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臨床推論への招待
富山大学医学部4年
加瀬 悠平
本日の目次
・余は如何にして診断学徒となりし乎
・ショートケースで学ぶ臨床推論の必要性
・臨床推論へのアプローチ
・臨床推論の勉強法
・FAQ
・臨床推論の活かし方
おことわり
・本スライドの内容に起因する不利益・損害に対しては一切責任を負いかねます
・登場する医学書の出版社との間に開示すべきCOI関係はありません
・ポリクリ1週目の一医学生の私見と偏見に基づきます
自己紹介
・1991年生まれ、28歳、男、千葉県東部出身
・高卒⇒浪人⇒京大⇒浪人⇒富山大学の足掛け6年、再受験
・学士(経済学)当時は酒浸り、バイト三昧の底辺大学生
・今は研究室(社会医学系)にいる時間が長い
・いつの間にか臨床推論が趣味に
・救急科or産婦人科で迷い中だが・・・
余は如何にして診断学徒となりし乎
余は如何にして診断学徒となりし乎(経験談)
・3年生の2月(今年)、臨床講義室前のチラシをみて、「臨床推論」の勉強会
があると知った
・「臨床推論」=「ドクターG」=「選ばれし者の持つスキル」?
・なんだか難しそう、自分に出来るのか
・救急科志望だから返すと死ぬ疾患だけ知っておきたい
・「朝◯内科学」「内科診断学」読んでおけば十分では?
初回カンファに参加してのBefore&After
・「選ばれし者の」 ⇒ 「すべての臨床医が持つ(べき)スキル」
・なんだか難しそう、自分にできるのか ⇒ 普遍的なプロセス、誰でも出来る
・救急科志望だから帰すと死ぬ疾患だけ知っておきたい
⇒コモンな疾患、ニッチな疾患、マイナートラブル、mimickerも大事
・「朝◯内科学」「内科診断学」読んでおけば十分では?
⇒それだけで病気が診断できれば苦労しません
・教科書は10年遅れ、時代はGoogle-Based Medicine(教科書は大事だが)
ショートケースで学ぶ臨床推論の必要性
ケース1
冬のある日。特に基礎疾患のない24歳女性。会社員。独身。昨日朝から軽度の
咽頭痛があり、夕方から37度台後半の微熱あり。今朝からは鼻汁、咳症状も出
現したため、本日夕方、仕事帰りに駅前の開業医を受診。咽頭痛は改善傾向。医
師歴30年超の院長が診察。
バイタル 呼吸数18/min 血圧113/72 脈拍92/min、整 体温37.5度
身長157cm 体重49kg
身体診察:咽頭軽度発赤(+)、咽頭後壁リンパ濾胞(+)頸部リンパ節触知
(ー) 呼吸音、心音に異常をみとめない。
患者の訴え:抗菌薬を出してほしい
この患者に追加で問診したいことは?
この患者にオーダーすべき検査は?
この患者の最終診断は?
