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病棟チーム
スキルチェック勉強会
褥瘡の評価と実践
Assessment and Practice
of Pressure Ulcers
2018.11.06
亀田総合病院
PT 太田幸將
ota.kosho@kameda.jp
もくじ
・到達目標
・褥瘡のガイドライン
・褥瘡領域の職域
・褥瘡の有病率,発症率
・褥瘡の重症度,深達度
・リスクアセスメント
・褥瘡のリハビリテーション
・当院の運用
到達目標
・褥瘡のリスク因子が分かる
発生理由の推測が可能となります。
・関連項目のエビデンスが分かる
特にリハビリ関連+福祉用具に関して。
・当院採用のマットレスの理解
各マットレスの特性を知りましょう。
Guideline
ガイドライン
①日本褥瘡学会
褥瘡予防・管理ガイドライン (第4版)
②EPUAP、NPUAP、PPPIA
Prevention and Treatment of Pressure Ulcers:
Quick Reference Guide
③日本皮膚科学会
褥瘡診療ガイドライン(第2版)
褥瘡と褥創
瘡 創
・『褥そう』は切りキズのよう単純なものではなく、奥が深く、
トータルケアが必要な潰瘍である。
・したがって、日本褥瘡学会では、ヤマイダレの瘡が適切であると
理事会において判断した。(2001年 日本褥瘡学会)
リハビリに求められる役割
◆日本褥瘡学会による認定師制度
・医師、薬剤師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養師が対象。
多職種で同一の資格を目指す訳でなく、それぞれの資格に対応する領域の
知識や経験を問うもので、症例報告や学会発表をする必要がある。
・認定師制度に定められた事柄が、各職種に求められていると言い換えられる。
◆理学療法士/作業療法士
・褥瘡の予防計画 (危険因子の抽出、予防策の立案・実施・評価)
・褥瘡発生状況の推測とその対応 →リハビリのみ記載
・物理療法を専門とする場合は物理療法 (PT)
各職種の役割
◆看護師
・褥瘡の予防計画(危険因子の抽出、予防策の立案・実施・評価)
・褥瘡を有する患者の治療過程(創環境の整備、教育指導)
◆薬剤師
・褥瘡治療薬、創傷被覆材の選定
・薬効などの評価、副作用の抽出、薬剤管理指導など
◆管理栄養士
・栄養管理(いわゆる栄養ケアマネジメント)
◆医師
・褥瘡治癒過程 (保存的治療、外科的治療、その他)
◆理学療法士/作業療法士
・褥瘡の予防計画(危険因子の抽出、予防策の立案・実施・評価)
・褥瘡発生状況の推測とその対応
・物理療法を専門とする場合は物理療法 (PT)
褥瘡の定義
褥瘡の定義 日本褥瘡学会 2005年
「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは
停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に
陥り褥瘡となる。」
褥瘡の国際的定義 NPUAP-EPUAP 2009年
A pressure ulcer is localized injury to the skin and/or underlying tissue
usually over a bony prominence, as a result of pressure, or pressure
in combination with shear.
A number of contributing or confounding factors are also associated
with pressure ulcers; the significance of these factors is yet to be
elucidated.
