバシーなんていらない!?」
• 中国の芝麻信用(ジーマ・クレジット)
• ユーザーの同意のもと、免許証、Eメールアドレス、不
動産登記簿などの情報を取得
• 属性情報、交友関係、決済履歴などを含む5項目で評価
• AIで「スコア」を算出
• スコアをインセンティブに人々の素行(!)が良くなる
• パーソナルデータの開示とプロファイリングを前提とした、
新しい社会インフラ?
→ ハイパー・パノプティコン(超監視)で安心・信頼を実現
→ 「やましいことがないのであれば、安全のために、あなたの
プライバシーを開示するのは問題ないのでは?」 という主張
(Nothing-to-hide argument)の素朴な力強さ…
「尊厳」の復権?
• 「個人の尊重」「尊厳」という根本規範への立ち返り
• EUの一般データ保護規則( General Data Protection Regulation :
GDPR)22条1項などについて、「時間とコストをかけてその個人を直接見
ることを厳格に要求し」「ビッグデータ社会において、なお人間の尊厳・個
人の尊重原理が『根本規範』として維持されるよう」にしたとの評価(山本
2017)
• しかし、「尊厳」の復権という構想は、困難も伴う…
• 実務面:「プライバシー外交」(石井 2013)、バーゲニングパワーの維持、
産業政策・競争政策との接合( GAFA(Google・Apple・Facebook・
Amazon)対策)
• 理論面:身分と深い内面的牽連のある「尊厳」と近代的「個人」は、元来相
互に排斥し合う観念であり、「個人の尊厳」を近代立憲主義の構想の中核に
据えると、解決不可能な課題を背負い込んでしまう(蟻川 2016)
Cf. EU 一般データ保護規則(GDPR)22条
1. データ主体は、当該データ主体に関する法的効果をもたらすか又は当該データ主体に
同様の重大な影響をもたらすプロファイリングなどの自動化された取扱いのみに基づいた
決定に服しない権利を持つ。
2. 第1項は次に掲げるいずれかの決定には適用されない。
(a)データ主体とデータ管理者間の契約締結、又は履行に必要な決定。
(b)データ主体の権利及び自由並びに正当な利益を保護するための適切な対策が定め
られた管理者が従うEU法又は加盟国の国内法によって認められた決定。
(c) データ主体の明示的な同意に基づく決定。
3. 第2項(a)号及び(c)号で定める状況に関して、データ管理者は、データ主体の権利及
び自由並びに正当な利益を保護するための適切な対策を実施し、少なくとも管理者側で人
を介在させる権利、当該データ主体の観点を表明する権利、及び決定に同意する権利を実
施するものとする。
4. 第2項で定める決定は、第9条第2項(a)号又は(g)号が適用されず、データ主体の権
利及び自由並びに正当な利益を保護するための適切な対策が機能していないならば、第9
条第1項で定める特別な種類の個人データに基づいてはならない。
設計プロセスの改善による実効化
• プライバシー保護を組織的・体系的に、設計に組み込む方向性
• プライバシー・バイ・デザイン(Privacy by Design: PbD):プライバ
シー侵害が起きる前にそれを予防することを指向し、仕様段階から検討
• プライバシー影響評価(Privacy Impact Assessment: PIA):プライバ
シーへの影響度を事前に評価し、リスクの回避・緩和を促すプロセス
• ナッジ(Nudge):選択肢などを適切に配置することで、背中を軽く押すよ
うに、人々に「より良い」選択を促すこと
→ 特にナッジについて、良かれと思ってしたことでも、意思決定への介入ではない
か、パターナリスティックではないか、との批判
AIによる実効化…?
• プライバシーに関する選好をパラメータ化し、 AI や Electronic agent に管理を