ケース1
冬のある日。特に基礎疾患のない24歳女性。会社員。独身。昨日朝から軽度の
咽頭痛があり、夕方から37度台後半の微熱あり。今朝からは鼻汁、咳症状も出
現したため、本日夕方、仕事帰りに駅前の開業医を受診。咽頭痛は改善傾向。医
師歴30年超の院長が診察。
バイタル 呼吸数18/min 血圧113/72 脈拍92/min、整 体温37.5度
身長157cm 体重49kg
身体診察:咽頭軽度発赤(+)、咽頭後壁リンパ濾胞(+)頸部リンパ節触知
(ー) 呼吸音、心音に異常をみとめない。
患者の訴え:抗菌薬を出してほしい
インフルかも?だとしても重症化する患者
背景(DM、高齢、ステロイド、妊婦)は
ひとまず大丈夫そう ※妊娠は別
Killer Sore Throatはなさそう
何はともあれまずバイタル
感染症を疑えばまず呼吸数
ケース1 続き
担当医師は、複数領域にまたがる非特異的症状からウイルス性疾患を疑い、典型
的な「風邪」と診断した。
抗菌薬の必要性については、ウイルス性の風邪には無効であること、服用による
様々な副作用、耐性菌出現のリスクを丁寧に説明したところ、納得され、対症療
法のみの処方となった。
最終診断:ウイルス性上気道炎(いわゆる『かぜ』)
処方:麦門冬湯、アゼプチン、カロナール(頓用)
ケース2
34歳の基礎疾患のない男性。会社員。既婚。4日前から感冒様症状が改善しな
いため近所の前医(かかりつけ)を受診するも、抗菌薬が処方されないため当ク
リニック(内科系開業医)を初診。診察では、咽頭痛、下痢、咳、全身倦怠感の
訴えあり。医師10年目の担当医(総合診療科出身)が診察。
バイタル 呼吸数16/min 血圧120/62 脈拍118/min 体温38.4度 175cm 70kg
身体所見 悪寒戦慄(ー)口腔内発赤(+)アフタ(ー)扁桃腫大(ー)前頸部
リンパ節腫脹(+)圧痛(ー)両側の手背、体幹部に癒合性環状紅斑(+)
sick contact 職場の部署でインフルエンザの人がいた。妻は里帰り出産のため帰
省中。10本/day×10年の喫煙者で、咳は日常的に出るという。
この患者に追加で問診したいことは?
この患者にオーダーすべき検査は?
この患者の最終診断は?
ケース2
34歳の基礎疾患のない男性。会社員。既婚。4日前から感冒様症状が改善しな
いため近所の前医(かかりつけ)を受診するも、抗菌薬が処方されないため当ク
リニック(内科系開業医)を初診。診察では、咽頭痛、下痢、咳、全身倦怠感の
訴えあり。医師10年目の担当医(総合診療科出身)が診察。
バイタル 呼吸数16/min 血圧120/62 脈拍118/min 体温38.4度 175cm 70kg
身体所見 悪寒戦慄(ー)口腔内発赤(+)アフタ(ー)扁桃腫大(ー)前頸部
リンパ節腫脹(+)圧痛(ー)両側の手背、体幹部に癒合性環状紅斑(+)
sick contact 職場の部署でインフルエンザの人がいた。妻は里帰り出産のため帰
省中。10本/day×10年の喫煙者で、咳は日常的に出るという。
ケース1同様、重症化の背景
は無いと考えてよさそう
基礎疾患がないのに、
風邪が治らない
(?)
IM(伝染性単核球症)など
のウイルス性疾患から考え
て行くが、30代の既婚者が
EBV初感染・・・?
インフルの可能
性は捨てがたい
が・・・
ケース2 続き
ケース1同様に、ウイルス感染症を疑い、一般採血を行った。
また、性的活動年齢であることから、追加の問診を行ったところ、2ヶ月ほど前
に妻以外の女性との避妊具を使用しない性的接触があったことが判明した。
当日は一般採血のみ行い、カロナールを処方し帰宅させた。
採血結果WBC4970 Seg63% Eos 4% Mono4% Lym29% CRP1.1mg/dL
CMV IgG EBV IgG とも陽性 HIV抗体(+)異型リンパ球あり
後日再診検査で確定診断がなされ、治療拠点病院に紹介となった。
最終診断 急性HIV感染症
(産婦人科医の卵としての)おねがい
月経歴・妊娠歴・性交渉歴の病歴聴取は細心の
配慮をしましょう
・質問の前に、前置きをし、何故その質問をするのかを明らかにする
(同じような症状の人には全員に聞いている、検査や投薬に関わるので
聞いている、症状の原因の可能性があるので聞いている、等)
・患者のプライバシーに配慮する
(個室で、保護者やパートナーは別室へ、内容への守秘義務を伝える)
・恥ずかしがらない
・オープンエンドクエスチョンで
・批判的な態度・言動を避ける
参考文献「女性の救急外来 ただいま診断中!」(中外医学社)p12‐19
ケース3
26歳男性。トラック運転手。既婚。4日前からの40度の高熱に対し、前医で抗
菌薬+坐薬+総合感冒薬を処方されるも解熱せず、3日前から心窩部違和感があ
り、本日未明から1時間ごとに嘔吐しているため当院救命救急センターを早朝に
独歩受診。来院当初から威圧的な態度であり、当直が終わりかけの初期研修医2
年目医師がしぶしぶ対応。
来院時バイタル 呼吸数26/min 血圧116/63 脈拍125整 BT38.5度
Sick contact 同居する6歳の長男、3歳の長女が1週間ほど前に発熱
身体所見 咽頭軽度発赤(+)呼吸音清 心音リズム整 頻脈のため過剰心音不
明 心窩部圧痛あり 体幹部に刺青(+)
患者の訴え 「仕事に出るからさっさと症状を治してほしい(治さんかい)」
この患者に追加で問診したいことは?