施設区分ごとの保有率、発生率
日本褥瘡学会 療養場所別褥瘡有病率, 褥瘡の部位・重症度(深さ) 2015
施設区分 保有率 発生率(推定)
一般病院 1.99% 1.60%
一般病院* 2.20% 1.52%
大学病院 1.39% 1.16%
精神病院 0.46% 0.36%
小児病院 1.47% 1.89%
介護老人福祉施設 0.89% 0.62%
介護老人保健施設 1.27% 0.81%
訪問看護ST 2.61% 2.08%
*療養型病床を有する一般病院
院内発生褥瘡の保有部位
日本褥瘡学会 療養場所別褥瘡有病率, 褥瘡の部位・重症度(深さ) 2015 を改変(『その他』の扱い)
一般病院
①仙骨部 ■ 36.3%
②その他 ■ 21.4%
③尾骨部 ■ 14.2%
④踵骨部 ■ 10.4%
⑤大転子部 ■ 8.8%
⑥坐骨部 ■ 4.9%
⑦腸骨稜 ■ 4.0%
①仙骨部
②その他
③尾骨部
④踵骨部
⑤大転子部
⑥坐骨部
⑦腸骨稜
一般病院 :188施設
褥瘡保有者:1,386人
褥瘡の重症度分類
褥瘡の重症度 深達度
・深達度による分類は、1975年のShea分類に始まり、Campbell分類、
IAET分類などさまざまな方法が発表されている。
・日本では1998年の「褥瘡の予防・治療ガイドライン」において、
深達度をI度からIV度の4段階に分類する方法が考案された。
・その後、2008年改訂版 DESIGN-Rでは7段階評価となっている。
・国際的には米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel:
NPUAP)のステージ分類、ヨーロッパ褥瘡諮問委員会(European Pressure
Ulcer Advisory Panel: EPUAP)のグレード分類が一般的に使用される。
・NPUAPが他の分類と異なるのは、2007年の改訂時に追加された「DTI疑い」
・DTI(Deep Tissue Injury)は、皮膚に発赤がない、あるいは軽度の褥瘡に
見えても既に深部で損傷が起こっている状態。
褥瘡の重症度 深達度
DESIGN-R[Depth]
(2008)
NPUAP
(2007改訂版)
EPUAP
(1998)
d0
皮膚損傷・発赤なし
DTI疑い
圧力および/または剪(せん)断力によって生じる皮下軟部組織の損
傷に起因する、限局性の紫または栗色の皮膚変色または血疱。
d1
持続する発赤
ステージI
通常骨突出部位に限局する消褪しない発赤を伴う、損傷のない皮
膚。暗色部位の明白な消褪は起こらず、その色は周囲の皮膚と異
なることがある。
グレードI
損傷のない消褪しない皮膚の発赤。特に、より暗い皮膚を持つ人
においては、皮膚の色の変化、暖かさ、浮腫、硬結あるいは硬さ
は指標として使えるかもしれない。
d2
真皮までの損傷
ステージII
スラフ(黄色、黄褐色、灰色または茶色)を伴わない、赤色または
薄赤色の創底をもつ、浅い開放潰瘍として現れる真皮の部分欠損。
破れていないまたは開放した/破裂した血清で満たされた水疱とし
て現れることがある。
グレードII
表皮、真皮あるいはその両方を含む部分層皮膚欠損。潰瘍は表在
的で、臨床的には表皮剥離や水疱として存在する。
D3
皮下組織までの損傷
ステージIII
全層組織欠損。皮下脂肪は確認できるが、骨、腱、筋肉は露出し
ていないことがある。スラフが存在することがあるが、組織欠損
の深度が分からなくなるほどではない。ポケットや瘻孔が存在す
ることがある。
グレードIII
筋膜下には達しないが、皮下組織の損傷あるいは壊死を含む全層
皮膚欠損。
D4
皮下組織を越える損傷
ステージIV
骨、腱、筋肉の露出を伴う全層組織欠損。黄色または黒色壊死が
創底に存在することがある。ポケットや瘻孔を伴うことが多い。
グレードIV
全層皮膚欠損の有無にかかわらず、広範囲な破壊、組織の壊死、
あるいは筋肉・骨あるいは支持組織に及ぶ損傷。
D5
関節腔・体腔に至る損傷
U
深さ判定が不能な場合
判定不能
創底で、潰瘍の底面がスラフおよび/またはエスカー(黄褐色、茶
色、または黒色)で覆われている全層組織欠損。
褥瘡の重症度 深達度
表皮
真皮
脂肪組織
筋
骨
NPUAP 分類
褥瘡の深達度を表す分類。
米国褥瘡諮問委員会
(National Pressure Ulcer Advisory Panel;NPUAP)が1989年に提唱。
従来はステージI~IV に分類。
皮膚表面の損傷がなくとも、