任せることも想定される(cf. 金融市場における「アルゴリズム取引」)
• しかし、契約の成否や効果帰属などは(実は)必ずしも明らかでない
• 米国:統一電子取引法(UETA)、統一電子情報取引法(UCITA)、統一商
事法典(UCC)において、自動的取引を有効としつつ、電子エージェントの
利用者にその契約の効果を帰属させると明確化
• EU:自律型ロボットの一部に「電子人(electronic person)」など一定の
法的主体性を将来的に認める可能性を検討中
• 会社や船舶など、人ではない「物」を法的主体とし、一定の権利義務を認め、法
的課題を解決する技法は従来から存在する
→ AI に行為主体性や法的人格を認めることは 「個人」を単位とする社会のあり方を
根本から問い直すか?(大屋 2017)
AI社会のパーソナルデータ法制に向けて
• パーソナルデータやプライバシーを自己管理するのは、限界を迎えている
• その背後には、<意思—行為—責任>という近代法の擬制がある
• 擬制を維持しないシナリオ(治安社会)では、ハイパー・パノプティコンが想定
される
• 擬制を修正しつつ維持するシナリオ(尊厳社会)には、実務面・理論面で課題が
あり、検討すべき点も多い
• 特に、 AI に行為主体性や法的人格を認めることは 「個人」を単位とする社会の
あり方を根本から問い直す可能性もある
• AI社会のパーソナルデータ法制を考える上では、どのような社会・将来像が望ま
しいかを念頭において議論する必要がある
• 様々なステークホルダーで議論することが望ましく、そのコミュニケーションの
技法として、理念・原則を提示することが考えられる
“
• 蟻川恒正『尊厳と身分』, 岩波書店, 2016.
• Guardian "Londoners give up eldest children in public Wi-Fi security horror show", Sep 2014.
https://www.theguardian.com/technology/2014/sep/29/londoners-wi-fi-security-herod-clause
• 工藤郁子「自然人、法人に次ぐ『電子人』概念の登場」ビジネス法務 vol.18 No.2, 2018.2, pp.4-5.
• 栗田昌裕「民事裁判例におけるプライバシー」NBL1100号, 2017, p44.
• 石井夏生利「『プライバシー外交』 のためのプライバシー」情報通信政策レビュー vol.4, 2013,
pp.54-78.
• 大屋雄裕『自由か、さもなくば幸福か?』, 筑摩書房, 2014.
• 大屋雄裕「人格と責任―ヒトならざる人の問うもの」福田雅 樹=林秀弥=成原慧編『AIがつな
げる社会― AIネットワーク時代の法・政策』, 弘文堂, 2017.
• Solove, Daniel J. "Privacy Self-Management and the Consent Dilemma. "
• Solove, D.著, 大島義則・松尾剛行・成原慧・赤坂亮太訳『プライバシーなんていらない!?―情
報社会における自由と安全』, 勁草書房, 2017.
• 山本龍彦『プライバシーの権利を考える』, 信山社, 2017.
• 山本龍彦 『おそろしいビッグデータ』, 朝日新聞出版, 2017
Thank you for your attention.
Please contact us if you have any
questions.
Fumiko Kudo - Makaira KK
TEL: +81-3-6869-3483
Email: fumiko@makairaworld.com
5F Room A, Shimizu Bldg. 3-19 Hayabusa-Cho, Chiyoda-ku, Tokyo
102-0092, Japan