この患者にオーダーすべき検査は?
この患者の最終診断は?
ケース3
26歳男性。トラック運転手。既婚。4日前からの40度の高熱に対し、前医で抗
菌薬+坐薬+総合感冒薬を処方されるも解熱せず、3日前から心窩部違和感があ
り、本日未明から1時間ごとに嘔吐しているため当院救命救急センターを早朝に
独歩受診。来院当初から威圧的な態度であり、当直が終わりかけの初期研修医2
年目医師がしぶしぶ対応。
来院時バイタル 呼吸数26/min 血圧116/63 脈拍125整 BT38.5度
Sick contact 同居する6歳の長男、3歳の長女が1週間ほど前に発熱
身体所見 咽頭軽度発赤(+)呼吸音清 心音リズム整 頻脈のため過剰心音不
明 心窩部圧痛あり 体幹部に刺青(+)
患者の訴え 「仕事に出るからさっさと症状を治してほしい(治さんかい)」
MRI禁忌
すでに何かヤバそう
かなりヤバそう
診断エラー警報
(来院時間帯、
陰性感情、当直
終了間近)
ケース3
26歳男性。トラック運転手。既婚。4日前からの40度の高熱に対し、前医で抗
菌薬+坐薬+総合感冒薬を処方されるも解熱せず、3日前から心窩部違和感があ
り、本日未明から1時間ごとに嘔吐しているため当院救命救急センターを早朝に
独歩受診。来院当初から威圧的な態度であり、当直が終わりかけの初期研修医2
年目医師がしぶしぶ対応。
来院時バイタル 呼吸数26/min 血圧116/63 脈拍125整 BT38.5度
Sick contact 同居する6歳の長男、3歳の長女が1週間ほど前に発熱
身体所見 咽頭軽度発赤(+)呼吸音清 心音リズム整 頻脈のため過剰心音不
明 心窩部圧痛あり 体幹部に刺青(+)
患者の訴え 「仕事に出るからさっさと症状を治してほしい(治さんかい)」
頻呼吸(20/min以上)+頻脈+
バイタル逆転(脈拍数≧収縮期血圧)
(+発熱) ⇒Shockとして
早期対応(敗血症かも・・・)
ケース3 続き
患者は態度だけでなく、見た目が非常に威圧的で、検査の同意を取るのに苦労し
たが、なんとか一般採血を了承した。(「もしかして・・・?」)
一般採血の結果、WBC16600 CRP>30 LDH>1400 CPK>4000のパニック値
を認めたため「念のため」心電図を取ったところ、全域でST上昇を認めた。
循環器内科当直医師を叩き起こし、外来で心エコーを施行したところ、びまん性
のakinesisおよび心嚢水貯留をみとめ、直ちにCCU入室、IABP挿入となった。
最終診断:急性心筋炎(劇症型)
研修医の「念のため」が幸いし、経過良好で独歩退院した。
ケース4
41歳男性。複数の飲食店オーナー。既婚。既往歴は高血圧のみ。本日午後から
の咽頭痛、および発熱を主訴に患者で混み合う急患センターを夜間に受診。
5年目医師が対応。問診では、のどが痛くて水を飲むのも辛いとの訴えがあった。
肉眼で観察したところ、咽頭所見はは軽度発赤を認めるのみだった。医師の脳裏
に一瞬ある疾患がよぎったが、「急性咽頭炎」の診断にて「万が一」呼吸苦を認
めたときは、近隣の救命救急センターを受診するよう指示して帰宅。
来院時バイタル BT37.7度(腋窩温)、血圧147/99 のみ測定
身体診察 肺野で呼吸音清 心音リズム整 明らかなsick contact なし
急性咽頭炎(細菌性?)の診断で念のため抗菌薬(セフカペン・ピボキシル)+解熱鎮痛薬(カロナー
ル)+トラネキサム酸が処方された。
この患者に追加で問診したいことは?
