SlideShare una empresa de Scribd logo
1 de 25
Descargar para leer sin conexión
まずは耐性菌のお話から・・・
世界中に薬剤耐性菌が蔓延
超多剤耐性菌の出現
次々に出現する耐性菌
1929年 ペニシリンの発見 Alexander
Fleming
1942年 ペニシリンの実用化
1961年 メチシリン耐性ブドウ球菌
(MRSA)
1983年 ESBL産生菌
1990年代 多剤耐性緑膿菌(MDRP)
2000年代 バンコマイシン耐性ブドウ球菌
耐性菌による死亡
EU 25,000人/年
米国 23,000人/年以上
タイ 38,000人/年以上
海の向こうの話?
いいえ、全く他人事ではありませ
ん!
http://sankei.jp.msn.com/life/news/1110
25/bdy11102514550002-n1.htm
0
10
20
30
40
50
60
アフリカ アメリカ ヨーロッパ 東地中海 東南アジア 東アジア
WHO global survey 2014
インドでは処方箋なし
でも抗菌薬を購入可能
ESBL産生大腸菌の割合(%)
0
2
4
6
8
10
12
アフリカ アメリカ ヨーロッパ 東地中海 東南アジア 東アジア
WHO global survey 2014
CRE(カルバペネム耐性大腸菌)の割合(%
停滞している抗菌薬の開発
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
1983-1987 1988-1992 1993-1997 1998-2002 2003-2007 2008-2012
承認された抗菌薬の数(米国)
Clin Infect Dis. 2013 Jun;56(12):1685-94
医療従事者がすべき5つの事 (WHO 2015
年)
① 手、器具、環境を清潔に保ち、感染を予防す
る。
・Preventing infections by ensuring hands, instruments and environment are clean.
② 最新のワクチンを接種する。
・Keeping patients’ vaccinations up to date..
③ 細菌感染が疑われたら培養をとる。
・When a bacterial infection is suspected, perform bacterial cultures and testing to
confirm
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/antibiotic-
resistance/en/
医療従事者がすべき5つの事 (WHO 2015
年)
④ 本当に必要な時にだけ抗菌薬を使用す
る。
・Only prescribing and dispensing antibiotics when they are truly needed.
⑤ 適切な抗菌薬を、正しい投与量と投与期
間で投与する。
・Prescribing and dispensing the right antibiotic at the right dose for the right duration.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/antibiotic-
resistance/en/
今の耐性菌時代において
抗菌薬適正使用は
全ての医療従事者にとっての責
務
でも抗菌薬の適正使用って何?
• 本当に必要な時にだけ抗菌薬を使用
• 感染臓器、原因微生物を想定して、適切
な抗菌薬を選択
• 適切な投与量、投与期間で投与
• 抗菌薬使用前に適切な培養を採取
適切な抗菌薬ってどうやって選ぶの?
感染臓器
患者背景
まず次の2つを考えます
患者背景
免疫不全
糖尿病
ステロイド、免疫抑制剤
耐性菌リスク
施設入所中
長期入院中
暴露歴
生肉の摂取歴
周囲に同症状
感染臓器
肺
尿路
胆道
髄膜
カテーテル
原因微生物の想定
患者背景感染臓器
微生物を想定
微生物学的検査
<グラム染色>
痰、尿、髄液
<迅速検査>
尿中抗原
CD毒素
抗菌薬を選択
まずは想定される微生物をカバー
経験的治療 Empiric therapy
培養の結果
血液培養、痰培養、尿培養
より適切な抗菌薬を選択
最適治療 Definitive therapy
培養の結果
血液培養、痰培養、尿培養
De-escalation
まずは想定される微生物をカバー
経験的治療 Empiric therapy
何故de-escalationをするのか?
効いているならそのままで良いのでは?
・耐性菌の出現
・有効性 MSSAに対してはVCM<CEZ
・副作用 CD腸炎、VCMの腎毒性など
・コスト
抗菌薬のコスト(1日あたり)
36574
11132 9882
8061 7152
5478
1576 1314 1140 452
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
40000
円
※全て先発品の価格。ジェネリックだと5~7割程度の価格になる
抗菌薬選択の原則
• できるだけ超広域抗菌薬は使わない
• βラクタム系(ペニシリン系・セフェム
系)を優先する
• 単剤で治療する
• 第3世代セフェム経口薬は使わない
超広域抗菌薬は使わない
<超広域ペニシリン
>
ゾシン
<カルバペネム系>
メロペン
フィニバック
ス
etc.
<抗MRSA薬>
バンコマイシ
ン
ザイボックス
etc.
耐性菌の温床
βラクタム系を優先する
(>_<)
ペニシリン系
セフェム系
細胞壁
(^_^)
真正細菌 ヒト細胞
細胞壁のないヒト
細胞には作用しな
い!
細胞壁合成
を阻害
副作用が少なく、効果が高い!
第3世代セフェム経口薬は使わない
一般名 商品名 生体利用率
セファクロル ケフラール® 93%
セフジトレン・ピボキシル メイアクト® 16%
セフカペン・ピボキシル フロモックス® 35%
セフポドキシム・プロキセ
チル バナン® 46%
生体利用率が低く、血中濃度が上がらない ⇒ 治療効果が低い
日本化学療法学会「抗菌薬適正使用生涯教育テキスト」
使えない
抗菌薬の選び方 前編 まとめ
• 抗菌薬適正使用は全ての医療従事者の責務
• 感染臓器、患者背景から原因微生物を想定する
• 想定される微生物をカバーする抗菌薬で初期治療を開始
• 培養結果に合わせてde-escalationして最適治療を行う
• できるだけ超広域抗菌薬は使わない
• βラクタム系(ペニシリン系・セフェム系)を優先する
• 第3世代セフェム経口薬は使わない