深部で既に損傷が起っていることがある
という考え方から、
2007年のNPUAP 新分類を発表。
unstageable、suspectedが追加され、
6病期となった。
褥瘡の重症度 深達度
NPUAP-stage 1
DESIGN d1
【Category/stage I:消退しない紅斑】
通常、骨突出部に限局した領域の、消退しない発赤で無傷の皮膚。
暗い色素の肌では明らかな消退はないが、周囲の領域と色が違うことがある。
この領域は、周囲の組織と比較して疼痛、堅い/柔らかい、温かい/冷たいことがある。
カテゴリー1では、暗い色調の皮膚では検出が困難なことがある。
白くなれば → 『反応性充血』正常
赤いままなら →『I 度褥瘡』
発赤部分を3秒押す
①指押し法
②ガラス板圧診法
離す
褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)
推奨度C1 [行うことを考慮してもいいが十分な根拠がない]
褥瘡の重症度 深達度
NPUAP-suspected Deep Tissue Injury
深部組織損傷疑い – 深度不明
限局的な紫や栗色への変色や血疱は、圧や剪断による下層軟部組織の損傷による。
隣接組織と比較して、疼痛、硬結、脆弱、浸潤性で、熱感もしくは冷感が先行することがある。
深部組織損傷は、暗い肌の色調では検出が困難なことがある。
進行すると、暗い潰瘍部に薄い水疱ができることがある。潰瘍がさらに進行すると、薄いエスカーで覆
われる。進行は早く、適切な治療をしても組織の層はさらに露出することもある
褥瘡の重症度 深達度
NPUAP-stage 2
DESIGN d2
【Category/stage II:部分欠損】
黄色壊死組織(スラフ)でない創底が、赤ピンクの浅い開放潰瘍のある、真皮の部分欠損。
無傷、または開放/破裂した血清もしくは漿液で満たされた水疱を呈することもある。
スラフまたは、皮下出血*を伴わず、光沢や、乾燥した浅い潰瘍を呈する。
このカテゴリを、スキンテア、テープによる皮膚炎、失禁性皮膚炎、浸軟、表皮剥離の表現に
用いるべきではない。 *皮下出血は深部損傷褥瘡疑いを示す。
褥瘡の重症度 深達度
NPUAP-stage 3
DESIGN D3
【Category/stage III:全層皮膚欠損】
全層組織欠損。皮下脂肪が確認できる場合があるが、骨、腱、筋は露出していない。
組織欠損の深度が分からなくなることはないが、スラフ(黄色壊死組織)を呈す。瘻孔とポケットが存在す
ることがある。Category/Stage III褥瘡の深度は解剖学的な位置によってさまざまである。鼻梁、耳、
後頭、踝部は皮下組織(脂肪)を有さず、Category/Stage III褥瘡は浅い可能性がある。対照的に、著し
く脂肪のある領域では、Category/Stage III褥瘡は非常に深い可能性がある。骨や腱が視認、もしくは
直接に触知することはない。
褥瘡の重症度 深達度
NPUAP-stage 4
DESIGN D4-5
【Category/stage IV:全層組織欠損】
骨、腱や筋が露出した全層組織欠損。スラフ(黄色壊死組織)やエスカー(黒色壊死組織)を呈する場合が
ある。しばしば瘻孔やポケットを呈する。Category/stage IV褥瘡の深度は解剖学的な位置によりさまざ
まである。鼻梁、耳、後頭、踝部といった皮下組織(脂肪)を有さない部位の褥瘡は浅いことがある。
Category/stage IV褥瘡は、筋や支持組織(筋膜、腱、関節包)まで及ぶことがあり、骨髄炎や骨炎を引き
起こす。骨や筋は視認でき、直接触知できる。
褥瘡の重症度 深達度
NPUAP-unstageable
DESIGN U
Unstageable:全層皮膚または組織欠損 – 深度不明
全層組織欠損褥瘡の実際の深度は、潰瘍の底がスラフ(黄色、黄褐色、灰色、緑、茶色)やエスカー(黄
褐色、茶色、黒)により完全に不明瞭である。十分にスラフやエスカーが除去され、潰瘍の底が露出する
まで、正確な深度を特定することはできない。
しかし、Category/stageIIIか、IVのどちらかだろう。
踵に付着した安定した(発赤や組織の波動がなく、乾燥し固着した損傷が無い)エスカーは生体の自然
な(生物学的な)カバーの役割を果たすので除去すべきでない。
褥瘡の重症度 深達度の意義
立毛筋
毛包
毛根
【深達度と治癒期間】
毛包が残存する浅い褥瘡( I~II度)と、残