この患者にオーダーすべき検査は?
この患者の最終診断は?
ケース4
41歳男性。複数の飲食店オーナー。既婚。既往歴は高血圧のみ。本日午後から
の咽頭痛、および発熱を主訴に患者で混み合う急患センターを夜間に受診。
5年目医師が対応。問診では、のどが痛くて水を飲むのも辛いとの訴えがあった。
肉眼で観察したところ、咽頭所見はは軽度発赤を認めるのみだった。医師の脳裏
に一瞬ある疾患がよぎったが、「急性咽頭炎」の診断にて「万が一」呼吸苦を認
めたときは、近隣の救命救急センターを受診するよう指示して帰宅。
来院時バイタル BT37.7度(腋窩温)、血圧147/99 のみ測定
身体診察 肺野で呼吸音清 心音リズム整 明らかなsick contact なし
急性咽頭炎(細菌性?)の診断で念のため抗菌薬(セフカペン・ピボキシル)+解熱鎮痛薬(カロナー
ル)+トラネキサム酸が処方された。
早く返してあげたいの
は人情ですが・・・
咽頭痛のレッドフラッグ
(ヤバい)サインあり
呼吸数は?
脈拍は?
第3世代セフェム経口薬
ほとんどがDU(Daitai Unko)薬
ケース4 続き
前医から帰宅して数時間のち「呼吸が苦しい」と救急要請があった。
8分後、患者自宅で救急隊接触時、心肺停止状態(CPA)で、心電図波形は心静
止であった。胸骨圧迫、アドレナリン静注を行いながら、近隣の救命救急センタ
ーに搬送された。
来院直後、気管挿管を行うため喉頭展開したところ著明な喉頭蓋の浮腫を認めた。
輪状甲状間膜切開により緊急気道確保を行い、自己心拍再開したものの、数日後
低酸素脳症で死亡した。
最終診断 急性喉頭蓋炎(による窒息)
出典(担当医師、状況など一部改変)
ケース1 ケース2 ケース3 ケース4
複数の死亡例より再
構成。人物は架空。
感冒および咽頭痛をケースの主題に選んだ背景
・風邪はひいても怖くないが、風邪が風邪に似た致死
的な疾患ではないと診断するのは結構怖くて難しい!
・咽頭痛の中に、死ぬ咽頭痛がある(ケース4)
・特にインフルエンザ流行期、熱中症の流行期には、
それらの中に発熱する怖い疾患(ex.敗血症)が紛れて、
ウォークインでやってくる!
