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第26回日本外傷学会総会/2011.5.24




重症外傷症例における輸血コンポーネントの検討



  独立行政法人国立病院機構 別府医療センター 救急科
              鳴海 篤志
   背景


 大量出血は、外傷死亡の原因のひとつ。
 重症外傷患者に対する大量輸血プロトコール
 (MTP:Massive Transfusion Protocols)について
 の報告は多い。
 RCC : FFP : PC の“最適な比率”について
 は・・?
   初療におけるPreventable trauma deathの要因
                   (千葉県交通事故調査委員会報告書;平成18
                   年)


   治療方針決定の遅れ、優先順位の誤り

   放射線治療や手術実施の遅れ

   呼吸管理:気管挿管・胸腔ドレナージの遅れ

   循環管理:初期輸液量不足、輸血開始の遅れ、輸血量不
足
   輸血開始時期 : 生存例/死亡例
        2009年1月~12月        搬入から24時間以内に輸血が行われた多発外傷



                                        RCC開始        FFP開始
      年齢        ISS*           Ps
                                         (分)          (分)

生存
   62.8±9.4   36.7±4.1     80.2±13.7   52.8±26.3    117.5±70.4
4例

死亡
   70.7±8.5   45.2±7.8     34.8±22.9   185.5±72.7   271.3±93.6
4例

              (P=0.0036)
                                 (第24回日本外傷学会総会/2010.5.28)
   方法
対象:
 2009年1月~2011年12月の3年間に、
当センターに搬入された多発外傷で、
受傷から24時間以内に10単位以上の輸血が行われた
 多発外傷症例

検討項目
  総輸血量
  FFP:RCC
  FFP+PC:RCC
  ISS
  TRISS法による予測生存率(Probability of survival;
Ps)
   当センターにおける多発外傷


救急搬送件数       6,248 件/3年間(2082.7件/
年)
 多発外傷(AIS≧3, 2部位以上)       42 例(14例/
年)除外:搬入時CPA、広範囲熱傷
     受傷後24時間以内に10単位以上輸血             17
例
                     検討対象           17例
   検討症例 : 17例


                     性別
          年齢         (M/F       ISS           Ps*
                      )
                                           0.4~97
生存        36~86               20~66
                      9/5                 (59.9±32.6
14例    (70.1±13.5)          (34.4±12.2)
                                              )

死亡      36~79                41~57         0.8~12.2
                      1/2
3例    (59.0±17.7)           (48.7±6.5)     (7.3±4.8)

                             (P=0.0086)   (P=0.0014)
   各症例の輸血量とコンポーネント
              RCC   FFP         PC
100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

    0
        死亡例               生存例
輸血量:死亡例/生存例
       50
(単位)
       45
       40
       35
       30
       25
       20
       15
       10
        5
        0
              死亡例         生存例
            46.7±39.5   22.9±14.1   (P=0.073)
   RCC : FFP      死亡例/生存例

       1

      0.8

      0.6

      0.4

      0.2

       0
               死亡例           生存例
            1:0.72±0.39   1:0.93±0.41   (P=0.44)
   RCC : FFP+PC         死亡例/生存例
     1.2

      1

     0.8

     0.6

     0.4

     0.2

      0
              死亡例            生存例
           1:0.90±0.58    1:1.10±0.53   (P=0.56)
   輸血コンポーネントとPs

                 2.5


                  2
    FFP+PC/RCC




                 1.5


                  1


                 0.5


                  0
                       0   20   40        60   80   100
                                     Ps
   重症外傷におけるMTPに求められる要
件

       適応症例?
       開始時期?
       使用製剤?   RCC : FFP : PC
       投与速度?
       目標値?
   結 語

   死亡例は、生存例よりもPs値が有意に低かった。

   輸血量は、死亡例に多く、
     RCC:FFP、RCC:FFP+PCは、生存例に高い傾
    向があったが、有意差はなかった。

   MTPに関するガイドライン作成のための、他施設
    共同研究が必要では?

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2012外傷総会・輸血コンポーネント

  • 2. 背景  大量出血は、外傷死亡の原因のひとつ。  重症外傷患者に対する大量輸血プロトコール (MTP:Massive Transfusion Protocols)について の報告は多い。  RCC : FFP : PC の“最適な比率”について は・・?
  • 3. 初療におけるPreventable trauma deathの要因 (千葉県交通事故調査委員会報告書;平成18 年)  治療方針決定の遅れ、優先順位の誤り  放射線治療や手術実施の遅れ  呼吸管理:気管挿管・胸腔ドレナージの遅れ  循環管理:初期輸液量不足、輸血開始の遅れ、輸血量不 足
  • 4. 輸血開始時期 : 生存例/死亡例 2009年1月~12月 搬入から24時間以内に輸血が行われた多発外傷 RCC開始 FFP開始 年齢 ISS* Ps (分) (分) 生存 62.8±9.4 36.7±4.1 80.2±13.7 52.8±26.3 117.5±70.4 4例 死亡 70.7±8.5 45.2±7.8 34.8±22.9 185.5±72.7 271.3±93.6 4例 (P=0.0036) (第24回日本外傷学会総会/2010.5.28)
  • 5. 方法 対象: 2009年1月~2011年12月の3年間に、 当センターに搬入された多発外傷で、 受傷から24時間以内に10単位以上の輸血が行われた 多発外傷症例 検討項目 総輸血量 FFP:RCC FFP+PC:RCC ISS TRISS法による予測生存率(Probability of survival; Ps)
  • 6. 当センターにおける多発外傷 救急搬送件数 6,248 件/3年間(2082.7件/ 年) 多発外傷(AIS≧3, 2部位以上) 42 例(14例/ 年)除外:搬入時CPA、広範囲熱傷 受傷後24時間以内に10単位以上輸血 17 例 検討対象 17例
  • 7. 検討症例 : 17例 性別 年齢 (M/F ISS Ps* ) 0.4~97 生存 36~86 20~66 9/5 (59.9±32.6 14例 (70.1±13.5) (34.4±12.2) ) 死亡 36~79 41~57 0.8~12.2 1/2 3例 (59.0±17.7) (48.7±6.5) (7.3±4.8) (P=0.0086) (P=0.0014)
  • 8. 各症例の輸血量とコンポーネント RCC FFP PC 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 死亡例 生存例
  • 9. 輸血量:死亡例/生存例 50 (単位) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 死亡例 生存例 46.7±39.5 22.9±14.1 (P=0.073)
  • 10. RCC : FFP 死亡例/生存例 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 死亡例 生存例 1:0.72±0.39 1:0.93±0.41 (P=0.44)
  • 11. RCC : FFP+PC 死亡例/生存例 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 死亡例 生存例 1:0.90±0.58 1:1.10±0.53 (P=0.56)
  • 12. 輸血コンポーネントとPs 2.5 2 FFP+PC/RCC 1.5 1 0.5 0 0 20 40 60 80 100 Ps
  • 13. 重症外傷におけるMTPに求められる要 件  適応症例?  開始時期?  使用製剤? RCC : FFP : PC  投与速度?  目標値?
  • 14. 結 語  死亡例は、生存例よりもPs値が有意に低かった。  輸血量は、死亡例に多く、 RCC:FFP、RCC:FFP+PCは、生存例に高い傾 向があったが、有意差はなかった。  MTPに関するガイドライン作成のための、他施設 共同研究が必要では?