存しない深い褥瘡( III~IV度)で治癒過程
が異なる。
毛根の立毛筋付着部近傍には、表皮細胞
に分化できる細胞集団が存在する。
【浅い褥瘡】
表皮細胞が残存毛包と創周囲から遊走し
て創面全体から表皮化が起こり、1~2週間
で治癒する。
【深い褥瘡】
毛包が失われるため、創周囲からしか表
皮化が起こらず、治癒するまで数か月を要
する。細菌感染が起これば、さらに治癒は
遅れる。
褥瘡の重症度 深達度の意義
EPUAP/NPUAP
Category/stage2
DESIGN-R
Depth:d2
EPUAP/NPUAP
Category/stage3
DESIGN-R
Depth:D3
・真皮残存の有無がkey
・壊死に陥った深部組織 (皮下組織や筋組織など)が再生することはなく、
壊死組織が取り除かれた創面に肉芽組織が形成され、さらにそれが瘢痕組織
に変化することで治癒に至る (→褥瘡痕)
表皮
真皮
脂肪
筋
骨
深浅
risk assessment
Risk assessment tool
・Braden scale
一般的に用いる評価として推奨 推奨度B (褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
6-23点で採点。点数が低いほど
施設、在宅で17点以下、一般病院で14点以下がリスク
・OHスケール (大浦・堀田スケール)
寝たきり高齢者に使用しても良い 推奨度C1(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
1998年から3年間の厚労省長寿科学総合研究班による調査を基に
作成。0-10点で採点。
・K式スケール (金沢大学式褥瘡発生予測スケール)
寝たきり入院高齢者に使用しても良い 推奨度C1(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
braden scaleほどの経験や熟練を必要としない。
前段階要因、引き金要因で評価するため発生時期を予測できる
Braden scale
知覚の認知 1.全く知覚なし 2.重度の障害あり 3.軽度の障害あり 4.障害なし
圧迫による不快
感に対して適切
に対応できる能
力
痛みに対する反応(うめく、避ける、つかむ等)なし。
この反応は、意識レベルの低下や鎮静による、あるい
は体のおおよそ全体にわたり、錯覚の障害がある
痛みにのみ反する。不快感を伝える時には、う
めくことや身の置き場なく動くことしか出来な
い。あるいは、知覚障害があり、体の1/2以上
にわたり痛みや不快感の感じ方が完全ではない
呼びかけに反応する。しかし不快感や体
位変換のニードを伝えることが、いつも
できるとは限らない。あるいは、いくぶ
ん知覚障害があり、四肢の1,2本において
痛みや不快感の感じ方が完全ではない部
位がある
呼びかけに反応する。知
覚欠損はなく、痛みや不
快感を訴えることができ
る
湿潤 1.常に湿潤 2.たいてい湿潤 3.時々湿潤 4.めったに湿っていない
皮膚が湿潤にさ
らされる程度
皮膚は汗や尿などのために、ほとんどいつも湿ってい
る。患者を移動したり、体位変換するごとに湿気認め
られる。
皮膚は、いつもではないがしばしば湿っている。
各勤務時間中に少なくとも1回は寝衣寝具を交
換しなければならない
皮膚は時々湿っている。定期的な交換以
外に、1日1回程度、寝衣寝具を追加して
交換する必要がある
皮膚は通常乾燥している。
定期的に寝衣寝具を交換
すればよい
活動性 1.臥床 2.坐位可能 3.時々歩行可能 4.歩行可能
行動の範囲 寝たきりの状態である ほとんど、または全く歩けない。自力で体重を
支えられなかったり、椅子や車椅子に座る時は、
介助が必要であったりする
介助の有無にかかわらず、日中時々歩く
が、非常に短い距離に限られる。各勤務
時間中にほとんどの時間を床上で過ごす
起きている間は少なくと
も1日2回は部屋の外を
歩く。そして少なくとも
2時間に1回は室内を歩
く
可動性 1.体動なし 2.非常に限られる 3.やや限られる 4.自由に体動する
体位を変えたり
整えたりできる
能力
介助なしでは、体幹または四肢を少しも動かさない 時々体幹または四肢を少し動かす。しかし、し
ばしば自力で動かしたり、または有効な(圧迫
を除去するような)体動はしない
少しの動きではあるが、しばしば自力で
体幹または四肢を動かす
介助なしで頻回にかつ適
切な(体位を変えるよう
な)体動をする