・「多分風邪(胃腸炎)ですね」は
ケース4のような地獄への道・・・かも
ここまでの教訓
・風邪のようなよくある(Common)疾患と2〜4のよう
な稀だが致死的(命取り、Critical)な疾患は一見、症状の
プレゼンテーションがよく似ている
・バイタルサインを測ろう(ケース4の痛い教訓)
・救急外来で、「よくある死なない疾患」に紛れた「致死的
な疾患」を診る可能性が高いのは、数年後の私たち
・臨床推論を学ぶことで診察眼を鍛え、自分と患者を守る
実際に・・・
・救急外来で問題になるのは「見落とし」
・Criticalな疾患は見逃しで問題となる「地雷疾患」
(頭痛の患者を帰したらSAH、悪心の患者を帰したら心筋梗塞、側腹部痛の患者
を帰したら大動脈解離、失神の患者を帰したら肺塞栓症、女性の腹痛を帰したら
異所性妊娠破裂、咽頭痛の患者を帰したら急性喉頭蓋炎・・・ 等)
・どの疾患も、次に救急に戻ってくるときは「死」
※最近の見落とし訴訟ブームは「癌」(CT閾値の低下による)
参考文献
本多他 本邦における救急領域の医療訴訟の実態と分析
(日救急医会誌. 2013; 24: 847-569)
医療過誤or医療訴訟で、救急外来または救急センターで診療
されたものが対象
疾患別件数順には1位外傷、2位腸閉塞、3位急性喉頭蓋炎、
4位くも膜下出血、5位急性心筋梗塞、6位大動脈解離
特に、急性喉頭蓋炎では100%医師側が敗訴している
さらに・・・
・富大では国際認証を得た十分な期間の臨床実習がある
・とはいえその間にすべての症候を網羅できる訳ではない
・そもそも臨床推論教育は医学部教育で決定的に不足
・臨床推論こそ、医学部でのスキルの到達点
さらにさらに・・・
病院見学先の集中治療部長(年間救急車1万台の野戦病院)
「初期研修の目標は患者さんを自分の判断で帰せるようになること。
そのためには少なくとも救急で2年間で2000人を診察する必要がある」
臨床推論をすることで、ある疾患の症候〜問診〜鑑別〜検査
〜治療の流れを追体験出来る。
それらを知った上で病院見学・臨床実習に臨むことで、そこ
から得られる情報量は格段に増加する。
臨床推論へのアプローチ
臨床推論の方法論(methodology)
大きく言えば システム1(直感的)とシステム2(論理的、網羅的)
MRO (Must Rule Out) 戦略 (小児科医や救急科医がよく使う)
バイタルサイン(入江先生、宮城先生、徳田先生 他)
フレームワーク法(市立奈良病院 森川先生 他)
PIVOT&CLUSTER戦略 (獨協医科大学 志水先生 他)
疾患のゲシュタルト(岩田健太郎先生 他)
VINDICATE+P(ティアニー先生など) 等・・
MRO (Must Rule Out) 戦略
・「HAPPY!こどものみかた」より
・特定の主訴、所見に対して見逃してはいけない疾患を、
5個程度(作業記憶の範囲内)準備
ex「何だか元気がない」⇒髄膜炎、UTI、腸閉塞、心不全
・「MROすべき疾患ではない」証拠を集めていく
バイタルサイン
・救急の基本
・呼吸数、SpO2、血圧、脈拍、体温、意識、尿量
・救急ホットラインでの定型文「バイタルお願いします」
・安くて、早くて、うまい(低侵襲)の三拍子揃った方法
・初期研修で救急の現場に出るとき避けて通れない
・実地講習会CPVSは救急医学会の公認Off-JT
フレームワーク法
・森川暢先生(市立奈良病院)のご著書から
・主訴別に、系統的に、もれなく鑑別診断を挙げる方法
・超人的な記憶力のない人でも、見落としが生じにくい
例)失神⇒心原性、脳血管性、起立性低血圧、神経介在性
呼吸困難⇒肺、心臓、貧血
・ここにthink worst scenario(≒MRO)を組み合わせる
※本書でカバーされてない主訴に対しては自分でフレームワークを作る必要あり
PIVOT&CLUSTER戦略
・志水太郎先生(獨協医科大学)のご著書「診断戦略」に詳しい
・直感(ひらめき)+分析思考(論理的)のあわせ技
・pivot(主訴からの直感的診断)とcluster(pivotに表現型がよく似た疾患群)