Más contenido relacionado

Similar a AI社会における「個人」と自律

Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...
Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...
Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...Makoto Koike
 
最近のAI倫理指針からの考察
最近のAI倫理指針からの考察最近のAI倫理指針からの考察
最近のAI倫理指針からの考察Hiroshi Nakagawa
 
20130203北大・ビッグデータとプライバシー
20130203北大・ビッグデータとプライバシー20130203北大・ビッグデータとプライバシー
20130203北大・ビッグデータとプライバシーUEHARA, Tetsutaro
 
20120628ビッグデータとプライバシー
20120628ビッグデータとプライバシー20120628ビッグデータとプライバシー
20120628ビッグデータとプライバシーUEHARA, Tetsutaro
 
IoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナー
IoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナーIoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナー
IoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナーHAPPY PROJECT LLC/ Kyoto University of the Arts
 
20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹
20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹
20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹Insight Technology, Inc.
 
情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料
情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料
情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料Hiroshi Nakagawa
 
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~法林浩之
 
2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdf
2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdf2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdf
2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdfMasahiro Ito
 
みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)
みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)
みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)HiroakiJoya
 
NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、 今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)
NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、  今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、  今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)
NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、 今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)Fumiko Kudoh
 
カジュアルITS
カジュアルITSカジュアルITS
カジュアルITSKohei Ota
 
情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会
情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会
情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会Hiroshi Nakagawa
 
成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」
成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」
成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」ssuser2cbec2
 
ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)
ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)
ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)aitc_jp
 
AIエージェントとは何者か:AI倫理を交えて
AIエージェントとは何者か:AI倫理を交えてAIエージェントとは何者か:AI倫理を交えて
AIエージェントとは何者か:AI倫理を交えて茂生 河島
 

Similar a AI社会における「個人」と自律 (20)

Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...
Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...
Commercial Transaction of Digital Data and Intellectual Property - Protection...
 
最近のAI倫理指針からの考察
最近のAI倫理指針からの考察最近のAI倫理指針からの考察
最近のAI倫理指針からの考察
 
20130203北大・ビッグデータとプライバシー
20130203北大・ビッグデータとプライバシー20130203北大・ビッグデータとプライバシー
20130203北大・ビッグデータとプライバシー
 
20120628ビッグデータとプライバシー
20120628ビッグデータとプライバシー20120628ビッグデータとプライバシー
20120628ビッグデータとプライバシー
 
IoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナー
IoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナーIoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナー
IoT emergency 2018.02.03/ 第23回日本集団災害医学会総会・学術集会ランチョンセミナー
 
20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹
20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹
20161213_DEMOで見せます!コンプライアンス遵守におけるデータマスキングの必要性と実現方法徹底解説! by 株式会社インサイトテクノロジー 益秀樹
 
情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料
情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料
情報ネットワーク法学会2017大会第8分科会発表資料
 
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
 
2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdf
2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdf2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdf
2023inLaw_SystemDevelopment_tanaka.pdf
 
みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)
みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)
みんなのIT協会(Tech for all association in Japan)
 
kaneko202304.pptx
kaneko202304.pptxkaneko202304.pptx
kaneko202304.pptx
 
NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、 今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)
NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、  今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、  今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)
NEXT WISDOM FOUNDATION 「AIが社会基盤となるからこそ必要であろう叡智、 今残すべき叡智とは?〜AIと法編〜」(工藤郁子)
 
カジュアルITS
カジュアルITSカジュアルITS
カジュアルITS
 
情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会
情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会
情報法制研究所 第5回情報法セミナー:人工知能倫理と法制度、社会
 
20171113 ntt data
20171113 ntt data20171113 ntt data
20171113 ntt data
 
6 9security
6 9security6 9security
6 9security
 
ユーザとベンダ双方にとって幸せなAI開発のための3つのポイント
ユーザとベンダ双方にとって幸せなAI開発のための3つのポイントユーザとベンダ双方にとって幸せなAI開発のための3つのポイント
ユーザとベンダ双方にとって幸せなAI開発のための3つのポイント
 
成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」
成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」
成原慧「自治体における生成AIの活用の可能性と留意事項」
 
ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)
ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)
ソフトウェアジャパン2018 ITフォーラムセッション(6)
 
AIエージェントとは何者か:AI倫理を交えて
AIエージェントとは何者か:AI倫理を交えてAIエージェントとは何者か:AI倫理を交えて
AIエージェントとは何者か:AI倫理を交えて
 

Más de Fumiko Kudoh

立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题
立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题
立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题Fumiko Kudoh
 
立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)
立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)
立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)Fumiko Kudoh
 