Más contenido relacionado

La actualidad más candente

抗菌薬と細菌について改訂版
抗菌薬と細菌について改訂版抗菌薬と細菌について改訂版
抗菌薬と細菌について改訂版Kuniaki Sano
 
カンジダ血症レビュー
カンジダ血症レビューカンジダ血症レビュー
カンジダ血症レビューKuniaki Sano
 
血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておく血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておくKuniaki Sano
 
感染症の基本10ヶ条
感染症の基本10ヶ条感染症の基本10ヶ条
感染症の基本10ヶ条Yoshihito
 
入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】
入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】
入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】NEURALGPNETWORK
 
研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編
研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編
研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編ochan78
 
抗菌薬をはじめからていねいに
抗菌薬をはじめからていねいに抗菌薬をはじめからていねいに
抗菌薬をはじめからていねいにhonoasa
 
Er:icuにおける薬剤師の目線
Er:icuにおける薬剤師の目線Er:icuにおける薬剤師の目線
Er:icuにおける薬剤師の目線Kuniaki Sano
 
ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師Kuniaki Sano
 
セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】
セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】
セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】NEURALGPNETWORK
 
カテコラミン類 基本の『き』
カテコラミン類 基本の『き』カテコラミン類 基本の『き』
カテコラミン類 基本の『き』Kuniaki Sano
 
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest GroupKiyoshi Shikino
 
バンコマイシンの新しいTDM
バンコマイシンの新しいTDMバンコマイシンの新しいTDM
バンコマイシンの新しいTDMochan78
 
輸液、基礎の基礎
輸液、基礎の基礎輸液、基礎の基礎
輸液、基礎の基礎daichi019
 
これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~
これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~
これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~Noriyuki Katsumata
 
Trauma conference 10th
Trauma conference 10thTrauma conference 10th
Trauma conference 10th敏雄 福岡
 
非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】
非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】
非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】NEURALGPNETWORK
 

La actualidad más candente (20)

抗菌薬と細菌について改訂版
抗菌薬と細菌について改訂版抗菌薬と細菌について改訂版
抗菌薬と細菌について改訂版
 
カンジダ血症レビュー
カンジダ血症レビューカンジダ血症レビュー
カンジダ血症レビュー
 
血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておく血液培養についてまとめておく
血液培養についてまとめておく
 