栄養状態 1.不良 2.やや不良 3.良好 4.非常に良好
普段の食事摂取
状況
決して全量摂取しない。めったに出された食事の1/3以
上食べない。蛋白質・乳製品は1日2皿(カップ)分以
下の摂取である。水分摂取が不足している。消化態栄
養剤(半消化態、経腸栄養剤)の補充はない。あるい
は、絶食であったり、透明な流動食(お茶、ジュース
等)なら摂取したりする。または、末梢点滴を5日間以
上続けている
めったに全量摂取しない。普段は出された食事
の約1/2しか食べない。蛋白質・乳製品は1日3
皿(カップ)分の摂取である。時々消化態栄養
剤(半消化態、経腸栄養剤)を摂取することも
ある。あるいは、流動食や経管栄養を受けてい
るが、その量は1日必要摂取量以下である
たいていは1日3回以上食事をし、1食につ
き半分以上は食べる。蛋白質・乳製品を1
日4皿(カップ)分摂取する。時々食事を
拒否することもあるが、勧めれば通常補
食する。あるいは、栄養的におおよそ
整った経管栄養や高カロリー輸液を受け
ている
毎日おおよそ食べる。通
常は、蛋白質・乳製品を
1日4皿(カップ)分以
上摂取する。時々間食
(おやつ)を食べる。補
食する必要はない
摩擦とずれ 1.問題あり 2.潜在的に問題あり 3.問題なし
体動のためには、中等度から最大限の介助を要する。
シーツでこすれずに体を移動することは不可能である。
しばしば床上や椅子の上でずり落ち、全面介助で何度
も元の位置に戻すことが必要となる。痙攣、拘縮、振
戦は持続的に摩擦を引き起こす
弱々しく動く、または最小限の介助が必要であ
る。移動時、皮膚はある程度シーツや椅子、抑
制帯、補助具などにこすれている可能性がある。
たいがいの時間は椅子や床上で比較的よい体位
を保つことができる
自力で椅子や床上を動き、移動中十分を
支える筋力を備えている。いつでも、椅
子や床上で要体位を保つことができる
Braden scale
知覚の認知 1 脱失 2 重度の障害あり 3 軽度の障害あり 4 障害なし
湿潤 1
常に湿っ
ている
2
たいてい湿って
いる
3
時々湿っている
4
めったに湿っていない
活動性 1 臥床 2 座位可能 3 時々歩行可能 4 歩行可能
可動性 1
全く体動
なし
2
非常に限られる
3
やや限られる
4
自由に体動する
栄養状態 1 不良 2 やや不良 3 良好 4 非常に良好
摩擦とずれ 1
問題あり
2
潜在的に問題あ
り
3
問題なし
・点数は6~23点の範囲となり、点数が低いほど褥瘡発生のリスクが高くなる
・採点は活動性ないし可動性が2点、すなわち寝たきり状態になった時に始める
・急性期で48時間ごと、慢性期で1週間ごと、高齢者では入院後1カ月は1週間
ごと、状態に変化なければ3カ月に1回が適当とされる。
・カットオフ値は14~20点で幅がある。
一般に施設、在宅では17点以下、病院では14点以下が用いられる。
OHスケール(大浦・堀田スケール)
自力体位
変換能力
0点
できる
1.5点
どちらでもない
3点
できない
病的骨突出
(仙骨部)
0点
なし
1.5点
軽度・中等度
3点
高度
浮腫 0点 なし 3点 あり
関節拘縮 0点 なし 1点 あり
合計点 危険要因レベル 褥瘡発症率
選択すべき耐圧分散
マットレスのタイプ
0点 なし 発症は稀 …
1-3点 軽度 約25%以下 汎用でよい
4-6点 中等度 約26-65% なるべく高機能がよい
7-10点 高度 約66%以上 最初から高機能とすべき
・0点での発症は偶発性褥瘡
・1-10点は起因性褥瘡とされる。
K式スケール (金沢大学式褥瘡発生予測スケール)
・1998年、真田らによって初版発表。項目を精選し現在に至る。
・判定の基準が記載されているため熟練を要さず,2段階評価のため状態変化を
捉えやすいとされる。
・対象は日中のほとんどを床上で過ごす患者。
・前段階要因のない患者に褥瘡は発生していなかった。発生者には必ず前段階
要因がある。
・前段階要因では,危険点2点以上で感度78.9%,特異度29.0%
・引き金要因では,危険点2点以上で感度73.7%,特異度74.2%
・変化後1週間以内で発生に至った割合は,K式スケールで73%,ブレーデン
スケールで15%,K式スケールは短期の予測として有用
K式スケール (金沢大学式褥瘡発生予測スケール)
K式スケール(金沢大学式褥瘡発生予測スケール)の信頼性と妥当性の検討‐高齢者を対象にして‐ 日本褥瘡学会誌 3(1): 7-13, 2001.