Ethics as Reputation Management
Ethics as Reputation ManagementEthics as Reputation Management
Ethics as Reputation ManagementFumiko Kudoh
 
「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019
「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019
「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019Fumiko Kudoh
 
「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)
「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)
「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)Fumiko Kudoh
 
#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)
#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)
#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)Fumiko Kudoh
 
東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)
東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)
東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)Fumiko Kudoh
 
信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)
信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)
信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)Fumiko Kudoh
 
政策提言としての情報社会論
政策提言としての情報社会論政策提言としての情報社会論
政策提言としての情報社会論Fumiko Kudoh
 
概略版「ロボット規制に関するガイドライン」
概略版「ロボット規制に関するガイドライン」概略版「ロボット規制に関するガイドライン」
概略版「ロボット規制に関するガイドライン」Fumiko Kudoh
 
AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」
AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」
AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」Fumiko Kudoh
 
ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望
ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望
ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望Fumiko Kudoh
 
メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―
メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―
メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―Fumiko Kudoh
 

Más de Fumiko Kudoh (13)

立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题
立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题
立法、行政、司法领域中大数据・人工智能应用的可能性与课题
 
立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)
立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)
立法・行政・司法におけるビックデータ・AI活用に関する可能性・ 課題(工藤郁子)
 
Ethics as Reputation Management
Ethics as Reputation ManagementEthics as Reputation Management
Ethics as Reputation Management
 
「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019
「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019
「プロファイリングに関する自主的規律導入支援の実践」(工藤郁子) #JSAI2019
 
「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)
「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)
「 #DIYバイオ :可能性と課題」コメント(工藤郁子)
 
#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)
#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)
#JSAI2018 OS-25b-03 「人工知能と報道倫理:『フェイクニュース』を中心として」(工藤郁子)
 
東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)
東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)
東京法哲研2018年3月例会「ロボット・AIと法的人格」(工藤郁子)
 
信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)
信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)
信頼・情報・ルール形成(Trust in Digital Life Japan - Working Group #1)
 
政策提言としての情報社会論
政策提言としての情報社会論政策提言としての情報社会論
政策提言としての情報社会論
 
概略版「ロボット規制に関するガイドライン」
概略版「ロボット規制に関するガイドライン」概略版「ロボット規制に関するガイドライン」
概略版「ロボット規制に関するガイドライン」
 
AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」
AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」
AI社会論研究会「AI・ロボットに関する法的論点の概観」
 
ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望
ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望
ロボット法―ロボット・人工知能に関する法的諸課題と展望
 
メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―
メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―
メディア戦略とポピュリズム―米伊の事例を中心に―
 