を両方用意する
例)68歳男性、突然の側腹部痛・・pivotは尿管結石、clusterにAAA、大動脈
解離、急性膵炎、胆嚢炎・・・
・pivotが思いつかない場合、ズレている場合などある程度経験が必要、上級者
向
・Pivotを増やし、Clusterを洗練すればかなり有用な方法となると思われる
疾患のゲシュタルト(全体像、見た目)
・神戸大学感染症科 岩田健太郎先生の編著に詳しい。やや上級。
・疾患を個別の主訴、症状、検査所見・・に分割するのではなく、ある一つの全
体像として捉えるもの=「全体は部分の総和ではない」
例)大動脈解離・・・中年〜高齢者で喫煙歴・高血圧の既往がある患者。若年で
は妊婦、マルファン症候群患者など。突然に完成する激烈な胸痛〜腰背部痛とし
て発症し、痛みは血管に沿って移動性。
上肢の血圧左右差、「ショックに見える高血圧」、胸部X線で縦郭拡大があれば
診断の決め手。
・疾患のゲシュタルトを自身の中に描けるようになることは一つの目標
VINDICATE!!!+P
・UCSF内科学の
ローレンス・ティアニーJr.先生(診断学の神様)がよく使
う
・疾患をカテゴリ別に網羅したもの
・外来診察など時間制約のある中では使いにくいかも
・ある程度時間的余裕のある中で、診断が思いつかない場合
および、病棟のUndiagnosed Caseへの切り札
VINDICATE!!!+P
V Vascular(血管系)
I Infection(感染症)
N Neoplasm(良性・悪性新生物)
D Degenerative(変性疾患)
I Intoxication(薬物・毒物中毒)
C Congenital(先天性)
A Auto-immune(自己免疫・膠原病)
T Trauma(外傷)
E Endocrinopathy(内分泌系)
! Iatrogenic(医原性)
! Idiopathic(特発性)
! Inheritance(遺伝性)
P Psychogenic(精神・心因性)
推薦書籍
臨床推論の勉強法
初学者向きの現実的方法(私見)
①致死的な疾患から考え除外する、致死的疾患をグループ化しておく
胸痛→5killer Chest Pain
(急性心筋梗塞、大動脈解離、緊張性気胸、肺塞栓、食道破裂)
咽頭痛→Killer Sore Throat(ケース1で出ました)
(急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、ルートヴィヒアンギナ、
ルミエール症候群と、大動脈解離と急性心筋梗塞とSAHと急性HIV感染)
見落としの可能性は減るが、検査前確率、過剰検査は考慮すべき
推薦書籍(致死的疾患編)
初学者向きの現実的方法(私見)
②よくある診断エラーを先に知っておく
(腹痛→×胃腸炎○心筋梗塞、DKA、腸閉塞、異所性妊娠、腸間膜虚血)
(頭痛→×片頭痛○くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎)
(胸痛→×筋骨格系疾患○Killer Chest Pain)
(腰痛→×急性腰痛症○大動脈解離、多発性骨髄腫、化膿性脊椎炎、急性膵炎)
「腸重積症を研修医だけで帰したら見逃してCPAで戻ってきました・・」等
数年後に「やらかさない」ためには最も有用と思われる。問題点は①に似る。
推薦書籍(診断エラー編)
推薦書籍(診断エラー編 上級編)
初学者向きの現実的方法(私見)
③ポケットに入る症候学本を持ち歩く
症候→確認→鑑別診断リスト の繰り返し。ポリクリの際の患者さんの主訴、
CBT、国家試験の症例問題の際など。
実臨床で問題になる症候は、おおよそ網羅できる。ただし高齢者など、多疾患が
併存している状態では非特異な場合が多くて役立たない場合もある。
④ケース集を解く
今は、日本語の症例集も多く出たので、ハードルは低い。
一番現実的で力がつく。診断エラーは振り返り、知らない疾患は身につける。
推薦書籍(症候学編)
推薦書籍(ケース集)
他多数
初学者向きの現実的方法(私見)※やや上級編
⑤ケースの数をこなす