厚生労働省「褥瘡対策に関する診療計画書」
危
険
因
子
の
評
価
日常生活自立度 J(1・2) A(1・2) B(1・2) C(1・2) 対処
基本的動作能力
ベッド上:自力体位変換
椅子上:座位姿勢の保持、除圧
□できる
□できる
□できない
□できない
「あり」「できない」
が1つでもある場合、
看護計画を立案し、実
施する。
病的骨突出 □できる □できない
関節拘縮 □なし □あり
栄養状態低下 □なし □あり
皮膚湿潤(多汗・尿失禁・便失禁) □なし □あり
皮膚の脆弱性(浮腫) □なし □あり
皮膚の脆弱性(スキン-テアの保有、既往) □なし □あり
・日常生活自立度がBまたはCの対象者に、危険因子評価票を用いた評価を実施。
・1つでも「あり」あるいは「できない」項目があれば看護計画を立案。
・危険因子のうち「浮腫(局所以外)」は、平成30年度診療報酬改定により、
「皮膚の脆弱性(浮腫)」「皮膚の脆弱性(スキン-テアの保有、既往)」へ
変更された。褥瘡の危険因子に「スキン-テア」が組み込まれた。
リスクファクターまとめ
↳ リスクファクターを知ることは,発生要因を推測することであり
対策を講じる第一段階
・年齢
・臨床的判断 (Clinical Judgement)
・知覚の認知
・皮膚の湿潤 (体温,多汗,失禁)、皮膚脆弱性 (浮腫,スキン-テア)
・活動性 (活動量,ADL)、介護力
・体位変換 (寝返り,座位除圧,疼痛,安静指示,抑制)
・栄養状態 (Alb3.0g/dL↓,TP6.0g/dL↓,食事摂取,体重減少,貧血)
・摩擦とずれ (頭部挙上)
・病的骨突出 (特に仙骨,円背)
・関節拘縮 (四肢拘縮,円背)
・マットレス
・基礎疾患(感染症,心不全,骨盤骨折,糖尿病,脊髄損傷,脳卒中,COPD)
褥瘡発生のリスク ガイドライン
・危険因子の基礎疾患として、うっ血性心不全、骨盤骨折、脊髄損傷、糖
尿病、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患などを考慮してもよい
推奨度C1(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
上記疾患は、複数の研究で有意差があった。
・低栄養の確認に、血清アルブミン値(炎症・脱水がなければ)、体重減少
率、食事摂取量、MNA-SF(高齢者)を用いてもよい
推奨度C1(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
アルブミン3.5g/dL以下で褥瘡発生のリスクが増加する。
食事摂取率50%以下でリスクが上昇する
rehabilitation
褥瘡のリハビリテーション関連 ガイドライン
・高齢者の座位におけるクッションは、体圧再分散クッション(B)
ダイナミック型クッション(C1)
推奨度C1-B(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
そもそも体圧再分散クッションは脊損患者に用いられる。それほどハイリスクということを再確認しましょう。
・自分で姿勢変換できない場合は、連続座位時間を制限する
推奨度B(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
具体的な制限時間は記載なし。元文献を引くと、2時間以上/未満で分類。対象は整形外科病棟へ入院した57名。
・円座は用いないよう勧められる
推奨度D(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
使用した全患者に褥瘡発生or悪化という症例報告
・できる患者は15分ごとに座位姿勢変換を行ってもよい
推奨度C1(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
研究論文はないが、WOCNガイドラインなどで推奨されている。
褥瘡のリハビリテーション関連 ガイドライン
・関節拘縮に対して他動運動を行ってもよい
推奨度C1(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
複数のRCT による研究があるものの介入によって関節拘縮を予防するまでの効果がみられていない。
発生リスクではあるが、褥瘡予防を目的としたROM練習は意味がないかもしれない。
・骨突出部へのマッサージはしないよう勧められる
推奨度D(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
いくつかのレビューがあるようで、皮膚温,皮下血流量の改善を認めるが、推奨できないとされる。
背景には豚の皮膚を擦ったあの研究もあるかもしれない。
褥瘡予防の体位変換 ガイドライン
・ベッド上では、2時間以内の間隔で体位変換を行うよう勧められる