AI社会における「個人」と自律

  • 1. AI社会における「個人」と自律 マカイラ株式会社 コンサルタント/上席研究員 工藤郁子 2018年3月18日(日) 於 放送大学 東京文京学習センター 多目的講義室 パーソナルデータ+α研究会シンポジウム 「AI社会における『個人』とパーソナルデータ近代とシンギュラリティのあいだで?」
  • 2.
  • 3.
  • 4. 自己管理の限界 • データ取得時の「同意」の透明性と、事後の情報訂正・オプトアウトの確保が重 視されているが… • 誰も利用規約やプライバシーポリシーを読まない(cf. 「ヘロデ条項」) • 目先のメリットにつられやすい • 長期的・累積的・総合的なリスクを認知しにくい • IoTにより、利用する機器・端末が膨大・重層化すれば、認知限界を迎える → パーソナルデータやプライバシーを自己管理するのは、限界ではないか?(Solove 2012)
  • 5. Affective Computing • 感情を計測・理解し、感情に働きかける技術群: • 感情のセンシング(人・場のセンシングによる感情・雰囲気の分析) • 感情の活用・喚起(気持ちの変化の先に行動変化を招く行動誘発技術)
  • 6. 「個人」による自律というフィクション • <意思—行為—責任>という連関 • 自由意思に基づく自律的判断を前提として、その自己決定から生じた結果を 引き受ける、という近代法の基本原理 • 前提に、自律した人格を有するという「強い」「個人」像 • さらには、 <各個人の自由—自己決定—幸福>が一致する制度を法を通じて 国家が供給するという近代モデル(大屋 2014) • もっとも、法(学)は、こうした擬制を自覚し一部修正で対応してきた • 民事法分野は、業法・消費者法の問題として処理可能(栗田 2017) • cf. フランス人権宣言(1789)における「人一般(homme)」と「市民 (citoyen)」の二重性に注意 → 擬制を諦めると、どのような社会になる…?
  • 7. 「プライバシーなんていらない!?」 • 中国の芝麻信用(ジーマ・クレジット) • ユーザーの同意のもと、免許証、Eメールアドレス、不 動産登記簿などの情報を取得 • 属性情報、交友関係、決済履歴などを含む5項目で評価 • AIで「スコア」を算出 • スコアをインセンティブに人々の素行(!)が良くなる • パーソナルデータの開示とプロファイリングを前提とした、 新しい社会インフラ? → ハイパー・パノプティコン(超監視)で安心・信頼を実現 → 「やましいことがないのであれば、安全のために、あなたの プライバシーを開示するのは問題ないのでは?」 という主張 (Nothing-to-hide argument)の素朴な力強さ…
  • 8. 「尊厳」の復権? • 「個人の尊重」「尊厳」という根本規範への立ち返り • EUの一般データ保護規則( General Data Protection Regulation : GDPR)22条1項などについて、「時間とコストをかけてその個人を直接見 ることを厳格に要求し」「ビッグデータ社会において、なお人間の尊厳・個 人の尊重原理が『根本規範』として維持されるよう」にしたとの評価(山本 2017) • しかし、「尊厳」の復権という構想は、困難も伴う… • 実務面:「プライバシー外交」(石井 2013)、バーゲニングパワーの維持、 産業政策・競争政策との接合( GAFA(Google・Apple・Facebook・ Amazon)対策) • 理論面:身分と深い内面的牽連のある「尊厳」と近代的「個人」は、元来相 互に排斥し合う観念であり、「個人の尊厳」を近代立憲主義の構想の中核に 据えると、解決不可能な課題を背負い込んでしまう(蟻川 2016)
  • 9. Cf. EU 一般データ保護規則(GDPR)22条 1. データ主体は、当該データ主体に関する法的効果をもたらすか又は当該データ主体に 同様の重大な影響をもたらすプロファイリングなどの自動化された取扱いのみに基づいた 決定に服しない権利を持つ。 2. 第1項は次に掲げるいずれかの決定には適用されない。 (a)データ主体とデータ管理者間の契約締結、又は履行に必要な決定。 (b)データ主体の権利及び自由並びに正当な利益を保護するための適切な対策が定め られた管理者が従うEU法又は加盟国の国内法によって認められた決定。 (c) データ主体の明示的な同意に基づく決定。 3. 第2項(a)号及び(c)号で定める状況に関して、データ管理者は、データ主体の権利及 び自由並びに正当な利益を保護するための適切な対策を実施し、少なくとも管理者側で人 を介在させる権利、当該データ主体の観点を表明する権利、及び決定に同意する権利を実 施するものとする。 4. 第2項で定める決定は、第9条第2項(a)号又は(g)号が適用されず、データ主体の権 利及び自由並びに正当な利益を保護するための適切な対策が機能していないならば、第9 条第1項で定める特別な種類の個人データに基づいてはならない。
