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ユーザビリティの評価と
UXの評価
放送大学名誉教授
黒須正明
1
HCDライブラリー第七巻刊行記念イベント
2019.05.21 (Tue) 19:00-21:00
Freee株式会社(五反田)
ユーザビリティとUX
2
設計時の品質と利用時の品質
3
設計時の品質 利用時の品質
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客観的品質と主観的品質
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UXUI
Ver.180101 (© Kurosu 2014,2015,2016,2017,2018)
製品
品質
ユーザ特性
- 身体特性
- 認知特性
- 心理特性
- 年齢、世代
- 障害
- 性差
etc.
利用状況
- 物理環境
- 社会環境
- 言語、文化
- 地理環境
UX
ユーザビリティ
機能性
性能
信頼性
安全性
互換性
維持性
費用 - 新規性
- 希少性
- 認知しやすさ
- 記憶しやすさ
- 学習しやすさ
- 発見しやすさ
- 操作しやすさ
- エラー防止
魅力
- 感性訴求性
- 欲求訴求性
設計時品質
リスク回避性
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効率
生産性
ユーザ特性への適合性
利用状況への適合性
満足感
(意味性)
-楽しさ
- 喜ばしさ
- 嬉しさ
- 美しさ
- 可愛らしさ
- 好ましさ
- 反復利用への意欲
- 達成感
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知覚
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直接的影響
主観的設計時品質 主観的利用時品質
客観的設計時品質 客観的利用時品質
Ver.190414 (© Kurosu 2014,2015,2016,2017,2018,2019)
製品
品質
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( )
ユーザビリティの評価
9
利用状況の理解と
明確化
ユーザの要求事項
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デザインによる
解決案の作成
要求事項に照らして評
価
人間中心設計
プロセスの計画
デザインによる
解決案は要求
事項に適合
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階へ反復
• 評価結果に問題があれば、評価結
果を設計に反映して再デザインする
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思考発話法(発話思考法)
回顧法
アイトラッキング分析
対面型ユーザビリティテスト
同期型リモートユーザビリティテスト
非同期型リモートユーザビリティテスト
対面・非対面
設計時の
評価
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法
ユーザビリティ
テスト
基本的手法
AttrakDiff
フォーマルユーザビリティインスペクション
エキスパートレビュー
質問紙法
SUS
SUPR-Q, NPS
QUIS
WAMMI
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Product Reaction Card
SD法
ヒューリスティック評価
認知的ウォークスルー
多元的ウォークスルー
帰納インスペクション
一貫性インスペクション
標準インスペクション
UXの評価
12
UXは実経験
13
実経験であり、ラボでは評価できない
• 実ユーザによる実利用状況における実際の利用
• ユーザが自分の判断で選択したもの
• ユーザが自分の意思で購入したもの
• ユーザが自分の金で入手したもの
• ユーザが自分の目標達成に利用する
• ユーザが慣れ親しんだ環境で利用する
• これらはラボの実験的状況では再現できない
14
UXは予測評価できない
15
•UXは経験したこと(過去形)だか
ら
•残念ながら妥当な予測評価は
無理
16
せいぜいできるのが想像報告
• UXは基本的に経験してから感じられるもの
• 経験する前に予想することは無理
• DES (あまりお勧めしません)
• Differential Emotions Scaleの略で、Izard et al.
(1974)が提唱した
• 何かを経験している最中のことを想像させ、どの程度それぞ
れの情動を感じるかを評価させる
• 怒り、軽蔑、嫌悪、悲嘆、恐怖、罪悪感、興味、喜び、恥、
驚きの10種類について5段階評価させる
17
UXは主観的・個人的
18
•UXは主観的なものであり、個人
的なものだから・・
•UXを客観的に測定したり、平
均値をとるのは無意味
19
ただし、こんなのはある
• Emo2 (あまりお勧めしません)
• Laurans and Desmet (2006)
• 自宅等でユーザーが製品を操作しているところをビデオに記
録し、直後にビデオを再生し、操作をしているときの気持ちを
報告してもらう
• 適当なタイミング(一定間隔、もしくはタスク完遂時など)、ま
たは生理的指標(GSRや心拍、顔筋測定値)が変化したタ
イミングで、評価尺度への記入を依頼し、あわせてインタ
ビューを行う
• ビデオ記録のタイミングがむつかしい
20
UXと満足感-混同されるほど近い
• ISO9241-210:2010
• 2.15 user experience
• person's perceptions and responses resulting from the
use and/or anticipated use of a product, system or
service
• 2.10 satisfaction
• freedom from discomfort and positive attitudes
towards the use of the product
• ISO9241-11:2016 FDIS (その後、変更された)
• 3.1.12 satisfaction
• user's perceptions and responses that result from the
use of a system, product or service
21
UXは変動するから
単独の値では表現できない
22
23
これ等の値を平均
したら、ほぼ0に
なっちゃうよ
UXグラフのデータ
(横軸は時間、
縦軸は+10から
-10までの満足
度)
使えるUX評価手法
24
TFD (日記法の一種)
• Time Frame Diary
• Kurosu and Hashizume (2008)
• 一日24時間を15分刻みで96個の時間枠(time-
frame)に分割した記入用紙を作成し、それに一週間記録
してもらう
• 2-3時間ごとに、どこで何をしていたか、調査対象の製品や
サービスを利用したか、などを簡潔に記入する
• 記入が終わった段階で、できるだけ早い時期にインタビュー
調査を行う
25
26
経験想起法(ERM)
• Kurosu et al. (2018)
• UXカーブでは単位の均一性に疑問があったが、UXグラフでも明確に時期を想
起できているのかという疑問があった
• ビジュアルな表現形式を破棄し、かつ時間軸に関してもゆるい枠を設けるだけに
して、エピソードとそれに対する満足度評価に重点化
• 時間に関する枠は
• 購入前の期待の時期
• 購入して利用を開始した時期
• 利用を開始してから間もない時期
• その後の(比較的長期間の)時期
• つい最近の時期
• 現在
• 近い将来における予測
27
28
自由に行を増やせるWeb版もあります。
https://ux-graph.com/erm/
UX評価をどう使うか
29
開発プロセスと利用プロセス
ハードウェアでは次機種に反映する
• しかしWebベースのサービスであれば、すぐに反映できる
• ちなみにA/Bテストはユーザビリティテストの一種であり(無
意味だとは決して言っていない)、UXの評価法ではない
31
UXの性質を理解して、適切
なUXをもたらす人工物を提
供しよう
32

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