推奨度B(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
2時間と3時間の間に差はないという調査もある。アセスメントに基づいて時間を決定する。
・体圧分散マットレスを使用する場合は4時間以内で体位変換
粘弾性フォームマットレス(B)、上敷二層式エアマットレス(C1)
推奨度D(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
基本的に海外の研究が多い。Depth:d1を除外している研究もあり注意を要する。
粘弾性:6時間でも差がないという報告(海外) 上敷:5時間では50%に発赤(国内:療養型)
NPUAP/EPUAP ガイドラインでは「体位変換の頻度は,患者および体圧分散マットレスによって変化する」と記載し,
WOCN のガイドラインでも,体圧分散マットレスを十分検討したうえでの体位変換時間の決定を推奨している。
・ベッド上では、30°側臥位、90°側臥位ともに推奨
推奨度B(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
姿勢と体位変換間隔の二項目に対する介入があり,どちらか一方の有意性を結論付けることはむずかしい。
30°ルールは殿筋が発達している必要があるので、やせ型の者には適さない可能性がある。
患者の協力も必要なので、患者の好みも考慮する必要がある。
褥瘡予防のマットレス ガイドライン
・体圧分散マットレスの使用を強く勧める
推奨度A(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
システマティック・レビューまたはメタ・アナリシスが8編ある。
いずれも標準マットレスにくらべて体圧分散マットレスのほうが褥瘡発生率は有意に低かった。
・リスクアセスメントツールを用いたアルゴリズムで体圧分散マットレスの選
択が強く勧められる。ブレーデンスケール(A),OHスケール(C1)
推奨度C1-A(褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版)
ブレーデンスケールに基づいて体圧分散寝具を選択した群の褥瘡発生のオッズ比は0.335(95% CI:0.220-0.508)で
あったと報告されている。
OH スケールをもとに作成した体圧分散マットレス選択基準の効果を検証したヒストリカル・コントロール研究があ
る。この結果,実験群の褥瘡発生率が有意に低かった(p <0.05)
褥瘡予防のポジショニング
◆30°ルール
①30°側臥位とする
背臥位では肩甲骨や仙骨部の圧が強くなってしまい、
側臥位では肩や大転子の圧が強くなってしまうため、
30°程度の側臥位が推奨されている。
②30°頭部、下肢挙上位 (ファウラー位)
身体のずり落ちや、仙骨部の圧を最小限にするため、
頭部挙上を30°以下に制限する。同時に、
頭部を挙上する前に大腿を30°程度挙上する。
*やせ型の者は個別に検討を要する。
**背抜きもする。
褥瘡予防のポジショニング
◆90°ルール 座位
①座位姿勢の際、耐圧分散と、ずれ予防のため、股・膝・足関節のいずれも
90°程度となるようクッションなどで調整する。
・同時に患者に合わせて、座位時間の制限、アライメントの調整を行う。
・患者に合わせて、ティルトリクライニングできる車いすも考慮。
【背抜き】
・ベッドや車いすなどから一時的に離
すことによって,ずれを解放する手技
物理療法 (専門である場合)
Clinical Question 推奨度 推奨文
発症前ケア 筋萎縮に対して C1 電気刺激療法を行ってもよい
保存療法
感染を有する褥瘡に対して C1 水治療法ならびにパルス洗浄・吸引
壊死組織を有する褥瘡に対して C1
水治療法ならびにパルス洗浄・吸引
ベッドに加振装置を用いてもよい
創の縮小をはかる場合 B 電気刺激療法
C1 近赤外線療法,超音波療法,電磁波刺激療法を
行ってもよい。
ベッドに加振装置を用いてもよい
当院での運用
体圧分散寝具 選択フローチャート
入院時
褥瘡危険因子評価
日常生活自立度
Bランク・Cランク
Braden scale
14点以下
自力で効果的な体位変換が可能
ウレタン系マットレス
マキシーフロート
BS[可動性] 3-4点
問題あり
問題なし
特別な問題なし
エバーフィット
自力で効果的な体位変換が困難
圧切換型エアーマット
アドバン・ネクサス
BS[可動性] 1-2点
※褥瘡領域における用語の特殊性
「活動性制限」
寝たきりまたは車いす生活であること
「可動性制限」
患者の運動頻度や移動能力の低下
byクイックリファレンス
確認テスト
・褥瘡発生のリスク因子は?
→これが発生理由の推測につながります。
・ポジショニングの方法は?
→さらに体位交換の頻度は?

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