  • 10. 設計プロセスの改善による実効化 • プライバシー保護を組織的・体系的に、設計に組み込む方向性 • プライバシー・バイ・デザイン(Privacy by Design: PbD):プライバ シー侵害が起きる前にそれを予防することを指向し、仕様段階から検討 • プライバシー影響評価(Privacy Impact Assessment: PIA):プライバ シーへの影響度を事前に評価し、リスクの回避・緩和を促すプロセス • ナッジ(Nudge):選択肢などを適切に配置することで、背中を軽く押すよ うに、人々に「より良い」選択を促すこと → 特にナッジについて、良かれと思ってしたことでも、意思決定への介入ではない か、パターナリスティックではないか、との批判
  • 11. AIによる実効化…? • プライバシーに関する選好をパラメータ化し、 AI や Electronic agent に管理を 任せることも想定される(cf. 金融市場における「アルゴリズム取引」) • しかし、契約の成否や効果帰属などは(実は)必ずしも明らかでない • 米国:統一電子取引法(UETA)、統一電子情報取引法(UCITA)、統一商 事法典(UCC)において、自動的取引を有効としつつ、電子エージェントの 利用者にその契約の効果を帰属させると明確化 • EU:自律型ロボットの一部に「電子人(electronic person)」など一定の 法的主体性を将来的に認める可能性を検討中 • 会社や船舶など、人ではない「物」を法的主体とし、一定の権利義務を認め、法 的課題を解決する技法は従来から存在する → AI に行為主体性や法的人格を認めることは 「個人」を単位とする社会のあり方を 根本から問い直すか?(大屋 2017)
  • 12. AI社会のパーソナルデータ法制に向けて • パーソナルデータやプライバシーを自己管理するのは、限界を迎えている • その背後には、<意思—行為—責任>という近代法の擬制がある • 擬制を維持しないシナリオ(治安社会)では、ハイパー・パノプティコンが想定 される • 擬制を修正しつつ維持するシナリオ(尊厳社会)には、実務面・理論面で課題が あり、検討すべき点も多い • 特に、 AI に行為主体性や法的人格を認めることは 「個人」を単位とする社会の あり方を根本から問い直す可能性もある • AI社会のパーソナルデータ法制を考える上では、どのような社会・将来像が望ま しいかを念頭において議論する必要がある • 様々なステークホルダーで議論することが望ましく、そのコミュニケーションの 技法として、理念・原則を提示することが考えられる
  • 13. “ • 蟻川恒正『尊厳と身分』, 岩波書店, 2016. • Guardian "Londoners give up eldest children in public Wi-Fi security horror show", Sep 2014. https://www.theguardian.com/technology/2014/sep/29/londoners-wi-fi-security-herod-clause • 工藤郁子「自然人、法人に次ぐ『電子人』概念の登場」ビジネス法務 vol.18 No.2, 2018.2, pp.4-5. • 栗田昌裕「民事裁判例におけるプライバシー」NBL1100号, 2017, p44. • 石井夏生利「『プライバシー外交』 のためのプライバシー」情報通信政策レビュー vol.4, 2013, pp.54-78. • 大屋雄裕『自由か、さもなくば幸福か?』, 筑摩書房, 2014. • 大屋雄裕「人格と責任―ヒトならざる人の問うもの」福田雅 樹=林秀弥=成原慧編『AIがつな げる社会― AIネットワーク時代の法・政策』, 弘文堂, 2017. • Solove, Daniel J. "Privacy Self-Management and the Consent Dilemma. " • Solove, D.著, 大島義則・松尾剛行・成原慧・赤坂亮太訳『プライバシーなんていらない!?―情 報社会における自由と安全』, 勁草書房, 2017. • 山本龍彦『プライバシーの権利を考える』, 信山社, 2017. • 山本龍彦 『おそろしいビッグデータ』, 朝日新聞出版, 2017
  • 14. Thank you for your attention. Please contact us if you have any questions. Fumiko Kudo - Makaira KK TEL: +81-3-6869-3483 Email: fumiko@makairaworld.com 5F Room A, Shimizu Bldg. 3-19 Hayabusa-Cho, Chiyoda-ku, Tokyo 102-0092, Japan