抗生剤一覧
抗生剤一覧抗生剤一覧
抗生剤一覧
 
感染症の基本10ヶ条
感染症の基本10ヶ条感染症の基本10ヶ条
感染症の基本10ヶ条
 
入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】
入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】
入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】
 
研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編
研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編
研修医さんのためのとりあえず抗菌薬入門・肺炎編
 
抗菌薬をはじめからていねいに
抗菌薬をはじめからていねいに抗菌薬をはじめからていねいに
抗菌薬をはじめからていねいに
 
Er:icuにおける薬剤師の目線
Er:icuにおける薬剤師の目線Er:icuにおける薬剤師の目線
Er:icuにおける薬剤師の目線
 
SAB
SABSAB
SAB
 
ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師ER/ICUの薬剤師
ER/ICUの薬剤師
 
セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】
セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】
セフェム・カルバペネム・モノバクタム系 抗菌薬 【ADVANCED2022】
 
カテコラミン類 基本の『き』
カテコラミン類 基本の『き』カテコラミン類 基本の『き』
カテコラミン類 基本の『き』
 
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
不明熱〜身体診察〜_General Medicine Interest Group
 
バンコマイシンの新しいTDM
バンコマイシンの新しいTDMバンコマイシンの新しいTDM
バンコマイシンの新しいTDM
 
輸液、基礎の基礎
輸液、基礎の基礎輸液、基礎の基礎
輸液、基礎の基礎
 
これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~
これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~
これからのがん医療 ~エビデンスやガイドラインにとらわれないがん医療~
 
Trauma conference 10th
Trauma conference 10thTrauma conference 10th
Trauma conference 10th
 
ステロイドの使い方
ステロイドの使い方ステロイドの使い方
ステロイドの使い方
 
非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】
非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】
非ICUでの人工呼吸器管理について【ADVANCED】
 

Destacado

2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効く
2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効く2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効く
2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効くsyokiken
 
間質性肺炎とステロイド
間質性肺炎とステロイド間質性肺炎とステロイド
間質性肺炎とステロイドkiyonet
 
分子標的治療薬~肺がん~
分子標的治療薬~肺がん~ 分子標的治療薬~肺がん~
分子標的治療薬~肺がん~ kiyonet
 
腎臓がんに対する分子標的薬
腎臓がんに対する分子標的薬腎臓がんに対する分子標的薬
腎臓がんに対する分子標的薬musako-oncology
 
2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療
2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療
2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療syokiken
 
カルボプラチン脱感作療法
カルボプラチン脱感作療法カルボプラチン脱感作療法
カルボプラチン脱感作療法musako-oncology
 
2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍
2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍
2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍syokiken
 

Destacado (9)

2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効く
2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効く2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効く
2017.3.24 市中肺炎にステロイドは効く
 
間質性肺炎とステロイド
間質性肺炎とステロイド間質性肺炎とステロイド
間質性肺炎とステロイド
 
分子標的治療薬~肺がん~
分子標的治療薬~肺がん~ 分子標的治療薬~肺がん~
分子標的治療薬~肺がん~
 
腎臓がんに対する分子標的薬
腎臓がんに対する分子標的薬腎臓がんに対する分子標的薬
腎臓がんに対する分子標的薬
 
2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療
2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療
2016.9.30 急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療
 
ステロイド(と、免疫抑制剤)の使い方 2015 update
ステロイド(と、免疫抑制剤)の使い方 2015 updateステロイド(と、免疫抑制剤)の使い方 2015 update
ステロイド(と、免疫抑制剤)の使い方 2015 update
 
カルボプラチン脱感作療法
カルボプラチン脱感作療法カルボプラチン脱感作療法
カルボプラチン脱感作療法
 
2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍
2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍
2017.1.20 ステロイドと胃潰瘍
 
SlideShare 101
SlideShare 101SlideShare 101
SlideShare 101
 

抗菌薬の選び方 前編 ~抗菌薬適正使用とは何なのか~

Notas del editor

  1. キュビシン 13530、タゴシッド 11024、 ABPC/SBT 2535(1140)、CPZ/SBT 2002(1074)、