今回GPに向けて1000症例以上に取り組みました。
⑥部位別・モダリティ別の診断本を読む
とくに腹痛、発熱、画像、心電図。
⑦画像で学ぶ
ビジュアルが好きな人には強い。臨床写真図鑑など。
⑧非典型症例にあえて挑み、震える(③診断エラーを知る と重複する)
推薦書籍(上級編)
推薦書籍(上級編)
初学者向けの現実的方法(私見)※上級編
⑨パールを活かす
パールとは「簡潔に纏まった臨床経験知の結晶」。先人の知恵に学ぶ作戦。
例)「妊娠可能年齢の女性に原因不明なショックを認めた場合は、他の診断がつ
くまで異所性妊娠の破裂を考えなさい」=「女性を見たら妊娠を疑え」
例)「脳卒中患者は50%ブドウ糖液を50ml静注するまで脳卒中ではない」
⑩感染症に強くなる
多臓器、多起因菌、多症状、ときに緊急の奥深い分野です
耐性菌の出現と抗菌薬適正使用は全医師の課題です
推薦書籍(上級編)
筆者の日常風景
臨床推論の活かし方(私見)
臨床推論の活かし方(私見)
・症例を解く=臨床推論の勉強法(インプット)であり、同
時にアウトプットでもある cp.高校数学
・ある症例に対し、直感的な診断名と、アンチョコや教科書
を見ながらの推論を共に行う。
・ケースごとの振り返りも出来たら尚よい
・クイズ感覚でどんどんケースに取り組もう
臨床推論の活かし方(私見)
・早いうちから(3年〜)病院見学に行く。病院では、救急
外来を当直帯も含めて見学し、実際の患者さんを前に、研修
医の横で主治医になったつもりで、自身の鑑別診断、必要な
問診、検査を考える。場合によっては考えたこと=解釈を研
修医に伝える(それがたとえ間違いであっても)。わからな
い事は素直に調べる。教えてもらう。
・病歴、バイタル、身体診察を大切にできる(ケース4)
FAQ(よくある質問)
FAQ(よくある質問)
①小難しい本じゃなくてレビューブック、病気がみえる、QBなどで十分では?
疾患学の試験対策(コアカリ、国試、CBT)的知識整理にはとても有用。
これらの致命的な欠点は症候学の項目がほぼ皆無であること。
実臨床では診断がついた段階での調べ物程度にしか役に立たないと考える。
疾患のド典型例(試験的)の症例集としては国家試験の最近の症例はアリ。
しかし、実臨床での疾患のド典型例の頻度は少ない。
実臨床に近似した稀な疾患、非典型例も含む症例集が一番トレーニングになる。
FAQ(よくある質問)
②疾患学を学んでからじゃないと臨床推論をやる意味はないのでは?
③疾患学の知識が完璧なら、臨床推論なんていらないのでは?
A.数学と同じで、問題(=症例)を解きながら、その都度必要な知識、解法
(=疾患学)を学んでいけばよい。膨大な疾患がある中、ケースで初めて出会っ
て、そこから疾患を学ぶくらいで丁度よい。その意味で初心者に最も理想なのが
救急科・総合診療外来のケース。
A.各症候ををきたす疾患を緊急度と頻度の2×2マトリックスにもれなく書け
るのであればその通りだと思いますが、99%の学生には無理ゲーだと思います。
FAQ(よくある質問)
④基礎医学すらよくわかっていないのに臨床医学なんてできるの?
A.個人的には、医学部教育における基礎医学と臨床医学の乖離、(一部の教員
による)オカルト的な基礎医学偏重主義は危険だと思っています。それどころか
「臨床の問題(≒症例)を通して意味付けされた基礎医学の知識」こそ、医学部
教育の中で本当に必要なものだと考えます。誰が教え(られ)るか、という問題
は別として。
⑤基礎研究、患者を見ない科に行くので臨床推論なんていらないのでは。
A.そうした科でも、患者さん相手の当直をする先生がまだ多いと思います。
Take Home Message
・臨床推論を学ぶことで、患者と自分を守る。
・よくある疾患、見逃すと致死的な疾患(地雷疾患)、
よくある診断エラーは臨床に出る前に知る。
・ケースに1題でも多く取り組み、症例から疾患を学ぶ。
・試験対策本だけでは臨床推論は無理。
・実際の患者さんを1人でも多く目にする。

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